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トヨタ、コロナ禍でも「利益5千億円」達成へ、驚異的な企業体質…現預金8兆円の周到さ

文=編集部
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トヨタ自動車 HP」より

「コロナ・ショックはリーマン・ショックよりインパクトははるかに大きい」

 トヨタ自動車豊田章男社長は5月12日、インターネットで会見し危機感を露わにした。新型コロナウイルスの感染拡大が世界の自動車産業を直撃した。トヨタは2021年3月期連結決算(国際会計基準)で、本業のもうけを示す営業利益が前期比79.5%減の5000億円になりそうだと発表した。

 世界的に販売が急減し、グループの世界販売台数の見通しが前年(1045万台)より14.9%減って890万台となり、8年ぶりに1000万台を下回る。「4~6月は(前年の)6割、7~9月で8割、10~12月で9割」(近健太執行役員)と回復の道筋を描く。前年並みになるのは来年初めとしたが、先行きは不透明だ。

 リーマン・ショックの09年3月期はグループの販売台数が11.7%減り、4610億円の営業赤字に転落した。営業利益が1兆円を下回れば東日本大震災直後の12年3月期(3556億円)以来、9年ぶり。売上高は前期より19.8%減って24兆円を見込む。最終利益は「未定」とした。豊田社長は「リーマン時と比べて販売台数の減少は激しいが、企業体質を強化したことで、黒字を確保できる」と語った。

 東京株式市場で5月13日、トヨタ株は前日比2%下落した。12日の取引時間中に2021年3月期の決算見通しを発表したが、2日間の下落率は4%と限定的。

「コロナ禍で販売が急減するなかでも黒字を確保するとの強いメッセージを豊田社長が発信した。マーケットはこれを前向きに評価しているようだ」(自動車担当のアナリスト)

 なお、12日に同時に発表した20年3月期の連結決算(米国会計基準)は売上高が29兆9299億円、営業利益は2兆4428億円と、ほぼ前年並みだった。新型コロナの影響で1~3月期は営業利益が前年同期比で27%減った。

リーマン・ショックの教訓を生かし在庫をコントロール

 トヨタはここ数年、売上高が日本企業として初めて30兆円を超えるなど過去最高を更新してきた。この右肩上がりのトレンドは打ち止めになったが、12日の会見で豊田社長は「(黒字の確保は)これまで企業体質を強化してきた成果といえる」と、先行きに対して自信をみせた。

 コロナ危機ではリーマン・ショック時の失敗を繰り返さないとの決意が滲み出た。リーマン時と比べて、2つの点で大きく異なる。リーマン時は「拡大路線」のただなかにあった。生産設備を拡張し、固定費が大きく膨らんだ。新車需要が急落するなかでも工場は稼働を続け在庫は急増。生産調整が長引いた。在庫が膨らむなか、販売を増やそうと値引きに走ったことで、新車・中古車ともに値崩れを起こし、収益が一気に悪化した。

 リーマン時の失敗を生きた教訓として、コロナ危機では在庫をコントロールできるようにした。地域ごとの販売と生産をほぼ同時に止めた。その結果、生産と販売の極端な需要ギャップが起きにくくなり、需要に応じた適正な在庫を維持できた。このため、過剰在庫の圧縮という、後ろ向きの対応に追われることが少なくなった。

 世界的な需要の急減という危機でも黒字を確保できるのは、お家芸である「原価改善」を徹底して利益を上げやすい筋肉質の経営体質に変えてきた成果といえよう。

手元資金はリーマン時の3兆円から8兆円に積み増し

 リーマン時との大きな違いは手元資金の潤沢さにある。リーマン危機の際は「1カ月に1兆円の資金が必要で、3カ月で資金繰りが苦しくなる」とまでいわれた。財務を担当してきた小林耕士・執行役員は、現預金などの手持ちの資金が「リーマンの時は約3兆円しかなかったが、今は約8兆円まで増えた。ただ米アップルは20兆円以上ある。まだまだ少ない」と述べた。

 リーマン時に比べ手元資金は2.7倍。月収の約3.2カ月分を確保している。これまたお家芸の「トヨタ銀行」と呼ばれる手法で手元資金を積み上げてきた。この間、稼ぐ源である世界販売台数が832万台から1045万台に増えたことが大きかった。新型コロナの影響の長期化を見据えた資金計画として、4月に国内金融機関から1兆2500億円を借り入れた。

ものづくりを守るため国内生産300万台体制を維持

 国内生産は、これまでの300万台体制を堅持するよう努める。トヨタは1980年代以降、リーマン・ショック後の09年と東日本大震災の11年を除いて、40年近く300万台の国内生産を維持してきている。

 豊田社長は会見で「円高など経営環境が厳しくても、日本のものづくりの競争力のために石にかじりついても守ってきた」としたうえで「トヨタだけでなく、そこに連なるサプライチェーンの雇用と人材を守り抜く」と胸を張った。資金繰りに困るサプライヤーが出てきた場合には、資金支援できるよう準備を進めている。

 トヨタグループの主要8社の20年3月期の連結決算は、6社で最終損益が前の期より悪化した。新型コロナウイルスの感染拡大で新車需要が一段と落ち込んだ20年1~3月期に限ると、デンソーが680億円の赤字に転落。同じくアイシン精機が226億円の赤字転落。ジェイテクトは156億円の赤字の継続となった。

 多くの企業が21年3月期の業績予想の開示を見送るなか、トヨタが21年3月期の業績予想をあえて公表した。それは「車産業は裾野が広い。基準を示すことで関係各社が何かしらの計画や準備ができると考えた」(豊田社長)からだ。

「研究開発費」維持を高らかに謳う

 自動車業界は「100年に一度」といわれる変革期にある。トヨタは毎年、新たな移動サービスなど新技術開発に巨費の資金を投じ米国のGAFAなど巨大なIT(情報技術)企業と激しく争ってきた。今年1月にはロボットやIT技術を駆使した近未来型都市「スマート・シティ」を静岡県につくる構想を発表。21年春の着工を予定している。大規模で集中的な投資が必要になる。

「研究開発費」は前年並みの1兆1000億円を維持する。研究開発費を削ったら、コロナ後を見据えた競争で世界のIT勢に先行を許すことになるからだ。

 ポストコロナの世界はどう変わるのか。1970年代のオイルショックでは石油メジャーが衰退し、リーマン・ショックでは中国企業が台頭してきた。新型コロナがもたらした世界的危機を乗り越え、どこが新たな主役に躍り出るのか。

 2020年の新車市場の回復速度はトヨタの予測をかなり下回るとの慎重な見方もある。視界ゼロのなかで、トヨタは5000億円と明示した営業利益を上回ることができるのか。豊田社長は一世一代の正念場を迎えた。

 なお、決算を米国会計基準から国際会計基準に変更したのは、米国会計基準で「持ち合い株の株価変動を利益に反映させる」とのルール変更が行われたためだ。トヨタは事業上の関係を考慮し、政策的に保有する持ち合い株が多い。株式相場の変動で純利益が大きく動くのを防ぐためだ。トヨタは19年2月の18年4-12月期決算発表時点で「なるべく早く、IFRS(国際会計基準)を導入したい」と表明していた。

(文=編集部)

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