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医療法人仁手の会、詐欺・患者の負担金ネコババ・診療報酬水増しの疑惑浮上

文=深笛義也/ライター
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医療法人仁手の会が運営する「森の歯科医院FOREST」

 悪事とはまったく縁のなさそうな、こぢんまりとしたクリニック。逗子駅と鎌倉駅の中間辺りにある。周囲は閑静な住宅街だ。近くには手作りパンを売る店がある。周囲の住民の優雅な生活ぶりが窺える。歴史を感じさせる洒落たビルの一角に、「森の歯科医院FOREST」はある。レストランの前にあるような看板があり、手書きで「子ども無料検診」「矯正相談」などの案内が書かれ、樹木のイラストまで添えられている。温かな治療が受けられそうだと期待させる外観だ。

 医療法人仁手の会は、神奈川県逗子市の「森の歯科医院FOREST」のほか、川崎市で「結の歯科医院」、横浜市で「もりの歯科医院」を運営している。仁手の会の理事長は高畠太士医師。平成17年に鶴見大学歯学部卒業、平成23年に森の歯科医院FOREST開院、平成27年に医療法人仁手の会設立と、インターネットで経歴が明らかにされている。本人の写真もあるが、患者に安心を与えそうな優しい笑顔だ。

 仁手の会の監事が、今年1月10日付けで高畠理事長に宛てた監査報告書には、温かなクリニックというイメージとはそぐわない不正が並んでいる。

 1つ目は、昨年6月14日、仁手の会は湘南信用金庫逗子支店より2500万円の融資を受けたが、高畠理事長の弟である西川英吾氏が代表取締役を務める「株式会社企業の森」に、同日、仁手の会から2100万円が振り込まれたという問題だ。

 2つ目は、年度決算時、訪問診療時の患者の負担金の未収金が、わかっているだけで160万円あまりあったという問題だ。

 3つ目は、森の歯科医院FOREST、もりの歯科医院において、訪問診療時間の虚偽報告があり、再三、注意喚起したが是正されていない問題だ。

 監査報告書を提出してから、監事はいつの間にか自分が解雇されていたことを知る。それが確かめられたのは、監事が神奈川県に情報公開を求めて開示された、昨年12月30日の仁手の会の臨時社員総会議事録によってである。

 12月30日の午後6時から7時まで開かれたとされる臨時社員総会では、第1号議案が監事の解任の件、第2号議案が新たな監事の選任の件、第3号議案が監事の社員からの除名となっている。それらはすべて可決されたと記されている。臨時社員総会は監事の解雇に関することのみが議題となったわけだが、監事本人は招集されていない。

 医療法第46条によって、監事の職務は「医療法人の業務を監査すること」「医療法人の財産の状況を監査すること」「医療法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後三月以内に社員総会又は理事に提出すること」「監査の結果、医療法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを都道府県知事又は社員総会若しくは評議員会に報告すること」とあり、「社団たる医療法人の監事にあっては、前号の報告をするために必要があるときは、社員総会を招集すること」と定められている。

 監事は社員総会を招集する立場なのだ。その監事が不在のまま社員総会が行われ、監事の解雇が決定されるのは、本来はあり得ないことだ。臨時社員総会は実際には行われておらず、議事録だけが偽造された可能性さえ考えられる。

 この議事録には議長と議事録署名人の記名押印がされている。筆者が懇意にしてい
る弁護士に質したところ、監事が出席していないのに監事の記名捺印などがあれば「有
印私文書偽造罪(刑法159条)等に該当しますし、このような文書を使用して登記等を
行えば公正証書原本不実記載等罪(刑法157条)等に該当します」との回答であった。

ペーパーカンパニーへの資金移動

 あらためて監事がその職務に沿って作成した、監査報告書の内容を見てみよう。

 1つ目の、湘南信用金庫逗子支店より2500万円の融資を受けた仁手の会が、株式会社企業の森に2100万円を振り込んだという問題。筆者の手元には、その金銭消費貸借契約証書のコピー、その振り込みが記載された通帳のコピーがある。企業の森の代表取締役である西川英吾氏に電話で問うたところ、こう答えた。

「企業の森っていうのはグループホームを神奈川県のほうでやっているんですけども、もともとは医療法人でやる予定だったんですよ。僕の兄の高畠理事長がやっている医療法人でグループホームをやる予定だったんだけど、急遽、医療法人でグループホームするってなった時に、定款変更っていいまして、医療法人の定款変更って株式会社とかとは違って何カ月もかかってしまう、認定するのに。それで人も集めてたっていう状況なので急遽、株式会社企業の森って私が一応代表にはなっているんですけど、何もしてない会社だったのですよ。何かあった時に対応できる会社として、ひとつ作っておいた会社なんですね。

 急遽、医療法人でもともとグループホームをやるっていう予定だったのに、医療法人でやるってなったら定款変更が大変だということだったので、それで企業の森を使おうかって話になったんですよ。その企業の森に、最初は企業の森でスタートしてゆくゆくは医療法人に企業の森を取り込むという流れだったので、理事長の判断として、医療法人ではすぐはできないけど人は集めてしまったのでっていうことで、企業の森は医療法人に取り込んでいくっていう流れなんで」

 障害者への介護サービスを行うグループホームの名称は、「よろこびの森」。JR横須賀線の東逗子駅から徒歩で約10分ほど。民家をそのまま活用した施設で、玄関までは階段がある。近くを流れる田越川では、初夏には蛍が飛ぶという。悪事とは縁のなさそうな、のどかな場所である。

 企業の森の登記を見ると、本店は岡山県玉野市にある。会社の目的は33項目に及んでいる。目に付いたものを抜粋しただけでも、「介護保険法に基づく居宅サービス業務」「不動産取引業務」「日用雑貨品、下着の販売並びに輸出入業務」「各種イベント、セレモニー、パーティーの企画運営業務」「飲食店の経営業務」「旅行業及び旅行代理店業務」と多岐にわたっている。西川氏の言うように、何かあった時に対応できるように作っておいた会社、世にいうペーパーカンパニーである。

 仁手の会から、当時はペーパーカンパニーであった企業の森への資金移動について、前出の弁護士は指摘する。

「金融機関としては、『医療法人が、貸付金をただちに実績のないペーパーカンパニーに移動することを知っていれば最初から融資しなかった』ということは明らかです。したがって、『医療法人が、本来はペーパーカンパニーに移動するための金銭にもかかわらず、自身の資金繰りに使用すると偽って融資を受けたこと』は、詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性があります。なお、『このペーパーカンパニーを医療法人に組み入れるから大丈夫だ』との弁解をしているとのことですが、株式会社を医療法人に合併することは、法律上不可能なので、方便にすぎません」

 2つ目の、訪問診療時の患者の負担金の未収金が、あまりにも多額だという問題。医療費のうち患者が窓口で支払うのが、負担金。幼児や高齢者などは1~2割だが、多くの人々は医療費の3割となっている。その未収金が、160万円あまりあるというのだ。これは監事が、貸借対照表、損益計算書、営業報告書などを精査して確かめたことだ。内部の事情に詳しい者によると、会計上は未収金となっているが、実際には患者からは徴収しているという。その金はどこに行ったかというと、高畠理事長のポケット。私的利用に回されているのだという。

 3つ目の、森の歯科医院FOREST、もりの歯科医院において、訪問診療時間の虚偽報告の問題。診療が行われると、医院は保険者(市町村や健康保険組合)に請求する医療報酬の明細書を作る。これを、レセプトと呼ぶ。訪問診療時間の虚偽報告によって、レセプトの操作を行っていると考えられるのだ。時間そのものの改変だけでなく、実際には一緒に診療に向かった医師と衛生士を、別々に行ったことにするなどの虚偽報告がされているようだ。これによって実際に行った治療よりも多くの診療報酬を得ているということになる。

「実際に行っていない診療報酬を請求したり、加算事由がないのに加算して診療報酬を請求することは、健康保険法や社会保険法等に反する違法行為となることでしょう。おそらく罰則もあると思いますし、保険医療機関としての指定取消処分もあり得るでしょう」(前出弁護士)

錬金術の目的

 監事が指摘した3点以外にも、多くの問題があることが、別の関係者からわかった。10桁の数字からなる医療機関コードというものがある。森の歯科医院FOREST、結の歯科医院、もりの歯科医院において、法人から個人に移し、再び法人にするという手法で、医療機関コードが変わっている。これは何を意味するか。仁手の会は診療報酬を担保として、金融会社から借り入れを行っている。医療機関コードを変えることで担保の差し押さえを逃れているのだ。

 医療施設にはすべて、その管理を行う管理医師が必要だ。医療法第15条にはこうある。

「病院又は診療所の管理者は、その病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督し、その業務遂行に欠けるところのないよう必要な注意をしなければならない」

 管理医師は常勤していなければならない。結の歯科医院においては、過去にも勤務実態のない医師を名義上の管理医師にしていたことがあり、最近でも同様のことが起きている。名義を管理医師として使われた医師と係争になっているのだ。不適切な経営で、診療報酬を得ていたことになる。これについても、詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性があると、前出の弁護士は指摘した。

 こうした一連の錬金術は、高畠理事長に何をもたらしているのか。彼には妻子があるが、2人の愛人がいるという。その1人は歯科助手、インターネット上のサイトで多く読者モデルを務めている、30代女性だ。彼女が衛生士の資格を取るために、高畠理事長は資金援助をしているという。

「いろいろ問題がありそうですが、例えば、『理事長が自分の愛人に法人のカネを流す』のは、法人から課せられた様々な義務に反して愛人の利益を図り、医療法人に損害を与えることになりかねないので、背任(刑法247条)に該当する可能性があります」(前出弁護士)

 指摘されている数々の不正に関して、本人の弁を聞くべく高畠理事長に電話した。未収金について問うている途中で、彼は「電話を替わります」と言い、女性の声になった。高畠理事長から話を聞くために電話をしているのに、なぜ替わるのかと訝り、「失礼ですが、あなたはどういう立場の方ですか?」と問うと、「事務員です」とのことだ。質問の内容を伝えると、あとから高畠理事長から電話があった。

「裁判をやるんですよね。裁判が終わればすべてが明らかになりますので、お答えできない」

 今、多くの医療従事者たちが、身を挺して新型コロナウイルスの感染拡大と闘っている。仁とは、他人を大切に思い,いつくしむ感情を表す語である。仁手の会を設立した時の高畠理事長の気持ちは、今と同じだったのだろうか。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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