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阿部誠「だまされないマーケティング…かしこい消費者行動:行動経済学、認知心理学からの知見」

ペプシの革新的コーラ「CRYSTAL PEPSI」は、なぜ1年で販売中止に?

文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
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 そこで「透明」と結び付きの強い言葉、たとえば「天然水」で意味付けをしてやると、それが「適度な不一致」に変わって、「透明なコーラもありだよね」と消費者が感じるようになるのです。

 このような「意味付け」のことを心理学の専門用語では「イネーブラー」と呼びます。イネーブラー(今回は「天然水」)は、革新的な機能・特徴(今回は「透明」)の存在を意味的に肯定することによって、「天然水ならばコーラでも透明である」というカテゴリー一貫性をもたらします。これを示したものが下の図です。

ペプシの革新的コーラ「CRYSTAL PEPSI」は、なぜ1年で販売中止に?の画像4

ビタミン入りコーヒーはあり? なし?

 カナダのヨーク大学のノーズウォーティーらは「ビタミン入りコーヒー」という、一般的なスキーマと完全に不一致な製品に対するイネーブラーの効果を検証しました。このとき、彼らがイネーブラーとして用いたのは「色」でした。ビタミンは野菜と意味的に強い結び付きがあるため、彼らは野菜の「色」をイネーブラーとして使ったのです。

 実験では、ビタミン入りコーヒーとして緑、赤、黒のコーヒーを用意し、それぞれの製品の評価(受容度)を測定することにより、イネーブラーとしての「色」が不一致度を和らげるかを検証したのです。

 その結果、黒いビタミン入りコーヒーは通常のコーヒーと比べて評価が有意に低かったのですが、緑や赤のコーヒーではビタミン入りコーヒーのほうが、通常のコーヒーよりも評価が高くなりました(下図)。つまり、ビタミンと意味付いた色である緑や赤をイネーブラーとして提示することによって、コーヒーにビタミンも「あり」だと理解が促進されたのです。

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 革新的新製品が既存カテゴリーと「極端な不一致」をもたらす可能性のある場合、消費者の理解、受容を高めるために企業には2つの選択肢があります。一つは、ここで説明したように適切なイネーブラーを提示することです。CRYSTAL PEPSIが天然水からつくられていれば、消費者は受け入れていたかもしれません。

 イネーブラーは、製品コンセプトの説明、広告に含めるメッセージ、製品そのものに関する材料・素材、色や形状などのデザインなど、さまざまな形態をとりえます。

 もう一つは、そもそも「極端な不一致」を生み出さない他のカテゴリーや新しいカテゴリーの製品として売り出すことです。たとえば、CRYSTAL PEPSIの商品名を変えて、Cokeとではなく7UPやスプライトなど、はじめから透明な飲料と競合させることです。

(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)

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