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山口組など活発化するヤクザの自警団から考える「コロナ禍と任侠」【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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山口組ほか活発化するヤクザの自警団から考える「コロナ禍と任侠精神」【沖田臥竜コラム】の画像1
閑散とする緊急事態宣言下の新宿・歌舞伎町

 5月4日、緊急事態宣言が同月31日まで延長することが決定した。これによって、外出自粛要請や休業要請なども継続することになった。

 緊急事態宣言の完全解除には最低でも3カ月はかかると一部専門家筋でもいわれていたことを鑑みれば、今回の延長は想定内でもあった。ゴールデンウィーク明けに解除されるかもというのは希望的観測でしかなったのだ。

 逆にいえば、延長可能性は極めて高い中、それなりの準備期間があったわけなのだから、政府は延長発表と同時に、補償面について具体策を提示し、それらがいつから始められるのか明言すべきだったであろう。

 「出口の見えない政策」に意味はない。つまり、どのような段階になれば緊急事態宣言は解除されるのか、また、解除されるまでの期間や解除後、国はどのように国民を助けてくれるのか。解除後、休校・休業要請はどうなっていくのか……そういった点も含め、具体的な方策が示されないままに緊急事態宣言が発令され、さらに延長された。結果、多くの国民が不安を募らせ、困窮に喘ぐ人たちも出てきてる。

 こうした状況は間違いなく治安を悪化させる。不安に駆られた人々や、非常事態下で脆弱になったセキュリティを突いて悪事を働こうとする輩が犯罪に走る傾向が強まるのだ。実際、休業中の店舗などを中心に空き巣や強盗に入る事案が全国各地で多発している。さらに経済の低迷は長期化必至なのだから、治安の不安定性はさらに増していくと考えるべきだろう。

 そうした中で、治安の乱れに一定の抑止力を働かせているのが、六代目山口組神戸山口組のみならず、いくつものヤクザ組織が立ち上げている自警団の存在だ。組員たちが数人のグループとなり、人通りの少なくなった商店や住宅街などの見回りに当たるという活動が活発化している。

 「うちの場合は、自警団というほど大層なことはしていない。ただ、繁華街などの見回りの回数などを増やすようにはなった。もちろん今は抗争などのトラブルを起こしている場合ではない。こういう時にヤクザが人のために動かなくてどうする」(某組織幹部)

 こういう時に動かなくてどうする――この言葉の意味はのちに置くとして、現在、六代目山口組と神戸山口組は当局により抗争状態にあるとされながらも、両組織とも分裂問題に関わる行動は自粛状態にあるのだ。それは、すなわち分裂問題のさらなる長期化を意味するともいえる。

先が読めなくなった山口組分裂騒動

 去年10月、多大な影響力を持つ六代目山口組・髙山清司若頭らが出所し、神戸山口組陣営への攻撃が激化するなど、分裂問題が一気に解決されるのではないかと感じさせる出来事が立て続けに起きた。

 だが、そうした六代目山口組の勢いを止めたのが、当局による法の適用、暴力団対策法に基づく、両組織への特定抗争指定暴力団への指定であった。これにより、両組織は表立った活動はほとんどできなくなり、以降、抗争事件と見てとれる派手な衝突も起こっていない。

 さらに水面下では、両組織がなんらかの政治的な交渉に入る可能性もあるのではないかと思われていた矢先に、新型コロナウイルス問題が発生。外出自粛などのコロナ対策はヤクザの世界でもご多分に漏れず、また、経済的打撃が両組織を襲っていると思われる中で、分裂問題についても、先が読めなくなったのが現状といえるのではないだろうか。

 「もともとヤクザは身動きが取れないほど、法によって雁字搦めにされていた。新規のシノギなどはかけれないほどだ。従来のシノギですら、合法的なものでも、組織がかかわっているというだけで、いつ検挙され、商売が遮断されるかわからないところまで追い詰められていた。そうした緊迫状態の中でも、今は組織によっては事務所当番がなくなり、傘下組員にとっての負担が軽減されたり、シノギで稼げない中でも、繁華街の警備などにあたったりと、自由な時間とやり甲斐のある任務が増えている。皮肉なもので、こうした国難になってこそ、ヤクザの存在が必要とされていると感じれられる一面がある」(某組織組員)

 前述の組織幹部の言葉にもあったが、今後、緊急事態宣言が長引けば長引くほど、ヤクザが抱え続けてきた精神論=任侠の真髄がクローズアップされていくのではないか。筆者がその道で生きていたから、身びいきがあると思われるかもしれない。だが、自己犠牲の上で、弱者や困っている人たちを助けようという任侠の真髄は、誰からも否定されないだろう。今回の自警行為だけでなく、各震災後、物質支援や炊き出しを精力的に行うヤクザ組織は数多くあった。

 ヤクザであろうがなかろうが、反社会的な活動は決して認められるものではないし、ヤクザがどんなに社会貢献をしても、それは公に語られるものではないだろう。だが、任侠に基づく言葉と行動が、今の社会に必要であることは間違いない。

 ヤクザと対極ともいえる、エリート街道をひた走る、高学歴・高収入の筆者の友人は緊急事態宣言発令後、こう話していた。


 「国は綺麗事ばかりで、国民を救う政策が全くできていない。もう任侠道しかないですよ。お上は当てにならない。だから、国民が損得感情を捨てて、困っている人、苦しんでいる人を助ける。そのために、自分は何ができるのかを考える。ヤクザが持ち続けてきた信念に頼らなければならないところまで、この国は来ていますよ」

 現在、ヤクザは組員であること自体がまるで犯罪かのように扱われ、なにかといえばコンプライアンスを理由に社会から遮断され、ヤクザであり続けることは限界の域まで達しているといえる。それでも、どこまで追い詰められても、ヤクザは存在し続けるだろう。反社会的勢力と位置づけられ、暴力団が糾弾され続けられても、任侠道を生きることをやめない人は絶対に残る、いや残らねばならないはずだ。

 もう任侠道しかないですよ――友人にそう口走らせるほど日本社会が困難に直面し、変容してきているとしたら、なおさらだろう。
(文=沖田臥竜/作家)

●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新小説『忘れな草』が発売中。

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