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緊急事態宣言解除で“住宅難民”が急増の恐れ…一時住宅は期限切れ、仕事も現金給付もなし

文=林克明/ジャーナリスト
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支援団体関係者(右)は東京都にコロナ不況による住宅喪失者のための緊急要望書を提出した(5月26日/東京都庁)

 自粛期間中、「ステイホーム」と言われて一番困惑したのは、ホームレスの人たちだろう。

 ホームレスと聞くと、路上で寝泊まりする人を想像する人が多いだろうが、ネットカフェや24時間営業のファストフード店を住居代わりにする人など、不安定な住環境の人々も含まれる。

 昨年10月に消費税が10%へと増税されて困窮者が急増したところに、ダメ押しの新型コロナウイルスショックが重なったことで、住居を失う危険のある人が増えているのだ。

 5月26日から全国で緊急事態宣言が解除されたとはいえ、これから先も「補償なき休業要請」による壊滅的打撃は拡大する恐れがある。家のない当事者からすると、緊急事態宣言発令中はある程度、行政の支援を受けられたが、逆に宣言が解除されたことで手当てが薄くなるのではないかと、不安を抱えることになる。

 このような状況で5月26日、市民によるホームレス問題の調査や参加型まちづくりを実施している北畠拓也氏の呼びかけで、都内のホームレス支援6団体が東京都福祉保健局に対策を申し入れた。

 実は、緊急事態宣言が発出される直前の4月3日、同じ支援団体の代表者たちが緊急申し入れしている(当サイト記事『新型コロナ恐慌でホームレス激増の恐れ…消費増税との二重苦、リーマンショック以上の打撃か』参照)。

 2018年末の東京都の調査では、約4000人がネットカフェなどで過ごしていた。コロナ感染拡大防止のために都が休業要請したら彼らは寝場所を失い、路上生活者が激増する危険があった。

 そこで、コロナ感染対策を考慮して、「住まいを失った人に、相部屋の施設ではなく個室の提供を」と、緊急の申し入れをしたのだ。この緊急要請から3日後の4月6日、都は補正予算を組んで一時住宅提供などの事業費として12億円を計上した。

3~4カ月後に「一時住宅」から出なければならないのか?

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(上)現行のホームレス支援体制。(下)支援団体が提出した緊急改善案。住宅喪失者への現金給付、一時滞在住宅の期間延長、要件の緩和などが盛り込まれている。

 住宅困窮者の窓口としては、都に設置された「TOKYOチャレンジ」と「区と市の窓口」がある。これらの窓口に相談・申請すると、下記3つの制度の適用を受けられる。

(1)住宅喪失不安定就労者支援
(2)生活困窮者自立支援
(3)生活保護

 この3つの制度を適用して、まず一時滞在場所のホテルに入る。その後、一時住宅に入居(3カ月)を経て自立。あるいは、生活保護を受ける人は、長期間過ごせる居宅(アパートなど)に移るシステムになっている。

 当初は、「都内に6カ月在住する者」という条件が掲げられたが、それでは到底対応できず、支援団体らの働きかけで、この条件は撤廃された。とはいえ、緊急事態宣言が解除された5月26日の都庁内での申し入れ行動でわかったのは、宣言が解除されても“コロナ住宅難民”の緊急事態は変わっていないことだ。

 第一に、一時滞在場所や一時住宅で暮らせる期間の延長が必要である。仕事を探して自立しようと努力しても、この大不況では簡単にはいかない。支援の期間に重大な不安を覚える当事者が多いのだ。

 応対した都の福祉保健局保護課の西脇誠一郎課長は、「基本は居宅(アパートなど)保護。ただ、申請者に対して一斉にドーンと提供するのは難しく、調整していきたい」旨を答えた。また、一時住宅の当初の期間「3か月間」を「4カ月間」に延長し、個別対応していく方針だと、福祉保健局は答えている。

給付金10万円をホームレスは受け取れないのか?

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「新型コロナウイルス禍に伴う住宅喪失者への支援強化についての緊急要望書」 賛同団体:ホームレス総合相談ネットワーク、有限会社ビッグイシュー日本、一般社団法人つくろい東京ファンド、認定NPO法人ビッグイシュー基金、特定非営利活動法人TENOHASI、呼びかけ人北畠卓也氏。

 次に問題となるのは、現金給付がないので自立しようにも自立できない実情がある。

 申し入れに参加した、路上で雑誌を販売して売り上げの一部を販売者の収入とする事業を行っている有限会社「ビッグイシュー日本」の佐野未来氏は、「一時的に住まいを確保できても、現金給付がないために困っており、『なんでもいいから仕事はないか』という相談が非常に多い」と言う。

 池袋で長年、ホームレス支援をしているNPO法人「TENOHASIてのはし」の清野賢司代表理事は「相談してくる人の多くは、生活保護でなく、なんとかがんばって仕事を探して自立したいと希望している。だから、東京都が彼らに仕事を出したり、現金給付を検討することはできないか」と、都に申し入れた。

 一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事によると、「過去に実施された地域生活移行支援事業において、東京都は公園清掃などの仕事を出していました」とのこと。

 実際、就労意欲の強い住宅喪失者が多いので、現金給付や都が仕事を出すことも重要だろう。

 そして、ここでさらに大きな壁が立ちはだかる。それは、5月末時点で政府が一部実行した唯一の有効な直接支援といえる「一律の10万円給付」がホームレスの人々に届かないことだ。

 4月27日時点で「住民登録のある人」が、給付を受け取れる条件だからである。ホームレスの人々が受け取れる可能性は低い。一時滞在場所のホテルに住む当事者が、かつて住民登録のあった自治体に問い合わせると、「住民票をホテルには移せない」と断られた例があるという。国が各自治体に通達を出し、緊急対応してすべての人々に10万円を支給するしかないだろう。

 以上見てきたように、緊急事態宣言が解除されても、今後ますます住まいを失う人が続出する恐れがある。したがって、東京都も緊急体制をとり、一時住宅や一時ホテルの柔軟な期間延長、現金給付、仕事を与えることは急務だ。
(文=林克明/ジャーナリスト)

※今回、要望書を提出したグループは署名活動を行っている。
コロナ不況で住まいを失う危険のある生活困窮者、路上生活者への緊急支援を求めます

※6月6日、弁護士と労働組合のグループが通話無料の電話相談会を開催する。
「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」0120-157930
受け付けは午前10時から午後10時まで。

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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Twitter:@@hayashimasaaki

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