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オタクドクター“Chem”の「医療ニュース、オタク斬り!」

『鬼滅の刃』と医療…鬼舞辻無惨の行為は人類が獲得してきた「創薬」の歴史そのものだった

文=Dr.Chem(アニヲタ医師)
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医学の歴史は、創薬の歴史でもある。写真左は、講談社より刊行の吾峠呼世晴著『鬼滅の刃』の2020年5月時点での最新巻である第20巻。右は、エスエス製薬製造の「イブA錠」の60錠入り。

 ご無沙汰しております。アニヲタ医師、Dr.Chem(ちぇむ)でございます。

 国内の新型コロナウイルスの新規患者数は減少傾向となり、残されていた1都3県や北海道なども緊急事態宣言もついに解除されたものの、まだ予断を許さない状況が続いております。

 2020年5月18日発売の「週刊少年ジャンプ」(集英社)第24号にて、2016年より連載されていた『鬼滅の刃』(作:吾峠呼世晴<ごとうげこよはる>)が大団円を迎え、4年3カ月に及ぶ連載が終了しました。大正時代の日本を背景に、人を喰らう鬼と、その鬼を討つべく組織された「鬼殺隊」の戦いを描いた本作は、連載開始当初より高い評価と熱心なファンを得ていましたが、2019年のアニメ化を経て爆発的に大ヒットし、書店で新刊はもちろんのこと、既刊も売り切れで入荷待ちの状況が続いていることが繰り返し報道されています。

 主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)や鬼殺隊の仲間たちと鬼たちとのバトル、アクション、そのなかで織りなされるドラマが大きな魅力ですが、もうひとつの大きな軸に、鬼となってしまった炭治郎の妹、禰豆子(ねずこ)を人間に戻すという目的があります。そのキーパーソンとなるのが、鬼でありながら人の心を持ち、医師として活動しながら「鬼を人間に戻す」薬を開発することに協力する、珠世(たまよ)です。

 作中で炭治郎は、珠世に協力するため、戦って倒した鬼の血液を採取し、提供しています。また、妹の禰豆子の血液も、禰豆子が鬼としては例外的に人を喰らうことなく生きていけること、また後には鬼の弱点である太陽の光すらも自力で克服するといった特殊な性質を持つことから、炭治郎は研究材料として提供しています。

鬼舞辻無惨の行為は、「創薬」の歴史そのもの

 また、本作における「鬼」も、自然発生的に生まれたものではなく、平安時代の医術の延長により偶発的に生まれたものであることが、物語のなかで徐々に明かされていきます。20歳まで生きられないといわれていた貴族の治療のために用いていた薬が、鬼―人の血と肉を食料とし、強靭な肉体を持ちながら、陽の光にあたれば死んでしまう―そのような体質を人の体にもたらしたのでした(第127話「勝利の鳴動」、単行本第15巻収録)。そのような体を手に入れた鬼の始祖であり本作の黒幕である鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)も、自身の弱点である太陽の光を克服するため、当時自分の治療にあたっていた医者が開発していたと目される「青い彼岸花」という薬、その成分を探し求めていました。

 実は、このようにして本編で描かれている「薬」を探し求めるプロセスというのは、細かい成分や効能の説明はさておき、実際の「創薬」つまり、新しい薬が開発されるプロセスをなぞったものとなっているのが、非常に興味深いところです。

 鬼舞辻無惨が目指してきたように、植物などの自然の産物から薬となる成分を取り出し、抽出し、それを薬として用いることは、人類の歴史のなかで、長らく主流の開発方法でした。現在でもいわゆる漢方薬の多くがそうであるように、患者さんの症状に合わせて自然の成分を組み合わせて適切な薬を「調合」することが、医師または薬剤師の仕事の多くを占めていたのです。

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Getty Imagesより

「鬼を人間に戻す薬」は、現代医療の「分子標的薬」開発にも似ている?

 一方、炭治郎たちに協力する鬼の珠世は、さまざまな鬼の血液を採取し、その成分を分析することで、「鬼を人間に戻す薬」の開発を進めていきます。いわゆる「分子標的薬」と呼ばれるような、病気の原因となる分子・遺伝子を直接攻撃する薬剤が開発されるようになっている現代においては、実際の患者さんやラットなどの動物モデルから実際の病気の細胞を採取し、その遺伝子やタンパク質の性質を解析することが開発の礎となることは、珍しくありません。

 本作は前述の通り大正時代が主な舞台ですが、作中の鬼たちは人間の血から、病気・遺伝子などを判別することができると言及されており(単行本9巻、第74話)、鬼となりながらも医師として研鑽を積んでいた珠世が、独自の形で病気としての鬼の性質を分析し、それに対する治療薬を開発できたとしても、なんら不思議なことではありません。

 そうして開発された「薬」は、特に本作の終盤にかけて、非常に大きな役割を果たしていきます。炭治郎や鬼殺隊の仲間たちの「呼吸」を軸としたアクションや技の数々を支えるフィジカルな描写とともに、こうした医学についての描写も、作品を駆動させる大きな力であったことに間違いないでしょう。

 本編の連載は終了となりましたが、秋にはテレビアニメーションシリーズの続きを描く劇場版アニメーション『無限列車編』の公開が予定されており、また、この劇場版の中心人物である煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)にスポットをあてたスピンオフ作品も予定されている旨が発表されています。連載のクライマックスを収録した単行本の発売を待つとともに、これらのメディアミックス展開も楽しみに待つことにしましょう。

Dr.Chem

Dr.Chem

ファーストガンダムと同じくらいの時期に生まれた、都内某病院勤務の現役医師。担当科は内科、オタク分野の担当科はアニメ、ゲームなど主に2次元方面。今回取り上げた『腸よ鼻よ』では、ちょいちょいいろんな分野からのパロディネタが挟み込まれていますが、特に作者が筋肉フェチなこともあってか、格闘マンガ、特に『バキ』ネタが多いです。ちょうどNetflixで『バキ』大擂台賽編が放送中にて、合わせて楽しんでます。

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