ビジネスジャーナル > 社会ニュース > なぜ早大は学費減額を拒否したのか?
NEW
木村誠「20年代、大学新時代」

なぜ早稲田大学は学費減額を拒否したのか?明治学院・青学・立教は全学生に一律5万円給付

文=木村誠/教育ジャーナリスト
なぜ早稲田大学は学費減額を拒否したのか?明治学院・青学・立教は全学生に一律5万円給付の画像1
早稲田大学の大隈講堂(「Wikipedia」より)

 前回の記事で、全国大学生活協同組合連合会による新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた学生たちの生の声を報告した。家計急変やアルバイト収入の減少などにより、経済的に厳しい状況に追い込まれている学生も少なくなく、中には休学や中退を考え始めた学生もいる。

 こうした実情を受けて、政府は5月中旬に、経済的に困窮した学生に1人当たり10万~20万円の現金を給付する支援策を閣議決定した。給付額は、住民税課税世帯が10万円、非課税世帯は倍の20万円だ。対象は、感染症拡大の影響でバイト収入が減るなど、経済的に修学の継続が困難になった大学生や短大生、専門学校生、日本語学校の生徒らで、43万人程度と想定している。

 さらに、学生だけではないが、住民登禄をしている全国の住民に配る特別定額給付金の10万円を加えると、20万~30万円となる。

 ほかに、この4月から開始した高等教育の修学支援新制度(授業料等減免・給付型奨学金や貸与型奨学金)の対象になる条件で、事態急変によって適用されるケースに当てはまる。特に、無利子の奨学金は家計基準が子ども1~3人世帯で1290万円以下なので、中堅家庭でも利用できる事例が増える。

 こうみると、ホームレスやシングルマザーに比べると、学生は恵まれているという声もある。ただ、高校卒業後の4年制大学進学率が20%台だった50年以上前と50%を超える現在とでは、大学生の出身階層も広がった。短大や専門学校を含めると高等教育機関への進学率は75%近くになり、今や18歳の若者の多くが学生なのだ。

 自民党がこの18~20歳の経済支援で大盤振る舞いしているのは、選挙権が18歳まで引き下げられたという背景があるのだろう。昔のように大学生たちは反政権勢力の牙城でなく、むしろ野党に厳しい若者が増えているのだ。

東北大、広島大、九州大は独自の給付金を公表

 行政だけでなく、大学も学生の経済的サポートに乗り出している。ただ、国立では、前述の修学支援制度の授業料等減免・給付型奨学金や貸与型奨学金などの活用方法を紹介する大学も多い。運営費交付金に頼っている財政の現状では、独自の支援は難しいという面はある。

 ただ、東北大学広島大学、九州大学などの有力大では独自の給付金を公表している。

 東北大は、困窮している学生に総額4億円程度の緊急経済支援を公表。また、2500人に学内で働く場を提供し、給付型奨学金を創設した。これは、相当思い切ったサポートになる。

 広島大も、困窮学生に返済不要の3万円を支給することを決めた。同様に、九州大も独自の支援策として、経済的支援を必要としている学生の申請に基づき、1人3万円の緊急学生支援金を給付する。アンブレラ方式で注目される名古屋大学と岐阜大学は、自宅外学生を対象とした給付がある。

 ほかの国立大でも、支援対策を打ち出しているところがある。たとえば、新型コロナ感染者ゼロで注目されている岩手県の岩手大学。まだ具体的な困窮学生の訴えは少ないというが、感染症で家計急変した学生への令和2年度授業料免除を実施している。

 一般的に、緊急事態宣言対象地域から外れていた地方国立大学は、バイト収入激減で打撃を受ける学生が首都圏や関西に比べ、それほど多くはないのか、新型コロナ限定の経済支援でなく、4月からの前述の修学支援新制度や各種給付金で対応するケースも多いようだ。

早慶の学生が学費減免を訴え

 早稲田大学と慶應義塾大学の学生が、4月半ばからネットで授業料減免を訴えている。新型コロナによる両大学のキャンパス閉鎖とオンライン授業への移行を受けて、学費減額を求める署名活動を始めたところ、賛同者は3000人近くになっている。新たな学生運動になる可能性はあるのか。

 学生側の主張は、オンライン授業や課題提出といっても、質の高い対面授業を受けられない分の学費を減免・返還すべき、またキャンパスの図書館や学生食堂などは閉鎖されているので、施設利用料を返却してほしい、ということだ。コスパ(コストパフォーマンス)を重視する現代若者らしい。

 これに対し、早大の田中総長は明確に拒否している。学費は長期的な大学教育持続のコストであり、それを減免することは考えられない、ということのようだ。私立大の財政の現状を見れば、どの大学も授業料など学生の納入金の収入が大半であり、国からの私学助成額でトップの早大も例外ではない。支出の多くは教職員などの人件費で、簡単にカットできるものではないという。ちなみに、2018年度の早大の法人収支を見ると、収入では学生生徒の納入金が63.2%、支出では人件費が50.6%を占めている。

 早大総長の見解は、ほかの私大経営者に共通した本音のようで、各大学の対応の多くは、学費に関しては納入期限の延期がせいぜいだ。ただ、早大も困窮学生に対して10万円支給や緊急奨学金40万円の援助策を打ち出した。1人当たりの額はすごいが、総額5億円で、学生数がぐんと少ない東北大とそんなに変わらない。

明治学院大、青山学院大、立教大は全学生に一律5万円を支給

 全国の私大で、いち早く支援を打ち出した明治学院大学は、全学生にオンライン授業受講のための緊急支援金(一律5万円)を支給する。さらに、新型コロナの影響で家計が急変し、勉学の継続に支障をきたした学生を対象に独自の給付奨学金を新設し、一律40万円とした。募集期間を二期に分けて長期的に取り組む。

 外国ではなく明治時代の英語塾にルーツを持つミッションだが、それだけにスピーディな判断が可能になったのであろう。同じミッション系の「JAL」(上智、青山学院、立教)は、立教大と青山学院大が一律5万円と決めている。上智大は困窮学生に10万円だ。

立命館グループは教育のオンライン化を整備

 京都の立命館大学は4月下旬に、新型コロナの感染拡大にともない総額25億円の緊急支援を実施すると発表した。大学~小学校の学生・生徒・児童全員にウェブ授業の環境整備として一律3万円を支給する。必要があればPCやルーターなどを無償で貸与し、家庭の負担を軽減する計画だ。

 さらに、家計が悪化した大学生には最大9万円を支給。1人当たりの支給総額は、一律3万円を加えて最大12万円となる。大学には、立命館アジア太平洋大学も含まれる。

 このほか、オンラインでの学習・生活・諸活動の支援策など各種プログラムも約4億円で環境整備を進める。オンラインでの就職活動支援、資格・語学講座受講支援といったプログラムや、コミュニティ支援を進めるという。総額で25億円と思い切った支出である。

 新型コロナ危機を契機に、大学教育のオンライン化を進める狙いがある、学生や保護者からの評判も良いようだ。ミッション系各大学の5万円一律支給も、同様の目的があるようだ。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

なぜ早稲田大学は学費減額を拒否したのか?明治学院・青学・立教は全学生に一律5万円給付のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!