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独居老人を死に追いやる“病原菌まみれ”のゴキブリ&ネズミ…死亡現場のおぞましい実態

文=菅野久美子/ノンフィクション作家
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独居老人を死に追いやる“病原菌まみれ”のゴキブリ&ネズミ…死亡現場のおぞましい実態の画像1

「Getty Images」より

 世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。実は、この新型コロナの最前線で消毒作業に当たっているのが、孤独死などの清掃に当たる特殊清掃業者だ。人間を襲うのは、コロナだけではなく、ネズミ由来の感染症やカビなど多岐に亘る。“コロナ孤独死”ともいえる事例が多発するなか、人を殺す数々のウイルスや細菌由来の恐るべき感染症について特殊清掃業者に語ってもらった。

コロナ孤独死の恐怖

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『超孤独死社会特殊清掃の現場をたどる』(菅野久美子/毎日新聞出版)

「実は、もう我々の業界ではコロナ孤独死ではないかという疑いのある事例が出始めています。日本政府が出した感染者数や病院などが出した病名は、もとから疑っていました。それを前提にシュミレーションしていたんです。この状況だと誰にも知られずにコロナで死んでいく人たちがいてもおかしくないですからね」

 そう語るのは、神奈川県で特殊清掃業を営む上東丙唆祥だ。特殊清掃業は死者が出ると、特に夏場はすぐに室内に入り清掃作業を開始することになる。そのため感染リスクにさらされやすい。

 東京都の市営団地に住む90代の女性は自宅で孤独死しているのを、駆けつけたレスキュー隊に発見された。女性は2~3日前に体調が急に悪くなったことを近所の住民に相談していた。しかし、容体が急変し、テーブル横で倒れてそのまま呼吸が止まったようだ。女性の部屋は、整然としていた。しかし、窓ガラスには、急を要すると判断した警察が割って入ったのか、ヒビがジクザクに入っていて生々しかった。

「この事例は、コロナ孤独死ではないかと思って徹底的に慎重に作業しましたね。徹底的に消毒しました。目に見えないウイルスはかなり用心しないと大変なことになります。自宅や路上での正式な感染者数が発表されていないだけでなく、死者にも検査を行っていない以上、どうしても今の時期は、コロナを疑って消毒などを行っています」

 上東は、人と人との接触だけでなく、モノに付着したウイルスにも要注意だという。ウーバーイーツなどの出前やトイレのドアノブ、そして買い物袋に入れた食料品なども消毒する必要がある。人と人との接触だけが注目されがちだが、その人が触ったモノも疑うことが、特殊清掃業者の感染症予防の基本なのである。

ネズミが媒介する感染症

 一般的に特殊清掃というと孤独死などで部屋で亡くなり、遺体は数日~数カ月放置されていて、なんらかの病原菌が原因で亡くなったことで遺体に感染症リスクがあると考える人が多いだろうと思う。代表的なものとして、肝炎、HIV、結核、下痢、ノロウイルス、インフルエンザである。

 しかし、上東がもっとも恐れるのは、害虫(ゴキブリ、ダニ等)、ネズミ、ホコリ、カビだ。特にネズミは、E型肝炎、鼠咬症、腎症候性出血熱、ペスト、レプトスピラ症(ワイル病)ハンタウイルス肺症候群などの病原菌を媒介する。全身が病原菌まみれで、排泄物や唾液にも含まれる。そして、尿を垂れ流しながら移動し、部屋中に菌を振りまく。

「ネズミがこんなに危険な病気を媒介するなんて、怖いと思いませんか? さいわい、現代日本の衛生環境では、危険な病気が爆発的に感染することはほとんどないだろうと考えられます。しかし、僕の仕事の上では身近にあることなのです」

 家主が亡くなって、1年以上家財道具がそのままの状態で空家になっている場合に多いのが、ネズミ物件だ。特に、一軒家は要注意だ。ネズミはゴキブリを補食し、ゴキブリはダニなどを補食する。部屋のあちらこちらにラットサイン(齧った跡、糞尿)が目立つ家には、逆にゴキブリはいないと思っていいのだという。

「ネズミは、自分たちのテリトリー(一軒家)などで繁殖しても、食べる量を超える数に子供が増えれば間引きして、共食いをします。そうやって一定のコミニティー数を保ち、それでも食料に限界が来たら移動する。すでにほかのネズミがいれば、そこには侵害せずに遠くに移動する習性も持つんです。コロナウイルスをきっかけにして、ぜひ自分の家の環境を見直してみてくださいね」

 あなたの家にもすでに住み着いているかもしれない、身近な侵略者であるネズミ。実は、かなりデンジャラスな生態で人を脅かしているのだ。

ゴキブリが媒介する病気

 ゴキブリから検出される病原体から重篤な病気につながることがある。サルモネラ菌は食中毒を引き起こすし、チフス菌は腸チフスを引き起こす。最近では、胃がんや胃潰瘍の原因となるピロリ菌もゴキブリが媒介しているという説も飛び出している。毒性が高い危険なウイルスや菌を持っていることも多い。ゴキブリは特殊な膜に覆われており、自らは雑菌はもろともせず、部屋中に菌をまき散らすという厄介な生き物なのである。

 ある日、上東氏はゴミ屋敷と化した1DKの部屋の片づけを依頼された。そこは、とてつもないゴキブリ屋敷だった。この部屋の住民の70代の女性は網膜剥離でほとんど目が見えず、大量のゴキブリの存在に気づくこともなかったらしい。買い物をしても、食べ物をそのまま放置してしまうため、虫たちの楽園と化していたのだ。

「床やキッチンに目をやると、壁の黒い模様が動いていたんです。同時にゴミ袋がカサカサと鳴っていました。絶句しましたね。さすがにこれほど多くのクロゴキブリを一度に見たことはなかったからです。壁一面が何百、何千という数のゴキブリで埋め尽くされていたんです」

 女性は胃がんの末期で余命宣告を受けていた。この住民ががんになったのも、ゴキブリが原因だった可能性が非常に高いと上東氏は語る。ゴキブリが徘徊するピロリ菌が原因となったのだろう。

 なんと恐ろしいことに、ゴキブリはこの住民の人命をいとも容易く奪おうとしているのだ。 

 上東氏らはプロである。多少の害虫の対応は慣れたものだ。しかし、この物件に関しては3人体制でドアというドアに目張りをして、大量の殺虫剤を振りまいたが、敵の数があまりに多すぎて、なかなか歯が立たなかったという。ゴキブリは、なめてはいけない恐るべき生き物なのだ。

(文=菅野久美子/ノンフィクション作家)

菅野久美子

菅野久美子

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。ノンフィクション作家。著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)『アダルト業界のすごいひと』(彩図社刊)『エッチな現場を覗いてきました!』(彩図社)がある。

Twitter:@ujimushipro

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