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投資や買収時、“会社の値段”はどうやって決まる?企業価値算定 完全ガイド

文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

 貸借対照表のバランスシート上の右側(貸方)は資金の調達を示しており、左側(借方)はその運用先を示しています。そして企業価値は債権者価値と株主価値に分けることができます。つまり、「企業価値=債権者価値 + 株主価値」です。そうすると、株主価値を発行済み株式総数で割ることによって、1株当たりの理論的な株価が計算できます。

 DCF法では事業で生み出す将来キャッシュフローを基に企業価値を算定しますが、企業には余剰現金やゴルフ会員権など事業の収益を生み出すもの以外の価値もあります。つまり企業価値を算定する際には、事業価値をまず算定した上で、そうした非事業資産価値を加える必要があります。つまり「企業価値=事業価値+非事業資産価値」です。

・企業価値の算定方法

 企業価値を算定するためには、キャッシュフローの予測数値を5年分作成したあとにそれらを現在価値に割り引きます。株主や債権者は、経営者がうまく経営することで彼らが銀行預金などに資金を振り向けるよりももっと儲かると期待しているのです。これが期待収益率といわれるものです

 では、実際には期待収益率はどう算定されるのでしょうか? 答えは、「期待収益率はCAPM(キャップエム)という理論に基づいて計算される加重平均資本コスト(WACCワック)」になります。WACCとは負債資本コストと株主資本コストを有利子負債と株主資本の比率で加重平均したものです。

 ちょっと難しく思えてしまいますが、要は「株主と債権者が期待する収益率」を株主資本の金額と借入などの負債金額の比率で加重平均する、ということです。したがって、借入がない企業であれば株主の期待収益率と同じになります。そして、予測したフリー・キャッシュフローをWACCで割り引いて企業価値を算定する、という流れになります。

・なぜ割り引くのか? 現在価値とは何か? 

 なぜキャッシュフローを割り引くのか。実は「時間とともにお金の価値は変化」しているのです。今のような低金利時代には実感しにくいのですが、以下の例でご説明します。

 たとえば、あなたは今日100万円もらえるのと、1年後に101万円もらえるのとでは、どちらがよいでしょうか。多くの人は「来年なんてどうなるかわからないから、今日もらいたい」と思うのではないでしょうか。

 では、1年後に110万円もらえるならば、どうでしょうか。ちょっと迷いますね。理論的には今日の100万円をすぐに預金すれば1年間で利息が付きますから、仮に預金金利が5%と仮定したら1年後には105万円になります。これが現在の100万円の1年後の将来価値です(現在の金利は低すぎるために、あえて5%と仮定しています)。

 したがってこの場合は、1年後に110万円もらえるほうが得だということになります。ここで1年後の105万円の現在価値は100万円だと呼ぶのです。すなわち「現在価値とは、将来の価値をある割引率で割り引くことで算定されるもの」です。なおファイナンスでは「割引率」や「期待収益率」など類似の言葉が多く出てきますが、すべて同じ意味です。立場の違いから使い分けているだけです。

 ここで、毎年100万円のキャッシュを生む会社があるとしましょう。そして、株主や債権者の期待収益率を仮に5%としましょう。すると1年後の100万円は1.05で割った値、約95.23万円が現在価値になります。2年後の100万円はさらに1.05で割ることになります。つまり1.05の二乗で100を割った90.7万円が現在価値になります。3年目は1.05の3乗で100万円を割った値になります。つまり、毎年生み出される100万円のキャッシュは1.05を複利で割った数字になります。

 この割引率のことをDF(ディスカウントファクター)と呼びます。そして毎年のキャッシュフローをDFで割り引いてそれらを総合計すれば、将来生み出されるキャッシュの現在価値の合計がわかるはずです。つまり、将来生み出されるキャッシュフローの合計の現在価値が、今の会社の価値になると考えることができるのです。

 まとめると、「企業価値を求めるためには株主や債権者が期待する何らかの利率で将来のキャッシュフローの合計を割り戻して現在価値を出す」のだということです。

 フリーキャッシュフローとは、すでにご説明したとおり「企業への資金提供者である債権者(銀行や社債権者)と株主に、自由に分配することができるキャッシュフロー」のことです。事業から生み出された営業利益から税金を控除した後の税引後営業利益をベースに計算します。また、損益計算書における数値と実際のキャッシュフローの数字は異なるので、いくつか修正を行う必要があります

 キャッシュフローは5年程度予測すると言いましたが、6年目以降に生み出されるキャッシュフローの価値をターミナル・バリュー(継続価値)といいます。

 ターミナル・バリュー(継続価値)の考え方にはいくつかあります。もっとも簡単な方法は、予測期間(通常5年)が終了したあと一定の成長率(永久成長率)でキャッシュフローが成長するとみなして計算する方法です。この方法では、ターミナル・バリューの金額を、つまり予測最終年度(5年目)の翌年(6年目)のフリー・キャッシュフローを、「割引率 ― 永久成長率」で割ることによって求めます。CAPM理論はノーベル賞も受賞したW.シャープ博士らによって発表された資産の期待収益率の算出モデルです。

 また、リスクフリーレートとは、無リスクで運用できる場合の利回りのことで、通常は国が発行する国債の利回りを使用します。日本では「10年もの国債」の利回りを使うのが一般的です。実際には日本国債にもリスクはありますが、ここではリスクがないとしています。

 リスクプレミアムとは、市場全体の期待収益率を表すもので、通常過去のデータから求めます。株主は株価変動リスクを負うので、リスクフリーレートより高い利回りを期待しますが、その上乗せ分をマーケットリスクプレミアムと呼びます。日本ではTOPIXの値動きを市場全体の値動きとみなして、その過去の実績値がリスクフリーレート(期間10年もの国債)とどのくらい乖離しているかを、マーケットリスクプレミアムとしている場合が多いでしょう。

 またβ(ベータ)とは市場全体の動きに対する個別株式の動きを表す係数のことで企業ごとのリスクを表します。すなわちベータ値とは、株式市場全体と個別株式の感応度のことです。たとえばベータ値が1.4ならば、市場全体が10%上昇すれば株式の株価は14%上昇し、市場が20%下落すれば28%下落することを意味します。

5.PSR (Price to Sales Ratio)

 バブルの頃は株価が高騰してしまい、理論的に説明できない状態になったことがあります。その頃は PSR(Price to Sales Ratio)という売上の倍率を株価にする手法もはやりましたが、合理的とはいいがたい方法でしょう。PSRは、たとえば売上の10倍を株価にするといった具合ですが、まったく根拠もなくその後株価は大きく下落していきました。

双方が合理的に合意することが重要

 以上、企業価値、すなわち会社の値段を算定するための方法を5つご紹介しました。なお、経営権のコントロールを握る買収の場合には、支配株価に対する「コントロール・プレミアム(Control Premium)」が求められることもあります。これは株価に30~50%程度上乗せした株価で買収することです。特に上場企業の買収の際には、こうしたプレミアムを求められることが多いといえます。一方で非上場株式の場合には流動性が劣るために、「流動性ディスカウント」として30%程度割り引くなどのケースもあります。

 冒頭でも述べましたが、買収等での株価の算定を行う際には、通常複数の株価算定方式を組み合わせて行います。複数の方式による株価算定の幅の比較表をフットボールチャートといいますが、重なり合う範囲内での株価が妥当と考えられます。

 しかし最終的には双方の交渉によって株価は決定されます。金額としては高くてもライバル会社に買収されてしまうことを阻止するケースなど、企業の経営戦略としての判断に委ねられるからです。これらの価格はあくまでも目安であり、買収する会社にとっても買収される会社にとっても株主に合理的な説明ができるものである必要があるのです。

 大切なことは「売主と買主が双方が合理的に合意することが何よりも重要だ」ということです。算定方式はその目安にすぎません。問題は買主の株主に対して納得ある説明ができるかどうか、ということになるでしょう。

 現在、新型コロナウイルスの影響で株式相場が暴落していますが、企業の本来の価値を算定して冷静に判断することがアフターコロナを見据えた際に重要ではないかと考えています。

(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)

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●平野敦士カール:経営コンサルタント

米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。

株式会社ネットストラテジー代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年にハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社の株式会社ネットストラテジーを創業し社長に就任。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。米国・フランス・中国・韓国・シンガポールほか海外での講演多数。

著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)」『図解 カール教授と学ぶ成功企業31社のビジネスモデル超入門!』(ディスカヴァー21)『新・プラットフォーム思考』『シリーズ 経営戦略・ビジネスモデル・マーケティング・金融・ファイナンス』(共に朝日新聞出版)。監修に『大学4年間の経営学見るだけノート』『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(共に宝島社)など30冊以上。海外でも翻訳出版されている。

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