ビジネスジャーナル > 企業ニュース > ジャパネットたかた、大企業病の懸念
NEW
大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

ジャパネットたかた、好調の秘密と大企業病の懸念…今後の脅威はアマゾンや楽天か

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
ジャパネットたかた、好調の秘密と大企業病の懸念…今後の脅威はアマゾンや楽天かの画像1
ジャパネットたかた本社(「Wikipedia」より)

 海外から日本の大学に移り、マーケティングの講義におけるケース作成のために、久しぶりに「ジャパネットたかた」に関する情報収集を行った。ずいぶん昔のことではあるが、長崎の大学に勤務していた際、学生ともども本社を見学させていただいて以降、ジャパネットには長きにわたり、関心を持ってきた。

 その間に、創業者かつ絶大なる人気を博した番組MCでもあった高田明氏が社長の座を息子である高田旭人氏に譲るなど、大きな変化が起きている。しかしながら、その後も好調を維持し、ますますビジネスを拡大させているようだ。

 本稿では、こうした好調さの要因および危惧される脅威などについて論じてみたい。

そもそも“ジャパネットたかた”とは?

 長崎県佐世保市にあった“街の小さなカメラ店”の経営者だった高田氏が、ある日たまたまラジオでカメラを紹介したところ、本人もびっくりするほど爆発的に売れ、メディアのパワーを実感。その後、テレビショッピングを開始し、現在に至るといった話は有名である。

 こう聞くと、たまたまラジオショッピングに巡り合ったという、“偶発的な要因”により成功したと思ってしまう。しかしながら、早期よりジャパネットの成功を予想させるマーケティングに関わる取り組みが、街の小さなカメラ店で行われていたのだ。

 もし、みなさんが街の小さなカメラ店の経営者なら、商売繁盛に向け、どのような取り組みを実行するだろうか。

 長崎県佐世保市には九十九島があり、観光地としても有名な場所である。こうした佐世保市の大きなホテルでは、社員旅行や泊りがけの研修などが行われていた。高田氏は、このような場に出向き写真を撮影するという、いわゆる“出前サービス”を実施している。現像された写真は後日、お客様の会社へ郵送してもいいわけだが、高田氏はその日の夜に現像し、翌朝のチェックアウト時に渡すというサービスにこだわっていたようだ。徹夜仕事となる場合も少なくなかったが、郵送される場合と比較して、翌朝に写真を受け取れる顧客の満足度の高さは容易に想像できる。こうした“顧客第一主義”の精神は、現在のテレビショッピングにおいても感じることができる。

 ちなみに、現社長である旭人氏はジャパネットの存在価値を「良いモノを買いたい、けれどもいくつもの中から選択するのは大変だという方に、ジャパネットとしてこだわり選び抜いた商品やサービスを徹底的に磨きあげ、世の中に伝えていくこと」と指摘している。

“ジャパネットたかた”の脅威

 それでは、好調ジャパネットの今後の脅威として、どのようなことが考えられるだろうか。

 まず、アマゾンや楽天などインターネット通販業者との競争が本格化してくる可能性がある。現在のジャパネットの主たる販売の場はテレビであり、高齢者が主たる顧客層となっている。ITが広く普及している世の中ではあるが、いまだ高齢者のなかにはネットが苦手という人も少なくない。しかしながら、時の経過とともに、高齢層においてもネットは浸透してくるであろう。そうなると、ジャパネットの主たる販売の場もネットに移行し、結果、大手ネット通販業者との競争が激化してくるかもしれない。

 次に、“大企業病”とも呼べる症状が見え始めている。社長である旭人氏はさまざまなインタビューで、以下のように語っている。

「自社の通販番組やカタログなどを見ると、価格訴求に走りすぎている」

 もちろん、低価格の訴求は悪いことではないが、自社のサービスや商品について徹底的に調べ上げ、顧客の便益にかなう価値をしっかり訴求することがジャパネットの競争優位性であるはずなのに、「忙しい」などを言い訳に安易な低価格訴求に逃げているということである。創業者が会社を去り、組織が大きくなるにつれ、会社の理念のようなものが全社レベルで共有されにくくなってきているのかもしれない。しかしながら、こうした問題点に関しては、早速、改善に向けた取り組みが行われているようだ。

さらなる飛躍に向けて

 それでは、さらなる飛躍に向けてジャパネットはどのような取り組みを行うべきであろうか。多くの取り組みが行われているようだが、本稿では以下2点に注目する。

 まず、リアルショップを上げることができる。ジャパネットは福岡県に店舗(ジャパネットレクリエーションラボ)をオープンさせている。店舗といえば通常、売上が至上命題であるが、この店舗は販売目標なしとのこと。顧客に商品を試用してもらう、またテレビ通販の撮影スタジオを体験してもらうことにより、顧客との関係性の構築・維持・強化を狙っている。さらに、顧客の生の声を収集し、今後の商品開発やテレビ通販などのメディアでの商品紹介に反映する狙いもあるようだ。

 また、注力して取り扱う商品にも変化がみられる。クルーズ旅行、スマートフォン、ウォーターサーバー、これらの商品に共通する特性がおわかりになるだろうか。

 たとえば、テレビやマッサージチェアなどは、一度売ってしまうと、次の販売機会は5年や10年先になってしまう。しかしながら、上記3商品は継続的な販売もしくは収益確保が可能となる。クルーズ旅行は一度行くと癖になるらしい。もちろん、短期的にはコロナ禍の悪影響により、しばらくは厳しい状況となるだろうが、少子高齢化の日本において長期的には成長市場といえる。スマートフォンは、本体自体は一度きりの販売であるが、通信契約代行などにより継続的に収入を得ることも可能である。

 また、日本は水に恵まれているため、これまで欧米などと比較し、ウォーターサーバーはメジャーではなかったが、健康志向の高まりにより今後の成長が期待できる市場である。さらに、毎月水が届けられるたびに顧客はジャパネットを思い出し、ほかの商品の購買につながる可能性も十分にあるだろう。

 創業者であるカリスマ高田明氏が引退する際、「これからジャパネットは大丈夫か?」との声が多く聞かれた。しかしジャパネットには、すでにしっかりとした売れる仕組みが構築されており、現在でも順調に成長を持続できている。ちなみに、2代目となった旭人氏は、幼少期より自分が後を継ぐことを意識していたとのこと。東京大学に入学した理由に関して、「入社の際、親のコネとは思われたくなかったので、一生懸命に勉強に取り組んだ」と語っている。こうした社長のもと、ジャパネットの成長は、ますます加速するのかもしれない。
(文=大崎孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』 プレミアム商品やサービスを誰よりも知り尽くす気鋭のマーケティング研究者が、「マーケティング=高く売ること」という持論に基づき、高く売るための原理原則としてのマーケティングの基礎理論、その応用法、さらにはその裏を行く方法論を明快に整理して、かつ豊富な事例を交えて解説します。 amazon_associate_logo.jpg

ジャパネットたかた、好調の秘密と大企業病の懸念…今後の脅威はアマゾンや楽天かのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!