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厚生労働省、今さらドライブスルーPCR検査実施の裏事情…抗体検査は有効なのか?

文=兜森衛
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抗体検査キット

 厚生労働省がようやく「ドライブスルー方式」でのPCR検査の実施を認める事務連絡を全国に出した。「事務連絡」といえば聞こえはいいが、早い話は自治体への「丸投げ」である。4月22日の江戸川区を皮切りに、ぽつりぽつりと検体採取用のテントが設けられ、それぞれ1日10検体くらいだった検査が、これにより2倍から3倍に増えるという。

 その結果が、今後の日本の新型コロナウイルス新規陽性者数に、果たしてどのように跳ね返るのだろうか。明らかに後手後手に回った末の追認だが、これまでPCR検査をもっと増やすべきだと批判してきた、医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は、厚労省の方針転換をこう断ずる。

「アベノマスクと一律10万円給付で政府が叩かれている間に、厚労省は猛烈な勢いで方向転換しようとしているんです。だから、東京都の患者数も急に増えてきた。PCR検査は安倍総理がいくら言ってもやらなかったけど、日本医師会が言い出したらすぐにやりましたからね。厚労省は医師会にはお世話になるからです。結局、緊急事態宣言の効果が全然測定できず、日本は感染をコントロールできない状態だと、自分たちで世界中にアナウンスしているようなもんです。厚労省の連中は姑息です。官邸の対策室の指揮官が加藤厚労相から西村経済再生担当相にシフトしたので、自分たちが表に出なくてよくなったからです」(上氏)

 そう。やろうと思えば「ドライブスルー方式」などいつでもできたのだ。ただ、やる気がなかっただけの話だ。だから、やる気になればなんでもできる。英国やドイツ、米国がPCR検査に加えて実施している、新型コロナウイルスの抗体検査の早期実施も検討中で、早ければ4月中にも結論を出すというから驚きだ。このウイルス抗体検査も、上氏は3月下旬から試験的に勤務先のクリニックで実施してきた。抗体検査について、上氏はこう解説する。

「PCR検査は今、患者さんの体にウイルスがいるかいないか、感染しているかどうかを調べるための検査です。抗体検査というのは、病気が治った人が血液中に持っている物質(抗体)を調べるための検査です。両方とも感染症対策の基本なので、たとえば、はしかの場合は抗体があればワクチンを使わなくていいですよと、そういうかたちで使われている基本的な検査なんです。

 でも、検査の系を確立するうえで、圧倒的に簡単なのはPCR検査です。抗体検査の場合は抗体を見つけるための物質(抗体)を見つけるのに時間がかかるからです。PCR検査は遺伝子の配列がわかれば即座に始まるんですが、抗体検査をするにはけっこう時間がかかります。今もいい抗体を見つけるための抗体を世界中が一生懸命探している。世界中でいろんな抗体検査キットがつくられ、そのなかで最もフィットするものが、最後に普及する抗体検査キットになります。

 抗体検査は臨床的な検査法であるだけではなく、統計学的な手法で感染者の割合を推計するためにも有効です。すでに、新型コロナウイルスの感染者が人口のどれくらいの割合なのかを推計するため、人々の血液に含まれる抗体を調べる大規模な検査が、アメリカの西部カリフォルニア州で始まっています。血液に含まれる抗体の有無を調べることで、その人が過去にウイルスに感染したことがあるかを調べるためです」(同)

米ニューヨーク州は270万人が感染?

 アメリカでは西部カリフォルニア州に続き、感染の中心地となっているニューヨーク州でも、州全体でどれだけの人が抗体を持っているかを調べるため、20日から無作為に選んだ被験者3000人に抗体検査を実施。クオモ知事は23日の記者会見で、初期段階の検査の結果、3000人の13.9%に抗体が確認されたと発表した。ニューヨーク州では22日現在26万3000人の感染が確認されており、クオモ知事は州全体の人口から推計すると、13.9%は270万人にあたるとして、把握されているより感染が広がっている可能性を指摘した。

「アメリカのカリフォルニアでは、抗体陽性率が4%でしたっけ。ドイツの人口1万2000人の村で住民500人に抗体検査を行ったら、住民の7人に1人が抗体を持っていた。感染率は15%だったそうです。ネックは抗体を測定する検査キットの精度です。WHOが抗体測定に懐疑的なのも、そのためです。検査キットの精度が悪ければ、本当は抗体があるのに見逃したりするので、今の段階であまり確定的なことは言えないのです。でも、いい抗体が出るまで待つか、それともどんどんやるか。今、欧米では検査の限界もわかった上で、今やれる抗体検査を積極的にやっていこうとしているんです」(同)

 上氏が勤務するクリニックでは、抗体検査を医療関係者に試験的に実施している。

「医療従事者の方々を中心に、どうされますかと声をかけたら、ほぼ全員が検査を希望しました。検査キットは日本のKURABOが中国から輸入しているものです。検査はイムノクロマト法といって、検査キットに採血した血液と試薬をたらして、15分待つだけで結果が出ます。感染初期なら免疫グロブリンM、回復していれば免疫グロブリンGが陽性になるんですが、この検査キットは免疫グロブリンMの検出精度の評判が悪いので、免疫グロブリンGの検査しかしていません。これが陽性なら治ったということです。

 子どもの頃、インフルエンザで学校を休んだら、治っても医者の治癒証明がないと登校できなかったでしょ。それと同じなんです。だから、欧米諸国は抗体検査を導入して、治った人から活動を再開させようとしている。その根拠は、中国で重症肺炎になった患者10人に、治った人の『血漿』(けっしょう/血液成分)を輸血したら治ったこと。つまり、治った人の血液中に免疫物質があるのは間違いないんです。だから今、世界中の巨大製薬企業が回復した人たちの血液の争奪戦を繰り広げている。日本の武田薬品工業もそのひとつです」(同)

コロナ回復者の血液を集める武田薬品

 武田薬品工業は2018年暮れ、アイルランドの製薬大手シャイアーを日本のM&Aで過去最高額の460億ポンド(約6兆8000億円)で買収したが、いよいよその真価が問われている。血液製剤最大手のシャイアーのノウハウを駆使し、新型コロナウイルスから回復した人たちの血液を集めているからだ。

 武田が開発する治療薬は、新型コロナウイルスに感染して回復した人の血液の中にある血漿成分から、抗体を含む「免疫グロブリン」と呼ばれる成分を抽出して精製する。そのためにも、回復患者からいかに血漿を集め、いかに早く治験に入るかが開発の鍵となる。

 PCR検査に加えて抗体検査にもゴーサインを出した厚労省。国産、輸入なども含めれば検査キットはまだまだ玉石混淆だが、厚労省は日本赤十字社の協力のもと、献血用の血液を使って、抗体検査キットの精度試験を開始した。

 さらに、感染初期でまだ抗体ができる前でも、新型コロナウイルスのタンパクの有無でいち早く感染を確認できる抗原検査も実施するという。ここはPCR検査と同様に、抗体検査、抗原検査も「ドライブスルー方式」でスピーディーにお願いしたいものだ。

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