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片田珠美「精神科女医のたわごと」

暴行容疑で逮捕のボビー・オロゴン、衝動制御障害の可能性…罪の意識がないDV加害者

文=片田珠美/精神科医
暴行容疑で逮捕のボビー・オロゴン、衝動制御障害の可能性…罪の意識がないDV加害者の画像1
ボビー・オロゴンのInstagramより

 タレントのボビー・オロゴン容疑者が5月16日、妻の顔をたたいたとして暴行の疑いで現行犯逮捕された。妻は「1階の部屋にいた夫に『なんで私宛ての手紙を勝手に開けて見たのか』などと話しかけたら口論になり、爪を立ててたたかれた」と話している。だが、ボビー容疑者は「妻とトラブルにはなったが、突き放しただけで暴力は振るっていない」などと容疑を否認しているという。

 ボビー容疑者は、2006年にも当時の所属事務所で出演料をめぐり暴れたとして書類送検(のち起訴猶予)されたことがあるので、怒りや攻撃衝動をコントロールできない衝動制御障害の可能性も考えられる。

 近所の住民はボビー容疑者について「穏やかな人。普段からもめるようなことはなかった」と述べているようだが、外面がいいだけかもしれない。日頃は穏やかでも、カッとなると手がつけられない人はどこにでもいる。普段は怒りや攻撃衝動を抑えつけているからこそ、溜め込んでしまい、マグマのように爆発しやすいともいえる。

 また、ナイジェリア出身のボビー容疑者について、ビートたけしさんは『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)で「西アフリカの人はかなり男尊女卑って感じがあって、女の人に対しては昔ながら」という見解を示した。この男尊女卑がDVの一因になることは少なくない。

 なぜかといえば、一般に男尊女卑の男性は特権意識と所有意識が強いからである。まず、強い特権意識は、自分の願望や要求を満足させることが家庭で最優先されて当然という自己中心的な思い込みとして表れる。だから、妻が夫の思い通りにならなかったり、夫に少しでも逆らったりすると、暴力を振るう。それでも、「自分は夫で一家の主なのだから、少々のことは許される」と思っているので、反省も後悔もしない。

 そのうえ、所有意識が強いと、妻を自分の所有物とみなしがちで、妻を自分の好きなように扱ってもいいと思い込む。だから、「妻を殴るかどうか、他人にとやかく言われる筋合いはない」「俺の言うことを聞かない妻をどう扱おうが、俺の勝手」などと発言するDV加害者もいる。

 もちろん、男尊女卑の男性は日本人にも多い。一昔前の日本では、男尊女卑が当たり前だったといっても過言ではなく、女性がDV被害を受けても黙って耐えるしかなかったが、その風潮がいまだに根強く残っている地域もある。

自己正当化は明らかな嘘よりも強力で危険

 見逃せないのは、警察官が現場で確認したところ、妻のほおは赤くなり、爪のあとがあったにもかかわらず、ボビー容疑者が「暴力はしていない」と容疑を否認していることだ。2006年に書類送検された際も、机や椅子を投げ飛ばし、社長の胸ぐらをつかんだなどと大立ち回りが報じられたにもかかわらず、「暴れていない」などと釈明したという。

 このようにあくまでも自分の非を認めようとしない人はどこにでもいる。とくに、非を認めれば失うものが大きい政治家や芸能人は、どこまでも白を切り、逃げ切れなくなって渋々認めるような印象を私は抱いている。

 ときには、嘘をついているようにしか見えないこともある。だが、嘘をついているという自覚が本人にはない場合が圧倒的に多い。周囲の証言や状況証拠から、どう見ても非がありそうなのに、どこまでも否認し続けるのは、嘘をついているからだろうと思われるかもしれないが、その自覚が本人にはないのだ。

 一体なぜなのか? 本人が自己正当化の達人だからである。嘘と自己正当化の間には曖昧な領域があり、明確な線引きは難しいが、一応区別しておかなければならない。

 嘘は、自分で事実とは違うと知りながら他人に信じてもらおうとする話であり、意識的に他人を欺くためのものだ。それに対して、自己正当化は、私は悪くないと自分自身に言い聞かせるための話であり、無意識のうちに自分自身を欺くためのもの、つまり自己欺瞞にほかならない。だから、自己正当化は、自分に嘘をついているのに、その自覚がないという点で、「明らかな嘘よりも強力で危険」といえる(『なぜあの人はあやまちを認めないのか 』)。

 自己正当化の達人は、嘘をついている自覚がないので、当然罪悪感もなく、堂々としていることが多い。たとえば、「妻が興奮していたので、止めようとしたら、手が当たっただけ」「妻が挑発したから仕方なかった」などと平気で自己正当化するDV加害者もいる。

 これは、もちろん自己保身のためであり、その根底に潜んでいるのは自己愛にほかならない。だから、自己正当化の達人を見るたびに、17世紀のフランスの名門貴族、ラ・ロシュフコーの「自己愛は、この世で最もずるい奴より、もっとずるい」という言葉を思い出す。

 ボビー容疑者の妻は「長年、夫からはさまざまなDVを受けてきました。それはまるで家庭内という狭い空間でまるで弱い者いじめをされているような状態です」と訴えている。妻の言い分を信用すれば、新型コロナウイルス対策のための外出自粛によるストレスでDVが始まったとは考えにくい。ボビー容疑者は、長年妻に暴力を振るいながら、ずっと自己正当化してきたのではないだろうか。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

エリオット・アロンソン & キャロル・タヴリス『なぜあの人はあやまちを認めないのか 』戸根由紀恵訳、河出書房新社 2009年

François de La Rochefoucauld  “Maximes et Réflexions diverses” Garnier Flammarion 1977

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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