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甲子園、夏も中止で選手たちの進路に甚大な影響も…プロ野球もドラフト獲得が減少か

文=中村俊明/スポーツジャーナリスト
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阪神甲子園球場(「Wikipedia」より)

 春に続き、夏の甲子園(全国高等学校野球選手権大会)も中止が決定的となった。5月20日の運営委員会で正式決定のうえ発表されるが、大逆転での甲子園開催の可能性は極めて低いといえるだろう。インターハイも中止され、夏の風物詩である球児たちの姿すら、今年は観ることが叶わない。

 強豪校の生徒たちは、大袈裟ではなく、甲子園出場にすべてをかけてきている。それだけに落胆は大きいが、「今年は仕方ない」という諦めムードも漂う。ある甲子園常連校監督は、こう話す。

「沖縄は6月20日から予選が開催予定でしたが、それが『7月以降』に変更となっていました。長い高校野球の歴史の中でも極めて異例のことです。それだけ、ギリギリまで開催の可能性を探るために判断を伸ばしたかったという高野連(日本高等学校野球連盟)の意図もありますが、正直、夏の中止もやむなしと、ほとんどの監督が思っていますよ。NPB(日本プロ野球)も開催が決定していないなか、高校野球だけ開催というのは常識的に考えにくいですから。ただ、こうなってくると、一番の悩みのタネは生徒の進路です。プロはもちろん、大学や社会人野球にとっても、3年生の夏の成績というのは大きな判断基準だからです。生徒はもちろん、親御さんたちの不安も大きいので、いかに進路の選択肢を増やすか、ということに奔走しています」

 甲子園の中止による最大の懸念事項は、やはり生徒の進路問題となる。甲子園に出る名門校の選手となれば、そのほとんどがボーイズリーグやシニアリーグの出身者であり、本人のみならず保護者たちも野球での進学を想定しているケースが多い。もちろん子供たちに“投資”してきた金額も莫大なのだ。

 別の甲子園出場経験がある監督が嘆息する。

「野球に打ち込む高校生にとって、夏の結果というのは、そのまま受験みたいなものでもあります。それが受験の機会自体がなくなる格好ですから、生徒たちは途方に暮れてしまいますね。リトルリーグからシニアやボーイズ、そして高校野球と続けることは決して少なくないお金がかかってきます。保護者は、息子の進路を考えてそれを負担してくれていたわけですが、今年はその最大の舞台がなくなってしまったのです。本当に可愛そうで、かける言葉も見つかりません。生徒たちは今も開催を信じて、自主練習に励んでいます。せめて、悔いを残さないためにも、予選大会だけでも無観客でやらせてあげたいという思いはあります」

進路に暗雲が垂れ込める

 球児たちにとって、もっとも多い進路としては大学への進学だ。なかでもスポーツ推薦で進学する生徒が多いが、大学によっては「甲子園出場」を条件としている野球部も少なくない。だが、今年のように春夏中止となれば、そういった推薦の条件面もクリアできないのだ。東都リーグの大学野球の強豪校の関係者が明かす。

「大学野球にとって最大の懸念が、いまだ全国の大学リーグも大会を再開できていないことです。特に進路が決まる4年生や3年生にとって、これは死活問題です。そんな状態のなかで、大学としても在部生の進路問題も重なり、新入生の勧誘まで果たして手が回るのか。推薦基準をどう下げるかということについても、今年は異例として柔軟に対応できるかどうかも大きい。今年はスカウトや数字的に判断できる要素がほとんどないわけなので、推薦枠が減ることは十分に考えられます」

 より深刻なケースが、高校野球からプロ入りを目指すケースだろう。彼らにとって甲子園という“見本市”がないことで、ただでさえ狭い門戸はより狭まり、プロ入りのチャンスが減ることを意味する。関東に本拠地を置くNPB球団のスカウトが言う。

「今年は前提として、プロ野球の開催数が減りますよね。例年であれば、シーズン終了後に5~10人程度が戦力外になり、支配下登録数を調整します。もちろん、それはドラフトで新入団選手を確保するためです。ただ、今年の場合は1シーズンをフルに戦うことが不可能なため、選手をクビにすることが非常に難しい。仮に、戦力外を通告できても、例年よりその数は減るでしょう。そうなると、毎年ドラフトで6人程度を指名している球団でも3人程度に留まる可能性もあります。

 さらに、即戦力選手を求める球団としては、大学生、社会人の指名が優先されるため、高校生にとってプロへの間口は例年より狭くなるでしょう。特に下位指名でプロ入りできる実力がある選手でも、大学や社会人などを経て3~4年後にプロへ、という人が増えるのは仕方ない流れではあるのが残念です」

 もちろん、夏の甲子園が中止された場合は、もともとの選手の評価についても変わってくる。2021年高校卒業組は、プロではエアポケットのようにその絶対数が少なくなる可能性もある。先出のスカウトが続ける。

「同じ程度の評価の場合、甲子園出場経験の有無は観ますね。というのも、プロのように注目される立場の場合、甲子園のような大舞台でどれだけ普段通りの実力を出せるか、ということをチェックしているからです。いくら能力があっても、ハートが強くないとプロでは活躍できません。甲子園というのは、そういった選手の内面まで知る格好の舞台ですから、甲子園が開催されなければ適正な評価を下すこともできないわけです。いずれにしろ、今年のドラフトでは、高校生の指名数自体がかなり減るとみています」

代替大会の開催も検討中

 現在は代替大会の実施を検討中だという。東京都の高野連などは、甲子園が中止になった場合でも、予選大会を実施する方向だ。だが、代替大会への出場が甲子園出場と同等の評価とみなされるかは、なんともいえないのだ。そうなると、必然的に高校卒業後も野球を続けられる生徒の数が減ってくる危惧も生まれる。強豪校ともなれば、高校野球終了後もそのうち7~9割程度の生徒が野球を継続することを望む。だが、推薦希望などの当落線上にいる選手らは、NPBや大学との併願希望者が増えることで、一般受験での大学入学を目指すケースも増えそうだ。先出の甲子園常連監督は、こうも話す。

「今年に関してはプロ一本で希望する高校生は減り、進学との併願で考える生徒が増えていくでしょう。進学組の推薦枠にも影響が出てくることで、野球を諦める子供たちが出てきても不思議ではありません。完全燃焼できる場がないことで、悔いが残ったまま野球を辞めないといけない子がいるのは不憫です」

 高野連は、春の選抜でもギリギリまで開催を模索し、中止の発表をした。そのことにより、「高校野球は特別なのか」という心ない批判もあった。なかには高校野球に携わる記者や書き手にも、「選手のためにも夏の中止も早く発表すべき」という論調があった。だが、中止の発表を早めることが球児のためになるとは、どうしても思えない。自分たちの高校時代の集大成の機会であり、進路を大きく左右する大舞台へ参加する機会を失うことを意味するからだ。高野連がどんな判断を下そうと、球児目線でいえば「遅すぎる」という批判は的外れである。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)

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