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文筆家・森下くるみがテレビを斬る!「エンタメとしての料理番組」第4回

メキシコの巨大渓谷、マレーシアの無人島…男2人のリアリティ番組的海外料理番組がヤバイ

文=森下くるみ
メキシコの巨大渓谷、マレーシアの無人島…男2人のリアリティ番組的海外料理番組がヤバイの画像1
ディスカバリーチャンネルの配信チャンネル「Dplay」内の、『サバイバル・男気クッキング』(原題:KINGS OF THE WILD)紹介ページより

 コロナウイルス感染拡大防止のため自宅待機を余儀なくされる日々のなかで、ますます家事・育児に明け暮れる子持ち文筆家・森下くるみが、最大の息抜きとする「エンタメ料理番組」からお気に入りを紹介する連載。

 第1回ではイギリス人フードライター兼料理人のレイチェル・クーさん、第2回は大人気料理研究家のコウケンテツさんを語り、第3回は料理家の栗原心平さんが出演する長寿番組『男子ごはん』を取り上げたが、第4回は、『サバイバル・男気クッキング』という番組をご紹介する。

『サバイバル・男気クッキング』(原題:KINGS OF THE WILD)は2018年にディスカバリーチャンネルで放送された、「サバイバル×グルメ」をテーマとした番組である。シーズン1の全エピソードは2019年からDplay(ディスカバリーチャンネルの動画見放題ストリーミングサービス)で観られるようになり、そのうちの2エピソードはYouTubeにもアップされている。

 登場人物は、ニュージーランドの凄腕ハンター、ジョシュ・ジェームスと、著名なイギリス人シェフ、マット・テバットの2人。

 通称“Kiwi Bushman”のジョシュは背の高い髭もじゃの男で、ニュージーランドにて狩猟ガイドとしてサバイバルに必要な技術を人々に教える、筋金入りのハンターだ。野生児ゆえ、放送禁止用語が頻発するので「ピー音」が入りまくる。しかし精神に哲学を宿し、振る舞いには民族の血潮がみなぎっている。

 この道20年の“ベテランシェフ”マットは、「食材は野生に限るね」と豪語する、好奇心旺盛(野心的?)な男。常識人に見えるけれど、長いキャリアからくるプライドは隠しきれない。貴重なキノコや野草を見つけたときのコメントで多いのが、「これ、店で買うと高いんだぞ」。サバイバル生活のなかでちょくちょくミスる。

メキシコ北部の巨大渓谷、フィンランドの極寒の北極圏、マレーシア沖のジャングル無人島

 肩書や風貌、人間としての性質は違うけれど、「冒険心」で結ばれた彼らには、「7日間のサバイバルで、自力で調達した食材を絶品料理にして食す」というミッションがある。

 たとえば、山で鹿やイノシシ、野鳥を、海や川で魚介類を捕る。その新鮮素材に火を入れる。そこにキノコをソテーしてつけあわせたり、野草や果実を使ったソースを絡めたりして、野生の食材をレストラン級にする、といったことを目指すのだ。

 サバイバル飯には制約があり、調味料の類はいくつか所持が許されているものの、食材も水も現地調達しなければならない。寝床も自分たちで確保する。

 狩りを担当するジョシュの道具は、サバイバルナイフ、ファイヤースターター、狩りに使う弓矢が定番。調理担当のマットが用意する器具は、煮る・焼く・蒸すができるダッチオーブン(アウトドア用鍋)と大小のナイフ、飯盒など。現場によって持ち物は変わるけれど、いずれにせよ必要最低限の装備で大自然へ挑むことになる。

 サバイバルの舞台には、メキシコ北部のコッパー・キャニオンという巨大すぎる渓谷、フィンランドの極寒の北極圏、マレーシア沖にあるジャングルに覆われた無人島のほか、過酷な環境ばかりが用意されている。さすがディスカバリーチャンネル、インパクトのある撮影場所探しなら任せろ、といった貫禄を感じる。

リアリティー番組のような男2人の料理番組

「ブルガリアのロドピ山脈の奥地」でサバイバルした“エピソード2”を例として挙げてみよう。

 冒頭では、2人がヘリに乗り込んで渓谷へ移動する様子が映される。ヘリから見下ろす人跡未踏の原生林は景色としては素晴らしいが、カメラが険しい山道と谷底を捉えると、一瞬で「怖っ!」となる。「こんな密林に降ろされたらソッコーで遭難するし、山の急斜面から転げ落ちて、最悪は……」と素人のわたしは思うわけだ。

 ただ、大自然に放たれた2人を追うカメラも存在するし、ドローンによる空撮も挟み込まれる。脚本はなくても演出(それとは気づかない程度の)は入っているだろう。映像編集の段階でエピソード全体のイメージを調整している気もする。ドキュメンタリー番組のようでもあるけれど、リアリティー番組の要素が加味されているから見やすい、ともいえる。いずれにせよ、サバイバルやアウトドアになんの縁もないわたしでも、あっという間に番組に引き込まれてしまった。

 エピソード2のブルガリアの山脈編は面白い。なぜなら、「獲物をなかなか確保できない」から。大自然に恵みが多いのは確かなのに、2人はジビエ的なごちそうには簡単にありつけないのである。「肉を食うには執念がいる」問題は、全エピソードに共通している。

 肉が食えないときはどうするかというと、この山脈編では「素手で捕ったマスと3〜4本ばかり採取できたアミガサダケとブナノキの葉のソテー カタバミを添えて」みたいなごちそうができ上がる。しかし大の男が小さい魚のソテーで満足するか? となって、ジョシュが弓矢を背負い、シャモア(カモシカ)を獲るべく再び立ち上がるのだ。

 面白さは2人のキャラクターにもあって、ハンターのジョシュなんかは、どれだけ歩き回ってもシャモアを仕留められないせいで苛立ち、落ち込み、疲れ果てた末に「もう飽きた」などと本音とも愚痴ともいえないことを吐く。無理もないよ、とわたしは思う。だって弓と矢で捕らなければいけないのだから。空腹でフラフラだろうし、腕の良し悪しも関係ないだろうし、こんな何もかも超越した山のなかで何か獲れるほうがよほどどうかしている。

 あまりネタバレするとこれから見る人に失礼なので、この辺にしておく。ジョシュVSシャモアの結末はぜひ動画で楽しんでほしい。

マタギの精神に通ずる生き物への畏怖の念

『サバイバル・男気クッキング』の面白さはほかに、シェフのマットが起こす”致命的ミス”だ。せっかく仕留めた獲物を黒こげにしたり、食っちゃいけない植物をジョシュに与えて体調不良にさせたり、「お前ホントに経験豊富な料理人か!?」というツッコミ待ちなことをするので、こちらも大いにご期待ください。

 それと、最後に一番大事なことを。番組アタマに出る「不用意な野生食は危険を伴います」というテロップは感染症への警告である。現在コロナ禍にあって、原因は、もともとはコウモリを宿主としていたウイルスではないかという説がある。人間はその気になれば猿でもサソリでもなんでも口にするけれど、リスクがあるのを忘れるなということ。

 そしてジョシュとマットは当然ながらお遊びで狩りをしているわけではないのだけど、ちょっとでも「生き物を殺すのはかわいそう」とか思う方は観ないように。

 ジョシュには生き物や自然への畏怖があって、獲物の一部を儀式的な所作で木や土に還しているのを見たとき、これはわたしの故郷・秋田にいるマタギの精神に通ずるものだなぁと感慨深くなった。

 タイトルの「男気クッキング」は実にキャッチーで個人的に気に入っているけれど、この番組の本質は、原題「KINGS OF THE WILD」に象徴されるのかもしれない。

(文=森下くるみ)

森下くるみ

森下くるみ

1980年、秋田県生まれ。文筆家。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社、2008年)、『らふ』(青志社、2010年)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ、2016年)など。

Twitter:@morikuru_info

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