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ブランディングの専門家が語る、コロナ不況に打ち勝つ方法(1)

コロナ不況を乗り越えるヒントが「富士フイルムの化粧品“アスタリフト”」にある理由

松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター
コロナ不況を乗り越えるヒントが「富士フイルムの化粧品アスタリフト」にある理由の画像1
富士フイルムのロゴ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 みなさん、はじめまして。元グラフィックデザイナーで、現在はブランディング専門家として活動している松下一功と申します。

 今回の新型コロナウイルスの影響で、大規模な経営難に陥ったさまざまな業界から悲鳴が上がっています。確かに、活動自粛の終わりがいつ来るのかわからない今、何をどうしたら明日を生き延びることができるのかわからず、不安でいっぱいになってしまうのは当たり前のことでしょう。

 しかし、ブランディングの視点から見ると、今回のコロナ問題は、自分たちがさらなる成長ができるかできないかを分ける、大きな分岐点と見ることもできます。私がこれまで培ってきた知見をもとに、コロナ危機を乗り越えるヒントをお伝えしましょう。

不況の波は周期的にやって来る

 長い歴史を振り返ると、私たち人間は戦争や飢饉に恐慌などのさまざまな問題を乗り越えてきました。近年で言うと、1990年代初頭のバブル崩壊、2008年のリーマン・ショック、それに次ぐ11年の東日本大震災。そして、20年の新型コロナウイルス問題。これらの流れから、大きな不況の波は周期的に訪れていることがわかります。

 近年の不況は、どれも大きな犠牲を払わざるを得ない出来事でしたが、私たちはそれをひとつずつ乗り越えてきました。なのに、なぜ今回の新型コロナウイルス問題がこんなにも恐ろしいのかというと、相手が未知のウイルスだからでしょう。

 得体の知れない敵を恐れる気持ちは十分わかりますが、ここで一旦、視点をマクロにしてみてください。

 そもそも、なんの変化もなく、永遠に売れ続ける商品はありません。同様に、なんの変革もせずに、右肩上がりに成長し続ける企業は存在しません。さらに、今までの歴史から見て、不況は周期的にやって来ます。この不測の事態に柔軟に対応し、リブランディングした企業がさらなる成長を果たせるのです。

 新型コロナウイルス不況を今世紀最大の大事件と捉えずに、周期的にやって来るひとつの不況の波と捉えてみると、恐怖心が少しは和らいできませんか?

 そう、今の私たちは、見たことのない敵におびえているだけ。これまでいくつもの困難が襲ってきても柔軟に対応して乗り越えてきた私たちに、対処できないはずがないとは思いませんか?

 そこで、コロナ不況で明日が見えないと嘆く方々のために、リブランディングで不況を乗り越え、大きく成長した企業の例をご紹介しましょう。

大胆な事業転換で危機を乗り越えた富士フイルム

 今から20年前の00年頃、写真・映像業界には暗雲が立ち込めていました。それまでは「写ルンです」のようなフィルム写真が一般的でしたが、外資系のコダックが開発したデジタルカメラ技術が普及し、フィルムカメラからデジタルカメラへと市場が変化し始めたためです。

 カメラ業界では各社でデジタルカメラの開発を余儀なくされましたが、第一線を走っていたコダックに後れを取るのは目に見えています。さらに、写真のフィルム事業をメインとしていた富士フイルムでは、フィルムが不要となると、事業が立ち行かなくなることが簡単に予想できます。

 そこで、富士フイルムは00年に経営者を新しくしました。フィルム不況の到来について「今の富士フイルムは、車が売れなくなったトヨタ自動車のようなものだ」と説明し、変化を恐れずに大胆な行動に出たのです。

 リブランディングのきっかけは、富士フイルムが持っていた2000ものフィルム用化学物質の技術力。これらに着目して、医療・LCD・半導体・IT事業をスタートさせました。そして、08年には富士フイルムの代名詞とも言える「アスタリフト」という化粧品ブランドを立ち上げ、化粧品事業にも本格参入しました。

 もともと、富士フイルムのフィルムは人の肌の色の再現力が高いと有名でした。実際に私も、モデル撮影をする際に富士フイルムのフィルムが使われているシーンを何度も見てきました。

 写真の分野で培ってきた「人肌再現力」と、それをフィルムに美しく写し出す「溶剤技術」を武器に、化粧品というまったく新しい分野にフィールドを変えたのです。

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 写真のフィルムから化粧品へと扱う商品は大きく変わりましたが、富士フイルムのモノづくりに対する意識は変わっていないと思います。どちらの商品をつくるに当たっても、根本にあるのは「人の肌を美しく見せたい」という心意気でしょう。

 そのような信念・根本価値があったからこそ、アスタリフトはアンチエイジング化粧品としての地位を確立し、世の女性たちに広く受け入れられているのだと思います。

 また、09年1月6日の読売新聞には、富士フイルムの写真フィルム部門の売上高は会社全体の売上高の5%にも満たないと書かれていました。たったの10年ほどで、約2750億円から約300億円にまで激減してしまったのです。

 もし、フィルム事業からの転換を図らなければ、富士フイルムはどうなっていたのでしょうか?

 一方のコダックは、世界で初めてデジタルカメラを開発していながら、デジタルカメラの普及に伴うフィルム市場の衰退にあらがえず、12年に倒産してしまいました。

 富士フイルムのように、不況を恐れずにリブランディングを図って事業のフィールドを変更することを、私は「トランスフォームブランディング」と名付けました。永遠に変化しないポリシーや価値を持ちながら、それを時代の変化に合わせた形へ変えることを意味します。そして、このトランスフォームブランディングこそ、今、私たちを襲っている新型コロナウイルス不況を乗り越えるヒントだと考えています。

 次回は、私がブランディング専門家の立場から、コロナ不況の乗り越え方として提唱しているトランスフォームブランディングについてご説明しましょう。

(松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター)

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