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中曽根陽子の教育最前線

オンライン教育で乗り切った“公立”小学校の挑戦…生徒が、教師が変わった3カ月の記録

文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表
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オンライン教育で、子どもの新たな可能性を発見。教員自身も成長の機会になる

 やってよかったことは、「子どもたちの笑顔が見れたことと、子どもたちの良いところだけを見つけられること」(庄子先生)。朝の会をやってみて気づいたオンラインの可能性は、チャット機能やボディランゲージで全員が意思を表示できることで、これまで発言できなかった子どもも意思表示ができること。これによって、全員の子どものよいところを見つけられた。

 さらに、他の教室のサポートに入ることで、普段はなかなかできない他の先生の授業をみることができたことだった。教育現場にオンラインを取り入れることで、教員のマインドセットが変わり、職員室の関係性を変えることにつながる。以前取材した渋谷区立西原小学校の手代木英明校長も同様のことを言っていたが、子どもたちだけでなく、教員自身にとっても大きなメリットがあると言っていいのだろう。

「遅れを取り戻す」ではなく、「今だからこそできること」で学校を進化させる

 今回のイベントを開催する前に、庄子先生は4月から「オンライン授業を通してこれからの教育を考えようプロジェクト」を結成してセミナーを開催してきた。回を重ねるごとに参加者が増え、学校教育をさまざまな角度からみてきた団体や個人とつながり、5回目のこの日1400人近くが参加するイベントになった。しかし、このイベントのゴールはさらに先にある。

 それは、新しい学校教育を実現することだ。学校再開後、「遅れを取り戻す」ことにばかり注目が集まっているが、この経験をバネに教師自身が発想を転換し、「今だからこそできること」を行い、学校教育の新しい可能性を一から探っていきたいという。

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発想の転換で、挑戦できることはいろいろある

 なぜなら、このままだと、遅れを取り戻すことに焦って、多くの学校で詰め込み教育が行われてしまいかねないからだ。実際、このイベント後半の分科会で同じグループだった地方の先生たちからは、

「詰め込み教育はいけないとわかっていても、2カ月できなかった履修内容をどこに当てはめようかと時間割を考えると、詰め込まざるを得なくてジレンマだ」

「文科省が学習内容を次年度に繰り越していいと言っても、迷惑をかけたくないという思いから、今年度中になんとかしようとする先生が多いのでは」

と話してくれた。これも先生の本音だろう。しかし、どこか目的を履き違えている気がしてならない。大事なのは、先生の事情ではなく子どもたちだ。

ピンチをチャンスに! 一人ひとりの小さな取り組みが、山を動かす

 本来であれば、今年度から小学校では新学習指導要領が施行され、「主体的・対話的・深い学び」が行われていくはずだった。しかし、今やこれまでの古い教育を取り戻そうという動きの前に、そんなことは忘れ去られているようにしか思えない。

 でも、AIの進化よりずっと早く、もっと強烈に、コロナは世界の経済や社会のシステムを変えようとしている。アフターコロナに社会が一変したときに、未来を創る子どもたちが力を発揮し幸せに生きていけるかどうかは、これからの教育にかかっている。3人の先生、そしてこのイベントを共催した人たちの思いも、そこにあるのではないかと感じた。

 これまで多くの人たちが教育を変えようと動いてきたのを私は見てきた。一気に変えようとしても、たくさんの制約やできない理由があり、現状を少し変えるのも大変なことも実感している。でも、新型コロナによる学校休校という、考えても見なかった大ピンチは、教育のあり方を多くの人達が考える機会になったはずだ。

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 実際、小学生の子どもを持つ親たちからは、

「休校中、教わってもいないのに、山のような課題を出すだけで、あとは家庭に丸投げのやり方には疑問を持った」

「学校が始まっても子どもが学校にいきたがらない」

「課題をやらせようとして親子関係が悪くなった。勉強は楽しくないことだという意識を植え付けてしまいそうで怖い」

という声が聞こえてくる。

 新しい教育が実現するかどうかは、上意下達の教育改革ではなく、一人ひとりが「今だからこそできること」をして事実を積み上げていくことにかかっていると私は思う。このイベントに参加した先生たち・親・教育に関わる人たちが、現場に帰って踏み出す小さな一歩がやがて大きなエネルギーとなって、日本の教育を変えていくかもしれない。そんな予感を持った数時間だった。

学校を勉強嫌いを増産するブラックボックスから、学びのおもしろさに目覚める場所へ

 この数カ月、いち早くオンライン授業に取り組んだ私立中高や学習塾、探究的な学びを提供する団体、そして公立小中学校を取材してきた。詳しいことは続編に書くが、取り組んだすべての人たちが、オンライン教育の新たな可能性に気づいたと話している。

 第2波・第3波も来るといわれているなか、一人一台のPCを普及するGIGAスクール構想も実行され始めているが、そのデバイスを使って何をしていくのか、わざわざ学校に行く意味はどこにあるのか――。今こそ、子どもの学びに関わるすべて人たち、親、行政、専門家たちが一緒になって考え動くことが大切ではないだろうか。学校が、勉強嫌いを増産するブラックボックスにならないためにも。

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蓑手先生スライドより(図 教育新聞社 森田亜矢子)

 最後に「教育が人を選別するのではなく、人が教育を選別する。学びに自由を!」という蓑手先生の言葉を紹介したい。先生は特別支援学校で働いた経験の持ち主だからこそ、特別に支援を必要とする子どもたちだけでなく、一人ひとりに合わせる教育の必要性を実感している。

 学びの主体者は、子どもたちなのだから。

(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表  

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。

オフィシャルサイト http://www.waiwainet.com/

マザークエスト https://www.motherquest.net/

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