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阿部誠「だまされないマーケティング…かしこい消費者行動:行動経済学、認知心理学からの知見」

「少数の法則」の罠…がん“出現率”が高いor低いのは、両方とも人口密度の低い田舎?

文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
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 人は本能的に自身を(否定より)肯定したがる特性があって、それに大きく反する事例でも見かけない限り、特に疑念を持ちません。観念を肯定する証拠は積極的に受け入れたり意図的に探したりしますが、反証の追加探索には気後れし、提示された反証は安易に受け入れない傾向があります。

 たとえば「赤ワインを飲むとコレステロール値が下がる」という説を信じていると、そのようなことをいう友人や有名人を思い浮かべて自身を納得させても、あえて赤ワインを飲んでいるにもかかわらずコレステロール値の高い人を思い出したり、赤ワインを飲まない人たちのコレステロール値を調べてみようと考えたりは、なかなかしないでしょう。

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 私の学生が行った「確証バイアス」に関する実験を紹介しましましょう。

 あるヘアサロンのウェブサイトで、ユーザーが投稿した4つの属性(店舗環境・設備、作業の満足度、スタッフの魅力、リピート意向)に関するレビューを10本読んでもらい、ヘアサロンを友人に勧める際、これら4つの属性をどの程度、重要視するかを聞きました。

 その結果、属性に関するレビューの数が多いほど、そしてその属性に対する評価点が高いほど、その属性を重視することがわかりました。ただし、属性に関するコメントがレビューによって相反しているか(ポジティブとネガティブのレビューが5本ずつ)、それとも整合しているか(10本すべてのレビューがポジティブ、またはネガティブ)の影響は、被験者がその属性をもともと重要だと思っていたかどうかで、逆になりました。

 ある属性を重要だと思っていた被験者は、それに関する背反したレビューを読むと、その属性の重要度を下げました。これは属性が重要であるという自身の信念と整合性がとれないレビューを軽視する、確証バイアスの影響だと考えられます。

 一方、ある属性を重要だと思っていなかった被験者は、それに関する背反したレビューを読むと、その属性の重要度を上げたのです。これはすべてがポジティブ/ネガティブのレビューより、ポジティブとネガティブが混在しているレビューを読むと、今まで自分があまり意識していなかった属性に関して、相反する部分を自発的に調べて、自身で真実を判断したいという動機が働いたからです。

 一般的に有能な人ほど「確証バイアス」の影響を受けやすいといわれます。たとえば、科学者の例を考えてみましょう。ある細胞を発見すべく何十年も研究を続けていると、実験結果を完全に中立的な立場で判断することが難しくなってきます。その細胞の存在を支持する実験結果は疑いもなく受け入れて、実験の不手際などは深く検討されない傾向があります。

 一方、細胞の存在を否定する実験結果が得られたときは、自分は何か実験でミスをおかしたのではないかと、徹底的に追及するでしょう。実は、まだ色に染まっていない初心者のほうが、公正な判断ができたりするのです。

(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)

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