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北朝鮮、米朝合意を反故、核兵器開発推進と正面突破戦を宣言…金正恩軍最高指導部体制を構築

文=相馬勝/ジャーナリスト
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北朝鮮・平壌(「gettyimages」より)

 北朝鮮では朝鮮人民軍の元帥である金正恩朝鮮労働党委員長に次ぐ軍ナンバー2で制服組トップの次帥に、核ミサイル開発の最高責任者で対米強硬派の朴正天軍参謀長が任命されたことがわかった。金氏は同時に、軍の中核となる指導部メンバー97人に大将から少将の称号を授与し軍指導部を一新しており、これは実質的な「金正恩軍最高指導部体制」を構築したことになる。

 さらに、金氏は軍事称号授与の命令書のなかで、「前代未聞の厳しい難局を正面突破して社会主義強国を建設し、新たな勝利を収めよう」と述べるとともに、「国家防衛力と核戦争抑止力を一層強化し、激動した状態でも高度な戦略武装力を維持、運営すべき」と強調するなど、従来の核兵器開発路線を今後も推進することを明かにした。これは、一連の米朝首脳会談での核兵器開発撤退合意に反しており、北朝鮮が軍事的に米国に対抗する姿勢を明確にしたことを意味するものである。

 朝鮮中央通信によると、金氏は5月24日、平壌で党中央軍事委員会拡大会議を開催し、朴氏の次帥昇格のほか、核・ミサイル開発の技術面の最高責任者である李炳哲・党副委員長兼軍需工業部長を党中央軍事委副委員長に任命。軍内の秘密警察部門トップの鄭京擇・国家保衛相に大将の称号を授与した。

 3人は昨年夏からこれまで、金氏が活発に短距離戦略ミサイル発射訓練、砲兵部隊の大規模な実弾演習や軍事訓練などを実施した際、金氏に寄り添い、メモをとったり、説明をしている姿が目立っていた。とくに、朴氏は昨年9月まで軍ミサイル砲兵局長として軍事演習で陣頭指揮を執り、新型短距離戦略ミサイルの開発に成功したことで参謀長に抜擢。さらに、今回の軍事委拡大会議で軍ナンバー2の次帥に昇格し制服組トップに上り詰めたことになる。

 朴氏は昨年12月、トランプ米大統領が北朝鮮との非核化交渉に関連し、「必要があれば軍事力の行使も辞さない」と述べたことについて、声明を発表し、「金委員長が非常に不快感を持って接した」と批判。そのうえで、「米国が武力を使用すれば、われわれも任意の水準で速やかに相応の行動を加える」と警告したことで知られる。軍最高幹部とはいえ、朴氏が金氏の主張を代弁するかたちで、声明を発表することは極めて異例で、金氏の信頼が厚いことを物語っている。

金氏が軍部を完全掌握

 さらに金氏は命令書のなかで、以下のように指摘している。

「革命武力の剛勇な戦闘的気質と不敗の威力に依拠して国の自主権と尊厳をしっかり守り、前代未聞の厳しい難局を正面突破して社会主義強国の建設で新しい勝利を収めようとすることは朝鮮労働党の確固たる信念であり、揺るぎない意志である」

「すべての朝鮮武力指揮メンバーは、朝鮮労働党の指導を生命線にとらえて栄えある朝鮮労働党創立75周年を意義深く迎えるための壮大な闘争の先頭に立って進撃の突破口を開き、強兵建設偉業と社会主義建設偉業の遂行の全般において前例のない革新的成果を創造して偉大な党の軍隊、偉大な人民の軍隊としての高貴な名誉を輝かしていかなければならない」

 このなかで繰り返し強調されている「正面突破」や「進撃の突破口」などについて、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は5月27日、「正面突破戦は人民に対する滅私奉仕戦である」と主張する署名入りの論説を掲載している。金氏が軍事委拡大会議や昨年末の朝鮮労働党総会で打ち出した「正面突破戦」というスローガンが、北朝鮮国民のためであるとアピールする狙いがあるようだ。

 論説は、「朝鮮労働党が再び困難かつ長期にわたる闘争を決心して正面突破戦を宣布したのは、平凡な日々にも試練の時期にもひとえに党だけを固く信頼して絶対的に支持してきた偉大な朝鮮人民を豊かに暮らせるためである」と強調。「困難かつ長期にわたる闘争を決心」としていることから、同党は国際社会による経済制裁の長期化を見込みながら、米朝関係をはじめ国際環境が容易に好転しないことを認識していることを表している。

 また、軍事委拡大会議で朴氏を含めて100人近い軍幹部が第一線の最高指揮官として将校の称号を授与されるのは極めて異例で、金氏が軍部を完全掌握し、若手を中心とした金正恩軍事指導部体制が整いつつあることを示している。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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