NEW
佐藤信之「交通、再考」

総工費9兆円超…リニア新幹線、コロナ禍で一転してJR東海の“お荷物”になる懸念

文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師
【この記事のキーワード】, ,

 これは東海道新幹線の旅客に過大な負担を強いるものであり、本来、別会社の新幹線の利用者が負担すべきものをなぜ東海道新幹線の旅客が負担しなければならないのかという、公平性の問題が生まれた。ただ、これはもともとJR本州3社間での収益調整の目的で編み出された手法で、国鉄改革のさまざまな取り決めの中のひとつであり、これだけをどうにかすれば良いということにはならないという事情がある。

総工費9兆円超…リニア新幹線、コロナ禍で一転してJR東海の“お荷物”になる懸念の画像2

 東海道新幹線は、徐々に増加するGDP(国内総生産)に対応して、旅客収入が増加していった。一方で修繕費と減価償却費の減少により、営業利益は平成22年度の3254億円から平成30年度には6677億円に倍増、経常利益も、平成22年度の2075億円から平成30年度は5901億円に増加した。それに加えて、新幹線の譲渡代金のうち大半が平成28年度に返済を終了した。平成22年度には、JR東海は2661億円を支払ったが、そのうち2259億円に相当する分が平成28年度に完済したのである。それにより、キャッシュフローでも2000億円をこえる余裕ができた。

リニア中央新幹線

 大幅な経常利益率の上昇があるならば、公益事業として運賃・料金の引き下げが問題になるのであるが、ここでJR東海は、新たな大規模プロジェクトを立ち上げた。リニア中央新幹線である。1年に2000億円あまりの財源があるので、建設期間を10年とすると2兆円が確保されている。建設費は5兆5235億円と見込まれ、差額の3兆円余りは借入金で調達する予定であった。開業後(令和9年度末)の運賃・料金収入で十分返済できる計算であった。整備新幹線の中央新幹線として建設するが、財源はすべて自己資金で調達可能ということになった。

 ところで、北陸新幹線や九州新幹線などの整備新幹線はさまざまに政治のかけ引きに利用され、国が工事に干渉してきた。それにより運行会社としては意に沿わないことも飲まなければないこともあった。整備新幹線のスキームで建設すると着工の順番はいつになるかわからないので、自己資金での建設としたと公式には説明したが、むしろ、政治に口を挟んでほしくないという、JR東海の意図があった。

総工費9兆円超…リニア新幹線、コロナ禍で一転してJR東海の“お荷物”になる懸念の画像3

 しかし、その後、名古屋~大阪間の開業時期を8年繰り上げるためという名目で、3兆円の財政投融資資金が投入されることになる。平成28年度と29年度にそれぞれ1兆5000億円が貸し付けられた。もともとJR東海にとってメリットの小さい資金であるので、貸し付け条件は極めてJRに有利な内容で、38年半ないし40年猶予の後10年で返済すること、平均金利0.68%である。40年目というのは、大阪まで開業した時から数えて10年目である。とにかく悠長な返済条件である。

本年度設備投資

 JR東海は、令和2年度設備投資を連結8180億円(前年度比1939億円増)、単体6880億円(同1883億円増)と大幅な増額を計画している。うち中央新幹線の分が3800億円である。東海道新幹線を含むその他路線に対する設備投資額は3080億円で、中央新幹線に対する投資額を720億円下回わる。そのうち930億円が輸送サービスの充実に充てられ、東海道新幹線では3月のダイヤ改正で車種の統一による最高速度285キロ運転による「のぞみ12本ダイヤ」を実施したが、さらに地震ブレーキ距離の短縮、状態監視機能の強化したN700S系の量産を開始する。令和2年度から4年度までに40編成を新造する計画で、そのうち12編成が令和2年度に完成し、同年7月に営業を開始する予定である。

 また、在来線では新型電車315系を令和3年度から7年度までに352両を新造してJR化後の初期に製造された車両の取り換えを進める。さらに、高山線や関西線・紀勢線で使用している特急気動車を取り換えるために、HC85系ハイブリッド気動車の試作車が完成済みであるが、令和4年度には営業に投入する計画である。

 海外展開では、アメリカテキサス州で進められている高速鉄道プロジェクトに対して、日本側企業とともにコアシステムの受注を目指すとしているほか、超電導リニアの技術をアメリカ東海岸の北東回廊地区に導入すべくプロモーション活動を進めるという。中央新幹線の完成がアメリカでのリニア売込みの最大のアピールとなるため、中央新幹線のプロジェクトの遅滞は許されない。しかし、現在、静岡県との間で、大井川水系の水源問題で調整が難航している。名古屋まで令和9年の開業を目標としているが、現状ではなかなか厳しい状況である。それに加えて今回の新型コロナウイルスによる大幅減収・減益である。

 工期が伸びるということは、すくなくとも間接費の増加、利払いの増加が発生する。さらに開業が遅れるということは、その年数分だけ収益を失うことになる。名古屋開業後に大阪延伸の工事が始められるが、これも遅れることになりかねない。

おわりに

 JR東海は、実質1か月間で300億円あまりの運輸収益が減少した。グループ全体では、駅ビル・商業施設、ホテルの影響額も加えると334億円となる。今年度は、4月から6月までは3月を超える深刻な収益減となるであろう。仮に年度内平均3割程度の運輸収入が減少するとすると、鉄道だけで4200億円の減収となる。コスト削減がないとすると減益額は、前年度の単体最終利益3788億円、連結最終利益3884億円を超えることになる。

 また今回の新型コロナウイルスの問題が長引くと、企業や国民の交通機関利用の習慣が変化する可能性がある。つまり近く運用が開始される5G通信方式によれば、社員を出張させなくても快適にテレビ会議ができる。都心のオフィスに通勤しなくても近郊の自宅で仕事が済ませられる。そうして全国の地域間の旅客流動が減少すると予想されるが、それによりリニア新幹線ができても見込んだだけの需要がないかもしれず、収支計画が狂うかもしれない。名古屋開業後の経営安定を前提に大阪延伸工事が始まることになっているが、これも遅れるかもしれない。

 リニア新幹線は、未来の交通機関で夢があるが、下手をすると荷物になりかねないという危うさがある。

(文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師)

情報提供はこちら