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千葉・流山市、駅前「送迎保育ステーション」で待機児童解消へ…住みたい街上位に浮上

文=小川裕夫/フリーランスライター
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「Getty Images」より

「いくら保育所を整備しても待機児童問題は解消できない。むしろ、保育所の整備計画を発表すると、たくさんの若い夫婦が引っ越してきて、待機児童が増えてしまうこともある」

 数年前、待機児童問題を取材していた際に、ある東京23特別区の職員はそう嘆いた。この問題が解消しない理由は多岐にわたるが、男女共働き世帯が増えたことが一因にある。特に働く母親が増えたことは保育所需要を一気に跳ね上げたが、保育所整備に着手してこなかった行政の怠慢にこそ原因がある。

 だが、行政が保育所を開設したくても、一自治体の裁量だけではどうにもならない。まず、東京都内では保育所を開設できるような土地がない。駅前などの商業地は高価なため、とても手が出せない。かといって住宅地は、「園児の声がうるさい」「送迎バスが住宅街の細い道路を走るのは危険だ」という苦情や反対があるために、これも難しい。

 保育所で働く保育士が集まらないという理由も重なる。保育士の月給は勤務10年以上のキャリアでも手取り20万円を切る。そうした待遇の悪さも手伝って、保育士不足は深刻化している。また、出産などを機にいったん退職してしまった保育士が、子育てが終わった数年後に保育士として職場復帰することも少ない。他のアルバイトなどのほうが時間に融通がきき、時給も悪くないケースも多いからだ。

 保育士を取り巻く処遇はあまりにも劣悪で、そのために保育士資格を持つ人でも保育士にならない。いわゆる潜在保育士もかなりの数に上っている。潜在保育士をなんとか現場復帰できるような環境整備を進める千代田区や江戸川区といった自治体も出てきているが、まだ多くの自治体に広がっていない。

 待機児童問題が泥沼の様相を呈した2019年末、厚生労働省は年間の出生数を発表。その数が86万人だったことに衝撃が走った。政府はいずれ年間90万人を割ると推定していたが、出生数減少のスピードは予想以上に速かった。ある県の職員は、こう話す。

「これまで待機児童問題を解消させるために、行政は保育所整備に追われていました。若い世帯が流入することは自治体にとって歓迎すべき話ですが、保育所を増設しても税収がすぐに増えるわけではありません。そのため、保育所整備は重い負担になっていたのです。しかし、出生数が100万人を割り、いよいよ危機感が強くなってきたこともあり、ここ2〜3年で自治体の姿勢もがらりと転換しています」

 実のところ、地方自治体はこれまで若い世帯の取り込みには消極的だった。なぜなら、若い世帯は休日に自動車で出かけることも珍しくなく、そのために地元に金を落とさない。自動車を保有していない都市圏の場合は、鉄道を使って移動する。同じく地元経済に貢献しない。そうした理由から、地方自治体は比較的生活に余裕のある高齢者層、いわゆる団塊の世代をターゲットにしてきた。

 しかし、団塊の世代も購買力を失っている。そうした背景から、自治体は若い世帯の取り込みに方針をシフトさせざるを得なくなったが、容易ではなく、多くの地方自治体が手を打ちあぐねている。

流山市に自治体関係者たちが注目

 そうしたなか、地方自治体関係者が注目している自治体として口を揃えるのが、千葉県流山市だ。2005年につくばエクスプレスが開業して一躍、流山市は30~40代の世帯から注目を浴びるようになった。つくばエクスプレスに乗れば、東京都心部まで鉄道一本で移動できる。それが強みになり、子持ち世帯が一気に増加したのだ。

 小さな子持ち世帯が増加すれば、当然ながら保育所の整備が必要になる。そこで流山市は保育所を開設する策も打ち出した。それが、駅前への送迎保育ステーション開設だ。

 通常、保育所は保護者である父母が朝に園まで送り、夕方に迎えに行く。そのため、家の近くの保育所に預けるのが一般的だった。しかし、父母が共に会社勤めだと、そうはいかない。駅前に保育所があれば、通勤途中に子供を預ける、退勤時に子供を迎えに行くことができる。

 こうした理由から駅前に保育所を開設している自治体もあったが、駅前は当然ながら土地代が高くなる。そのため、簡単に保育所を開設できない。開設できても小規模な保育所になる。預けられる定員が少ないため、待機児童を解消する抜本的な政策にはなり得なかった。

 また、最近の不動産会社は効率重視の観点から大規模な集合住宅を固めて建設する傾向にある。大規模マンションが3〜4棟できれば、子育て世帯が一気に100世帯増えてしまうことはザラだ。子育て世帯が同じ地域に増えれば、保育所を1、2カ所つくっても待機児童が発生してしまう。一方、そうした大規模集合住宅のないエリアは、保育所を開設しても入園希望者が集まらない。流山市の送迎保育ステーションは、そうした偏在をなくす取り組みとしても注目されている。

「流山市はつくばエクスプレスの南流山駅と流山おおたかの森駅に送迎保育ステーションを開設しています。2つの送迎保育ステーションにはバスが計8台配置されており、そのバスに乗って園児たちは登園・降園するシステムになっています」と話すのは、流山市子ども家庭部保育課の担当者だ。

 保護者は通勤前に駅前に開設された送迎保育ステーションに子供を預けるだけで済むため、通勤・退勤時の送り迎えが楽になる。流山市が導入した送迎保育ステーション方式は子育て世帯にとって、時間と手間の2つを解消させた。

行政側にもメリット

 送迎保育ステーションは保護者にメリットがあるだけではなく、行政にとってもプラス面が多い。行政の悩みは、地域によって入所園児の偏在が生じてしまうことだった。送迎保育ステーションのバス登園・降園が実現したことで、保育所を効率よく配置できるようになった。これにより行政は保育所を開設する場所を選べる余地が生まれた。「園児の声がうるさい」といったクレームが出る閑静な住宅街を避けることも可能になった。また、不動産価格の低いエリアに保育所を開設できるため、自治体財政の負担も軽減した。

 こうした子育て支援策への取り組みによって、流山市は今や住みたい街ランキングでも上位の常連になりつつある。子育て支援が手厚いという評判が広がったことで、「自治体にとって、子育て支援策を充実させたほうがプラスだという空気が出てきた」(前出・県職員)と言う。

 政府や地方自治体の次の一手が待たれる。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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