ビジネスパーソン向け人気連載|ビジネスジャーナル/Business Journal
大型SUVなのに、リアのドアははやぶさが羽ばたくかのように羽を広げるのだが、それとてカウンタックに憧れたスーパーカー世代へのオマージュではなく、視覚的ギミックでもウケ狙いでもない。しっかりとした理由があるのだ。
一般的にクルマの後部座席に乗り込むには、ドアを大きく開くかスライドさせなければならないが、どちらにせよ開口部にも限界がある。テスラの場合、「だったら跳ね上げてしまえ」という発想なのだ。乗り込むときに頭上の空間を気にする必要はなく、たとえば髪型を気にする女性には歓迎されそうである。
モデルXのリアドアは、ワイドの空間を認識しながら、大きく大胆に広げてから跳ね上げるのか、一旦羽を畳むようにしてスルスルと引き上げるのか、といった細工をする。障害物があれば、それなりの開き方をする。そんな緻密な制御をするのである。
運転席も同様に、自動ドアの開閉はセンサーがドライバーの立ち位置を把握して作動し分ける。たとえば、横に壁が迫っているなかで前方からドライバーが歩み寄ったとする。開閉のスペースが限られているのならば、ドアはわずかにカシャっと開くだけにとどめる。逆に後ろから迫った場合には、そのままスムーズに乗り込めるように大胆に開く。ドライバーを誘うような気遣いには驚かされた。
乗り心地はドタドタしている。大容量バッテリーを床下に敷き詰めているから、重心は低い。だが、絶対的な重量には抗えない。電子制御サスペンションは乗り心地と操縦性を完璧にバランスさせる。どこかターミネーターに操られているかのような機械的な動きであることは確かだが、それとて、あえて狙ってそうした節がある。これまでの常識を徹底的に覆すのだ。
近未来からやってきたEV(電気自動車)モデルではあるものの、それは近い将来からであり、バソコン世代にとっては現代である。むしろ既存の発想に囚われた老舗のクルマづくりこそが古典的に見える。つまり、こっちが「いま」なのだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)
●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。