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「いつもはこんなに客が来とらん」…自粛要請無視のパチンコ店で見た“想像を絶する光景”

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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堺市のHALULU

 大阪府堺市が誇る世界遺産「大仙古墳」(通称・仁徳天皇陵)から府道2号沿いに少し東へ走ると姿を現す巨大なパチンコ店「HALULU」。4月29日に大型バイクで訪ねると、ひっきりなしに駐車場に車が出入りしていた。他県ナンバーも多い。大音響に耳を塞いで店を覗くと、パチンコ台の椅子はすべて埋まっていた。女性客も結構多い。新型コロナウィルス対策の「自粛」で静まり返ったゴールデンウィークだが、まるで別世界の喧騒だった。

 外で一服していた男性は「いつもは祭日もこんなに客が来とらん。びっくりや。それにいつもより若者が多くなったな」と話した。妻と来ていたこの男性は「娘は別のパチンコ店で働いていたがコロナで解雇されてもうた。息子もバイトでパチンコ店に勤めとるけど」というから、一家挙げてのパチンコファンのようだ。

「こんなでかい所は、月の売上が億単位やろ。何十万とかの休業補償なんかもらっても、なんの足しにもならんから営業しとるのやろうけど、さすがに今日までと違うかな。吉村知事も強気やし」

 翌30日。男性の予想通り、HALULUは閉店した。実は大阪府の吉村洋文知事は28日に「休業要請に応じてくれない店は30日に休業指示を出す」と明言していた。「お願いします」の要請レベルではなく、指示は罰則こそないものの行政命令。従わないと違反となる。

 30日朝、「府内のパチンコ店がすべて休業」との報告を受けた吉村氏は「指示はしません。ご協力ありがとうございました」と報道陣に満足そうな表情を見せた。吉村知事vs.パチンコ店は知事が勝利した印象だ。

 パチンコ店をめぐって滋賀県は三日月大造知事の休業要請に全店が応じたが、兵庫県では休業要請を拒否したフェニックス新在家店など3店舗などが営業を続けたため、井戸敏三知事は休業指示を出した。いずれにせよ、先んじたのは大阪で、井戸知事らは「後追い」でしかない。

店名を公表されたパチンコ店に客が殺到

 新型コロナウィルス対策において「他の都道府県に先駆けて」を地で行く吉村知事。独断めいて見えるが、そこは弁護士。すべて新型コロナウィルス対策の「特別措置法」に基づく対応である。同法は「休業要請した旨を公開する」となっている。「店名を公開する」とは書いていないが、「店名を伏せるなら公開したことにはならない」と解釈したのだろう。

 吉村知事は4月14日にまず、府内のパチンコ店すべてに協力を要請した。応じてもらえない11店舗に、今度は特措法に基づいて22日までに休業要請をした。それでも要請に応じない6店舗の名を24日に公表し「これらの店には行かないでください」と会見する全国初の挙に出たのだ。さすがに大阪市内の2店舗など3店舗が休業した。さらに、28日には高槻市などの3店舗を追加公表した。

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 それでも堺市では冒頭のHALULUや、KINGS OF KINGS大和川店が営業を続けていたが、この間、後者には爆破予告があり警官が出動する緊迫場面もあった。

 休業要請に対して店側は「パチンコ店は政府のセーフティネット補償の対象になっていない。休業は倒産につながりかねない」「従業員の雇用を守らなくてはならない」などと反論していた。補償は国から無利子無担保の融資を受けられることが柱だが、政府は4月24日、パチンコ店や場外馬券場にも拡大した。

 それでも休業しない店があったわけだ。名を公表された店はHALULUのように客が殺到、開店前に整理券を配るほどの事態になった。このため周辺の住民からは「他県からコロナを持ち込まれる、心配や。もっと強い措置を取ってほしい」との声が出ていた。 

パチンコがやり玉にあがりやすい原因

 一方で、現場では「パチンコ店ばかりが悪く言われるのは変や」との声も聞いた。こうした時、パチンコ店はやり玉にあがりやすいようだ。思い出すことがある。2013年3月、兵庫県小野市は年金受給者がパチンコで浪費していることを市民が市に知らせる「福祉給付制度適正化条例」を制定した。詳細は割愛するが、言い出しっぺの蓬莱務市長は「生活保護受給者が毎月、お金を受け取ったとたん、その足でパチンコ店に行っている。そういう人を見かけたら市に報告してほしい」と発言して、「密告社会の推奨か」などと物議を醸した。

 パチンコがやり玉にあがりやすい一つの原因は、パチンコ店の「中途半端な位置づけ」かもしれない。競馬や競艇のような「公営ギャンブル」ではない。営業の根拠となる法律は誤解を招きそうだが「風俗営業法」である。遊戯としてはゲームセンターにも似るが、パチンコでは獲得した球数に応じて特殊景品と交換し、その景品は裏の窓口で買い取り業者が現金に換えてくれる。畢竟、射幸心が煽られるが国は「パチンコはギャンブルではない」としている。そこからして変なのは大昔からのこと。現にHALULUでもギャンブル依存症を防ぐための団体の連絡先まで書かれた注意書き看板が出入り口に立てられていた。

 さて今回、仮に最後まで休業要請に抵抗していたパチンコ店から新型コロナウィルス感染者が多発して「あの店がクラスター(感染集団)だ」と発表されれば、世間の風当たりは半端ではなくなる。「行政があれだけ要請していたのに」と、新型コロナウィルス騒動の端緒の頃に店名を公表された大阪のライブハウスどころではないバッシングを浴びるだろう。金銭的なこともあろうが、経営者はそれを心配していたのだろうか。

 今回の「パチンコ店の敗北」は、人々の目にどう映ったのか。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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