こうした流れを受けて、地方自治体も手話通訳の導入を積極的に進めている。先鞭をつけたのは鳥取県だ。鳥取県は13年に地方自治体として全国初の手話条例を制定。同条例が制定されたことによって、これまでは聴覚障害者や介助者、福祉関係者の一部の人たちだけで使用されてきた手話が正式に言語として認められた。鳥取県が手話条例を制定すると、ほかの自治体も追随するように手話条例を制定。都道府県のみならず、基礎自治体の市区町村でも手話条例の制定が相次いだ。

フェイスシールドの導入

 今般、新型コロナウイルス禍という国難を迎えている。緊急事態宣言が発出され、繁華街から人が消え、経済活動も停止している。そして、これまでは政治に関心が薄かった人々も、コロナ禍を機に政治に対しての関心を高め、テレビやインターネットで生中継される首相や知事の会見を視聴する人も増えている。

 会見をする首相や知事のかたわらに立つ手話通訳者たちを見て、当初は違和感を抱いた視聴者もいるだろう。首相や知事が感染防止の観点からマスクを着用しているのに対して、手話通訳者はマスクを着用していなかったからだ。

 実は手話は手の動きだけではなく、口の動きも重要な要素になっている。口の動きで表す言葉が変わるので、正確に情報を伝えるために口元を隠すマスクを着用できない。ウイルスに感染するという危険に身を晒しながら、手話通訳者たちは国民に情報を届けるという大任にあたっていたのだ。

 しかし緊急事態宣言の期限を延長すると表明した5月4日の安倍晋三首相会見では、ようやく手話通訳者にフェイスシールドが導入されたのだ。透明な板で顔を覆うフェイスシールドは、装着しても口元が隠れない。これなら、手話を正確に伝えることができ、同時に手話通訳者を飛沫感染のリスクからも守れるのだ。

「手話通訳は、政治家の言葉を瞬時に伝える仕事です。手話ができるだけでは務まりません。素早く発言内容を理解し、それを淀みなく伝える能力が求められるのです。いわばプロ中のプロ。仮に手話通訳者が新型コロナウイルスに感染してしまったら、替わりを見つけることは難しく、『そんな危険な仕事はできない』と拒否が相次ぐかもしれない。フェイスシールドで手話通訳者を守ることは、政府の義務でもありますし、情報のバリアフリーという観点からも非常に重要な取り組みです」(福祉業界関係者)

 政府や地方自治体が発信する公的な情報は、全国民の知る権利に応えるものであり、それを保障するための取り組みは与野党関係なく一丸で取り組まなければならない。また、国政のみならず地方でも導入を加速しなければならない

 今般、情報過多ともいわれる社会情勢だが、情報のバリアフリー化はまだ緒に就いたばかり。これから整備されていく必要がある。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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