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積水ハウス、前会長“和田の乱”はなぜ失敗?現経営陣、前代未聞の奇策で逆転勝ち

文=編集部
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積水ハウスが入居する梅田スカイビル(「Wikipedia」より/Inoue-hiro)

 積水ハウスの定時株主総会は4月23日、大阪市内で開催された。阿部俊則会長ら取締役選任議案は可決され、和田勇前会長らによる経営陣刷新の株主提案は否決された。2017年6月、架空の土地取引で55億円を騙し取られた地面師事件の経営責任の追及という、コンプライアンスを前面に掲げての“和田の乱”だったが、結果は不発に終わった。

 会社側は阿部会長、仲井嘉浩社長らの再任を含む12人の取締役選任を提案。和田氏側は社外が過半の7人を占める11人の提案で対抗した。和田陣営の社長候補は、現役の取締役専務執行役員の勝呂文康氏。解任された和田氏の後任として国際事業を担当した。和田派の筆頭と目され、今年の株主総会で取締役を外されるのは確実だった。

 藤原元彦氏は43歳の若さで本部長となったエース中のエース。首都圏の要の神奈川営業本部長を務めた。19年6月、常務執行役員を退任した。山田浩司氏も昨年まで北米子会社のCEOだった。2人とも和田派として粛清された。

 和田氏は代表権を持たない取締役会議長となるという。和田氏が求めた11人の取締役候補のうち、2人は外国人。クリストファー・ダグラス・ブレイディ氏は米投資銀行、チャート・ナショナルのトップ。パメラ・フェネル・ジェイコブズ氏は米スパウティング・ロック・アセット・マネジメントのESG(環境・社会・企業統治)の専門家だ。

“和田の乱”は失敗に終わった

 積水ハウスは4月24日、臨時報告書を開示し株主総会での議決の結果を明らかにした。注目は取締役の選任議案。会社提案の4人の代表取締役と株主提案の社外取締役を除く4人の取締役候補の議決結果は次の通りである。

・会社提案

氏名     役職等             賛成比率

阿部俊則   代表取締役会長         69.27%

稲垣士郎   代表取締役副会長                   72.87%

仲井嘉浩   代表取締役社長                     85.32%

内田隆    代表取締役副社長                   85.97%

・株主提案

勝呂文康   積水ハウス取締役専務執行役員国際事業担当    6.17%

藤原元彦   タカマツハウス社長(前積水ハウス常務執行役員) 2.02%

山田浩司   前北米積水ハウスCEO(2019年まで)      2.03%

和田勇    前積水ハウス代表取締役会長兼CEO(2018年まで) 6.13%

 阿部会長の取締役再任への賛成比率は69.27%。前回の改選期だった2018年の総会と同様に約3割の株主が反対した。完勝とはいえないが、ひとまず総会を乗り切った。一方、和田氏の賛成率は6.13%にとどまった。4人の取締役候補の賛成率は、いずれも1割にも満たない。株主提案で最も賛成票を集めた社外取締役候補の米投資銀行トップのクリストファー・ブレイディ氏でも30.49%だった。結果だけ見ると惨敗である。

 なぜ、“和田の乱”は不発に終わったのか。

議決権行使会社2社は阿部会長再任に反対を推奨

 積水ハウスの株主分布を見ると、金融機関が40.01%、外国人が30.37%(20年1月決算時点)。和田氏はコーポレート・ガバナンス(企業統治)を前面に押し出し、外国人投資家の支持を取り付けたいとの思惑があった。

 そこで大きな役割を果たすのが、海外の機関投資家に対して、その保有銘柄の議決権行使に関して助言を行う議決権行使助言会社である。米ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は阿部会長と稲垣副会長の取締役再任に反対を推奨した。マンション用地の詐欺事件をめぐってガバナンスや情報開示の姿勢に問題ありとして、反対を推奨した。

 ISSは株主提案の和田前会長、勝呂取締役へも反対を推奨した。会長派、前会長派が繰り広げる多数派工作に「ノー」を突き付けた。米グラスルイスは阿部会長、仲井嘉浩社長ら4人の代表取締役全員の再任に反対。和田氏と勝呂氏、社外取締役候補のブレイディ氏と企業法務のスペシャリストの加藤ひとみ氏の4人の選任には賛成を推奨した。

 和田氏は2年前に現会長の阿部氏によるクーデターで失脚した。今回の株主提案は、“お家騒動”の第2ラウンド。和田氏は79歳と高齢ということもあって、「老害批判」や「復権批判」も沸き起っていたことから、当初から「和田氏に勝ち目はない」というのが一般的な見方だった。

 ISSとグラスルイスともに、阿部会長と稲垣士郎副会長の実力者の2人の解任を促したことから、経営陣は窮地に追い込まれたように映った。「下手すると、過半数ギリギリの攻防になる」(関係者)と取り沙汰されていた。経営側が苦境から抜け出す秘策はなんだったのか。

会場を変更して株主総会を強行

 政府は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京・大阪など全国7都府県に緊急事態宣言を発出した。対象地域の住民に、「密集・密閉・密接」の「3密」を避け、人との接触を8割減らすなど、感染の拡大を防ぐ取り組みの徹底を呼びかけた。

 株主総会は「3密」の最たるものである。金融庁や経団連でつくる協議会は4月15日、株主総会の延期に加え、配当金の決議と決算承認を別の日に行う2段階による株主総会を実施することも可能だとの声明を出した。

 4月15日、積水ハウスは株主総会の会場を変更して、株主総会を開くと発表した。当初会場に予定していたウェスティンホテル大阪 ローズルームから場所の提供が困難であるとの通知を受けたため会場を変更。積水ハウスの本社が入る梅田スカイビルの35階に移した。ウェスティンホテルも同じビルにある。開催日の直前になって会場を変更するのは極めて異例。積水ハウスは総会を延期した場合、株主の利益や経営に重大な影響が生じるおそれがあるとして、予定通り実施するとした。

 株主提案側は、この決定に猛反発。「積水ハウス株主総会の会場変更の暴挙に対する緊急抗議声明」を出した。その概要は以下の通り。

<変更された会場は、当初のホテルとほぼ同じ面積ですが、積水ハウスの関連会社の所有建物であり、(テナントの入っていない)空きフロアであります。ホテルならオープンスペースになっており、会場への出入りは簡単だが、変更した会場は35階ということもあり、会場が一杯になったからとの理由(社員株主を使えば容易に可能)でエレベーターを止めてしまえば、株主は入場さえ難しくなるところであります>

 総会当日、先に従業員株主を入場させ、「もう入れません」と入場制限してしまえば、一般株主を会場から締め出すことができる。それを狙って、会場変更したと主張したわけだ。和田氏側は4月16日、株主総会を開催しないよう求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。新型コロナウイルスの感染拡大を理由としており、開催延期は可能だと主張した。しかし、大阪地裁は4月21日、申し立てを却下。4月23日、定時株主総会は予定通り開催された。

 会社側の読み通り出席者の数は減った。約160人と昨年の10分の1になった。機関投資家などは事前にオンラインで議決権を行使している。議決権行使助言会社が反対を推奨した阿部会長と稲垣副会長に3割前後の反対があることは織り込み済みだ。これ以上、反対票が増えるかどうかは、一般株主の投票行動にかかる。一般株主は新型コロナの感染を懸念して総会に出席しなかった。そのため出席者が激減した。

 結局、阿部会長らへの反対は想定内にとどまり、浮動票が集まらず、和田前会長の得票は伸びなかった。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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