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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

天丼てんや、「500円天丼」で復活の兆し…値上げで客離れ→新型コロナで持ち帰り需要増

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

「てんや」の強みは、「設備」と「人材」にある。

 設備で特徴的なのは、独自開発の「オートフライヤー」と呼ぶ天ぷらの揚げ機器だ。野菜は溶いた天ぷら衣(たね)にそのまま、海老や穴子などの海鮮や肉には打ち粉をまぶし、天ぷら衣をつけて高温に設定した油の中に入れると、短時間で均等に揚げられる。

 このオートフライヤーを使うと、パートやアルバイト従業員も訓練を積めば調理できる。ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」も手がけるグループとして食材を一括調達すること、調理に熟練職人を必要としないことが、「てんや」が低価格で商品を提供できる理由だ。

 これ以外に、さまざまな派生商品を投入して店舗メニューを活性化させる。たとえば5月13日からは季節限定メニュー「一本釣りかつおとあさりのかき揚げ天丼」(880円)を販売している。

「ごほうび」を低価格で訴求する手も

 ただし、「天丼」「天丼弁当」(並・500円)、「上天丼」「上天丼弁当」(650円)に比べると、派生商品や季節限定商品は割安とはいえない。

 同社としての経営戦略もあるだろうが、消費者心理を研究する筆者としては、当面は高価格メニューを投入しないほうがいいと思う。

 コロナ禍によって、ほとんどの企業が大打撃を受けた。今後は従業員や取引先への「報酬」(賃金や取引条件)にも影響することを考えると、消費意欲の落ち込みは避けられない。

 そこで「低価格のごほうび」需要を喚起してはいかがだろう。そのベンチマーキングとして、リタイヤ世代の消費動向を参考にする手もある。

「てんや」はリタイヤ世代にも強い。平日午後には、現役時代から利用してきたと思われる年配客が、明るいうちから天丼とビールを楽しむ光景も目にしてきた。「年金支給日の偶数月15日には、店内が一段とにぎわう」という。これを現役世代の訴求に生かすのだ。

 たとえば「ほろよいセット」として、生ビール(中ジョッキ)と天丼(並)を1000円未満で提供する。現在の店内メニューには、天ぷらとビールのセットメニューはあるが、天丼とビールのセットメニューはない。

 カウンター席が多く、手軽に食べられる「てんや」を牛丼チェーン店と比較する意見もあるが、前述した高級感の視点では、消費者の意識は少し異なるのだ。

「外食」ブランドを「中食」で生かす

 今年2月、ビジネスジャーナルの「企業・業界」コーナーで、ロイヤルHDの新業態となる「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング テーブル パントリー)」という店の取り組みを紹介した(『ロイヤルHD、ロイホと真逆の新業態店を展開…火と油を使わない&現金使えない』)。

 この中で「中食」市場を見据えた「ロイヤルデリ」(一般向け冷凍食品)の販売にも触れた。コロナ後の経営計画見直しで、ロイヤルHDは拡大する中食市場への訴求をさらに強化するはずだ。ただし、前述した消費意欲の減退を見据えながらの展開となるだろう。

天丼てんや、「500円天丼」で復活の兆し…値上げで客離れ→新型コロナで持ち帰り需要増の画像4
「ロイヤルデリ」を揃えた冷蔵庫

 一般小売店には天丼の冷凍食品も置かれるが、それとは一線を画し、同グループの機内食や病院食事業で培ったノウハウを応用すると思う。合わせて強化したいのがオンライン販売だ。

 筆者が取り上げる機会の多いカフェでも、コーヒー豆をオンラインで販売して実績を上げてきた店は、「営業自粛」の影響も小さかった。この事例から学ぶことはあるだろう。

 実店舗で培った信頼やブランド力を、「三密」がほとんどないオンラインや、少ないテイクアウト事業で生かす。それが企業活動の「次の一手」につながると思う。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。 近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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