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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

テレワークに絶対不可欠な半導体の生産を止めるな!PCR検査の遅れで加賀東芝工場停止

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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加賀東芝の生産休止の事例

 欧米などの諸外国では、半導体および製造装置産業を明確にエッセンシャル・ビジネスと位置付け、過酷なコロナ禍にあっても、その工場の稼働を政府が支援している。半導体工場が止まった時のネガティブ・インパクトが、あまりにも大きすぎることを諸外国の政府が認識しているからである。

 ところが日本では、パワー半導体を製造する加賀東芝がコロナで生産を休止した。筆者は、石川県のHPの「新型コロナウイルス感染症の県内の患者発生状況」の公開情報を基に、加賀東芝のクラスターの分析を行った。前掲の拙著JBpressの記事から一部引用する。

 加賀東芝でどのように20人のクラスターが発生したかを図2に示す。一目見て、4月6日(月)に発症した134番の男性、および、7日(火)に発症した136番の男性の2人がクラスターの核になっていることがわかる。

テレワークに絶対不可欠な半導体の生産を止めるな!PCR検査の遅れで加賀東芝工場停止の画像2

 次に、上記クラスターの20人について、誰が、いつ発症し、いつ陽性が判明したかを図3に示す。この図を書いて、筆者は驚き、考え込んでしまった。

テレワークに絶対不可欠な半導体の生産を止めるな!PCR検査の遅れで加賀東芝工場停止の画像3

 4月6日(月)および7日(火)に発症した134番および136番の2人が、PCR検査を受けたのが発症から8~9日後の15日(水)である。そして、134番と136番の濃厚接触者や同居者が14日(火)と15日(水)の2日間に次々と発症し、そのすべてが15日(水)~18日(土)までに陽性であることが判明している。このようにして、加賀東芝関係で合計20人のクラスターが発生し、従業員約1000人の同社は、いつ、だれが発症してもおかしくないと判断し、生産を休止したのだろう。

 もし、134番と136番の男性が発症した際、迅速にPCR検査を受けていたら、陽性判明後に、ただちに濃厚接触者や同居者を隔離して検査することができ、14日(火)と15日(水)に大量に発症者を出すこともなく、工場の生産休止は回避できたのではないかと思う。

 日本では、コロナが疑われる症状が出ても、なかなかPCR検査が受けられないことが社会問題となっている。そして、加賀東芝をはじめとする半導体工場では、その稼働に数百~数千人の従業員が必要であり、PCR検査の遅延は致命傷になる。

 幸い、加賀東芝は、2週間休止した後の5月1日に生産を再開した。しかし、もし生産休止が長引けば、社会インフラの維持に甚大な影響が出た可能性がある。そして、PCR検査がスムーズに受けられない状態が解決されなければ、第2、第3の“加賀東芝”が現れてもおかしくないのである。そのような事態は、なんとしても回避しなければならないと思う。

半導体工場を止めるな!

 半導体産業が専門のジャーナリストである筆者は、加賀東芝の生産休止問題を重く受け止めている。二度と同じ事態を引き起こしてはならない。なぜなら、今まで説明してきたように、半導体は社会インフラを維持するために必要な基幹部品だからである。一つの半導体が欠けただけでも、あなたはスマホを買ったり使ったりすることができなくなり、テレワークもできなくなるのである。

 筆者は、半導体産業の業界団体に、加賀東芝のケースを説明した上で、なんらかの手を打ってほしいと依頼したが、埒が明かなかった。次に筆者は5月8日に、首相官邸に、「半導体関連企業の従業員への迅速なPCR検査の要望」という意見書を提出した。その意見書では、加賀東芝のケースを説明した上で、以下の2条件に該当する産業・企業の従事者にコロナが疑われる者が出たら、迅速にPCR検査を実施していただくよう要望した。その2条件とは次の通りである。

1)その企業が製造する製品がないと、社会システムを維持することができない。

2)その製品の製造には、数百~数千人の従業員が必要である。

 半導体はこの2条件に当てはまる。半導体以外にも、該当する産業・企業があるかもしれない。このような、社会システムの維持に必要なエッセンシャル・ビジネスを政府が支援しなければ、日本は滅ぶのではないかと思う。しかし、今のところ、上記の意見書に対する回答は何もない。

 結局、今までにわかったことは、半導体をはじめとするエッセンシャル・ビジネスに該当する企業は、政府や業界団体の支援を当てにできないということである。したがって、第2波、第3波が予想されるコロナ禍を生き残り、成長するためには、自己防衛するしか手段がない。

 その手段として、例えば半導体工場でコロナが疑われる社員が出た場合は、ただちにその社員を隔離し、社長が出張ってきて保健所に対してPCR検査の依頼を要請するべきである。加えて、その社員の濃厚接触者の出勤を禁止し、彼らにも隔離とPCR検査の実施を要請するべきである。

 幸い、コロナ禍にあっても、世界的なテレワークの普及により、各種の半導体市場は成長を続けている。したがって、コロナに対して徹底した対策を講じれば、その企業は生き残り、成長することができるであろう。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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