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高橋篤史「経済禁忌録」

旧村上ファンド・村上世彰氏、連敗…“伝家の宝刀”が錆び付いていたことが露見

文=高橋篤史/ジャーナリスト
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芝浦機械株式会社 HP」より

 ここにきて村上世彰氏の不人気ぶりが露わになっている。

 3月27日に開かれた芝浦機械(4月1日付で東芝機械から社名変更)の臨時株主総会では会社側による買収防衛策導入の阻止に失敗。6日後、1月下旬から仕掛けていた敵対的TOB(株式公開買い付け)を撤回した。2月末に行われたレオパレス21の臨時株主総会でも提案した取締役選任案が否決されている。TOBや取締役派遣は「株主価値向上」を声高に叫ぶ村上氏が経営陣に圧力をかける際のいわば“伝家の宝刀”。芝浦機械やレオパレス21で示された結果は、勇んで抜いてはみたものの、それがじつのところ錆び付いていたことを如実に表すものといえる。

 村上氏が株式市場に舞い戻ってきたのは2012年頃のことだ。かつて率いていた「村上ファンド」がニッポン放送株をめぐるインサイダー取引事件で摘発されてから6年ほどが経った頃である。村上ファンド解散後の2007年1月、村上氏の資産管理会社「オフィスサポート」には配当として151億円が流れ込んでいた。それを主な軍資金に「レノ」や「C&I Holdings」(2012年3月に事実上倒産した旧ベンチャー・リンク)といった関係先が買い占めを展開した。最初に大きな資金を投じた先は、同業のPGMによるTOB攻勢を受けていたアコーディア・ゴルフ。さらに鴻池運輸や黒田電気などを次々と標的にしていった。

 村上氏の買い占め先は基本的に低PBR(株価純資産倍率)の割安株だ。そして、大幅な増配や大量の自己株買いによって内部留保を吐き出させようと経営陣に対し揺さぶりをかけていく。株主還元の究極のかたちともいえるMBO(経営陣による自社買収)を迫るのも常套手段だ。のちに行われた仮処分事件における裁判所の決定文などによると、村上氏のやり口は、例えば、自動車部品メーカーのヨロズにおいてこんな具合だった。

 前述のレノやC&I社がヨロズ株の買い占めを行っていることが公になったのは2014年9月中旬。それから間もなくの同月下旬、村上ファンドの元社員でレノの取締役を務める三浦恵美氏が横浜市に本社を置くヨロズに現れた。村上氏はレノの役員でなければ、C&I社の役員でもない。「(レノ及びC&I社の)両方とも村上さんのお金がほとんど」としつつ、三浦氏は村上氏について「私どものオーナーです」と説明した。

 それから5カ月後の2015年2月12日、ヨロズに電話があった。

「僕、筆頭株主ですよ」

 声の主は村上氏である。さらにこう続けた。

「僕、10%の大株主で御社の公募増資にクレームをつけているわけです」

 ヨロズはレノなどが市場で株を買い集めていた前年9月、公募増資を行っていた。村上氏はそれに対する不満を露骨にぶちまけた。そしてこんなことも言った。

「一昨年の株主総会の時にうちの三浦が質問した」

「僕はずっと株を買ってきました。僕って言うか、僕だけの会社ではないですけれども、基本的には僕のお金が中心です」

 ヨロズを標的にしたのは昨日今日の話ではないということらしい。6日後、村上氏本人が三浦氏と長女の野村絢氏を引き連れヨロズ本社にやって来た。志藤昭彦会長らを前にもっぱら持論をまくし立てるのは村上氏である。要求するのは10割配当など破格の株主還元策。そして、例の伝家の宝刀をちらつかせる。

「公開買い付けに入らせて下さい」

「11人の取締役を一応、クビ、やめてもらうと。それについては、3人は残して、4人うちから入れて、その7人の取締役会で配当政策を決める」

 他方でこんな取引条件も提示する。

「大きな自己株(買い)をやるのであれば、僕はOK出しますから、撤回します」

「御社は株主価値を上げるのか、村上の会社になるのか、はたまたMBOをするのかの三択です」

 結局、この後、株価が上がった局面でレノやC&I社はいったんヨロズ株を売り抜けている。

レオパレス21と芝浦機械

 こうした村上氏独特の物言いに震え上がってしまう経営陣は少なくない。というより、具体的な収益向上策なり建設的な提案を示すことなく、ただひたすらに繰り返し繰り返し何度も何度も同じような株主還元策を強硬に迫る村上氏に対し、最後は音を上げてしまうといったほうが実情に近いのかもしれない。これまでアコーディア・ゴルフや黒田電気がMBOに逃げ込み、新明和工業などは大幅な増配に応じている。そうして村上氏の軍資金は雪だるま式に増えてきた。

 しかし経営陣が毅然と要求を撥ねつける場合、村上氏も伝家の宝刀をちらつかせるだけでは埒があかなくなる。実際に抜いてみせる必要が出てくるわけだ。そうして迎えたのが直近のレオパレス21と芝浦機械というわけである。結果は村上氏の連敗だ。

 昨年末、レオパレス21をめぐり村上氏側が臨時株主総会の開催請求とともに当初求めたのは取締役の総取っ替えだった。生え抜きの10人を解任し、自らが推す3人を入れるというものだ。経営陣にとってはこれ以上ない強烈な要求である。もっとも、果たしてそれで経営が行えるのか、大方が疑問に思ったが、村上氏側の株主提案は案の定、変遷した。約1カ月後には生え抜き10人の解任案を引っ込め、送り込む人数も1人だけにしたのだ。

 そして迎えた今年2月末の臨時株主総会。村上氏はその1人すら送り込むことができなかった。集まった賛成票は出席株主の44.5%で、必要な過半数には届かなかった。目を引いたのは棄権票の多さで、その割合は21%。途中まで共同戦線を張っていた大株主のアルデシア・インベストメント(東京都中央区)が村上氏のやり方についていけず最後、棄権に回ったものとみられている。そうした一方、会社側の社外取締役選任案は可決されている。

 芝浦機械をめぐり、村上氏が抜いた伝家の宝刀は敵対的TOBだった。約260億円を投じ、保有割合を44%に引き上げるとしたのだ。これに対し会社側が講じたのが買収防衛策の導入。村上氏の関係先以外の株主に無償で新株予約権を割り当てるというものだ。一般に経営陣の保身につながりかねない買収防衛策はとりわけ外国人投資家に嫌われる傾向にある。ところが芝浦機械のケースでは違った。議決権行使助言会社の米ISSが会社側の議案に賛成することを推奨したのである。それも大きかったのだろう、村上氏に同調する一般株主は限られ、買収防衛策の導入と発動はともに約62%の支持を集めた。

 その結果、村上氏側はTOBを撤回したが、それは不幸中の幸いだったのかもしれない。この間に深刻度を増した新型コロナ危機で企業業績は急降下が必至。提示していた1株3456円の公開買い付け価格では高値掴みになる恐れが強かったためだ。経営陣を揺さぶる際の常套手段がこのところの連敗で今後は見透かされかねない上、コロナ危機による株価急落で村上氏は一転して苦しい立場に置かれたと言っていい。

上場企業の間で強まる村上氏に対する警戒感

 現在、村上氏の関係先が買い占めている主な銘柄はこれまで詳しく述べてきたレオパレス21(投資額118億円)や芝浦機械(同76億円)、ヨロズ(同33億円)のほか、フージャースコーポレーション(同110億円)、三信電気(同109億円)、セントラル硝子(同95億円)、中国塗料(同53億円)、日本曹達(同42億円)、新光商事(同21億円)といったところ。総計で700億円を優に上回る。

 これらのなかにはコロナ危機で株価が急落するなか、あえて買い向かっていった銘柄もある。ヨロズやフージャース、三信電気、日本曹達といったところがそれらに当たる。相も変わらぬ村上氏の強気ぶりが窺える。しかし直近、保有株は軒並み大きな含み損を抱えているのが実情だ。例えば、三信電気やセントラル硝子、レオパレス21ではその額がそれぞれ20億円前後に上る(4月28日終値)。

 コロナ禍で各社が雇用維持に腐心するなか、これまでどおりの内部留保を吐き出させる圧力戦略は世間から厳しく見られるようになるに違いない。

 昨年、村上氏は廣済堂をめぐり、外資系投資ファンドのMBO計画に割って入り、より高値で過半数取得を目指す対抗TOBを仕掛けている。

 じつはそこでも村上氏の不人気ぶりは露わになっていた。応募があったのは買い付け下限株数のわずか20分の1程度だったのである。その後、村上氏はお気に入りの渥美陽子弁護士を社外取締役に送り込み、配当引き上げなどを迫ったが、関係者によると、それらはあまりに非現実的で会社側は昨年秋頃から村上氏の要求に聞く耳すら持たなくなったという。

 村上氏に幸いだったのは火葬場ビジネスを収益源とする廣済堂に興味を示す新たなスポンサー企業が現れたことだ。九州を中心にセメントや医療関連事業などを展開する麻生(福岡県飯塚市)がそれで、レノなど村上氏の関係先は保有株の大半を譲渡、投資額に対し3割ほどのリターンを得ることに成功している。もっとも、これは麻生が非上場企業だからこそ成立した話かもしれない。前述した株主総会での連敗が示唆するように、上場企業の間では村上氏に対する警戒感が強く、投資の出口とはなりにくい。

目指すは業界再編の仕掛け人?

 投資家として世間から高い評価を得たいと考えているのか、村上氏はこのところ業界再編の仕掛け人となることを目指しているフシがある。出光興産と昭和シェル石油の経営統合では途中から出光創業家の代理人として動き、頓挫しかかっていた統合を実現に導いたことが知られている。もっとも関係者によれば、その背後ではちゃっかり出光株を仕込んでいたことも確認されており、高値で売り抜けたものとみられている。

 おそらくそれと同じことをセントラル硝子や日本曹達あたりでは狙っているのだろう。じつは村上氏の古巣である経済産業省は石油精製業界と同様、板ガラスや石油化学業界についても再編が望ましいとの調査報告書を過去にまとめている。それを錦の御旗に村上氏は買い占め先に再編を迫り、そこに出口戦略を求めていくものと思われる。板ガラス業界に関しては「南青山不動産」名義で日本板硝子にも約2%の株付けをしている。

 とはいえ、業界再編に出口を求める戦略が必ずしもうまく行くとは限らない。内部留保を吐き出させるほどの確実性は期待しにくい。何より再編相手が必要だ。

 例えば、電子部品商社のエクセルでは苦肉の撤退策を強いられている。村上氏の関係先は2015年6月頃からエクセル株の買い占めを開始、昨年暮れまでに約77億円を投じ保有割合は約37%まで達した。同じ時期に前出の黒田電気や三信電気など同業株を仕込んでおり、再編狙いの買い占めは明らかだった。が、買い占め開始後、エクセルでは台湾関連で大口の不良債権が発生、株価は低迷し、村上氏は大きな含み損を抱えることとなる。

 そうした末、村上氏がエクセルに要求したのは会社解体だ。村上氏側は4月1日、関係先の「シティインデックスイレブンス」を使い株式交換方式でエクセルを完全子会社化した。ただ、これには多額の追加投入が必要で、一般株主に対し6月下旬までに約88億円の現金を交付しなければならない。他方でエクセルの中核ビジネスは同業の加賀電子にたった1億円で引き渡された。村上氏は手元に残るエクセルの残余資産を処分して投資を回収していくことになるが、公表数字から推測して全額回収できるかギリギリの線だ。

 果たしてコロナ禍の下、伝家の宝刀が錆び付いていたことが露見した村上氏は、この情況を打破すべくこの先どんな動きを見せるのだろうか。

(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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