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トヨタ、全車種併売強行で系列販売店同士がサバイバル戦突入…売れ筋モデルの争奪戦

文=河村靖史/ジャーナリスト
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トヨタ店の店舗(「Wikipedia」より/ALVE)

 トヨタ自動車の国内の系列販売店が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響と5月8日から始まった全車種併売に頭を痛めている。新車供給体制に遅れが生じているのに加え、経済の先行き不透明感による需要低迷、さらに全車種併売に伴って系列販売店同士の販売競争激化というトリプルパンチに見舞われているためだ。トヨタ系販売店は早くも淘汰の波にさらされている。

 トヨタブランド車の国内販売チャネルは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店を展開している。以前はビスタ店もあり5系列だったが、2004年にビスタ店とネッツ店を統合してから4チャネル体制となった。各販売チャネルでは、プリウスやアクアなどのハイブリッド専用車を除いて、特徴のある専売モデルを設定しており、これによってチャネルの差別化を図ってきた。

 たとえばトヨタ店ではクラウン、トヨペット店ではハリアー、カローラ店はカローラ、ネッツ店はヴィッツといった具合だ。これによってトヨタ店は中高年層、ネッツ店は女性や若者など、中心となる顧客層も異なる。販売チャネル政策は販売店同士が競合しないかたちで販売拠点を増やして、販売台数を伸ばすのに有効に機能してきた。

 トヨタが長く続いた国内での販売チャネル体制の方針転換を打ち出したのは、18年11月だ。当時、22~25年までにトヨタ系列の全販売店でトヨタブランド全車種を取り扱うことを公表した。国内販売でヒット車が不足するなか、チャネル政策は馴染みの顧客が求めるチャネル取扱い外のトヨタ車を販売できないなど、不便も目立つようになってきた。

 トヨタ以外でもホンダ、日産自動車、マツダ、三菱自動車が過去、国内で販売チャネル政策を展開してきた。しかし、販売チャネル制度は、販売が低迷するとチャネル専売モデルの開発負担が重く、国内事業が悪化。結果的にトヨタ以外はいずれも最終的にチャネルを廃止して販売店を一本化してきた。トヨタも国内販売がピークだった1990年と比べて4割も減っている。結局、少子高齢化や若者のクルマ離れが加速して新車需要の成長が見込めない国内市場で、トヨタも専売モデルの開発を強いられるチャネル制度は非効率と判断した。

悪かったタイミング

 ただ、トヨタ系列販売店はトヨタが出資していない地場資本の販売会社が9割以上を占めていることもあって、トヨタ販売店同士が競合する全車種併売に対して強い反発を招くことが予想された。このため、全車種併売を実行するまでの期間を長くとり、時間をかけて販売店に理解してもらうつもりだった。実行まで5年程度先の計画とすることで、トヨタ系販売店の創業家の会長など、トヨタにもハッキリと物申す「うるさ型」の経営者の高齢化が進み、トヨタの施策に対する抵抗が弱まることも狙っていた模様だ。

 しかし、フタを開けてみると全車種併売に対する販売店からの反発は想定以下に収まり、逆に他チャネルの売れている専売モデルを早く取り扱いたいとの要望も強かった。これを受けてトヨタは昨年6月、全車種併売を最大5年早まる20年5月実施に前倒しを決めた。

 正式な全車種併売がスタートした5月8日、全国のトヨタ系列販売店のショールームには「トヨタ全車種取り扱っています」などの看板が大々的に掲げられ、全車種併売がスタートした。

 しかし、時期が悪かった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、トヨタもサプライチェーン(部品供給網)に支障が出て国内生産拠点の稼働も一時停止するなど、顧客への新車引き渡しに遅れが生じている。景気の急速な悪化で国内新車需要も低迷している。国内新車販売は4月が前年同月比20.1%減となり、5月には同45%減と半減近いマイナスとなった。需要が低迷する中、トヨタ系販売店では「売れ筋モデルの取り合いになっている」という。

トヨタ系販売店の再編

 全車種併売となった5月のトヨタの新車販売は、「ヤリス」「ライズ」といった新型車に人気が集中しており、5月の新車登録車(軽除く)の車名別販売トップ10では両モデルが1位と2位になった。とくにコンパクトカーのヤリスは従来、ネッツ店専売モデルだったことから、受注が集中しており「1台でも多くの新車を確保しようと販売店同士で取り合いになっている」という。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ショールームに来店する顧客が減少、新車需要が低迷するなかで、ヤリスや新型「ハリアー」といった一部人気モデルに受注が集中していることにトヨタも困惑している。系列販売店には「アクア」や「プリウス」など、以前から併売している量販モデルの販売を促進しているものの「顧客からは振り向きもされない」という。

 また、新車供給体制の遅れから5月は多くのモデルの販売が前年割れとなったが、トヨタの「アルファード」が前年同月比10.6%増と前年を上回ったことも注目だ。アルファードはこれまでトヨペット店専売で、兄弟モデルのヴェルファイアがネッツ店専売モデルだった。ヴェルファイアの5月販売台数は同51.4%減と大幅に落ち込んでおり、新たに取り扱いを開始した販売店各社がヴェルファイアよりも知名度の高いアルファードの販売に注力したためと見られる。

 全車種併売でトヨタと系列販売店が最も懸念しているのが人気モデルに受注が集中して、トヨタの販売店同士の競争が激化することだ。新型コロナウイルスの影響による需要低迷と納車の遅れで、こうした不安が現実になっている。

 全車種併売に伴う販売競争の激化が見込まれる中で、一部のトヨタ系販売店では、再編が始まっている。トヨタ店とネッツ店など、同一資本による経営統合だけではない。資本を乗り越えた経営統合も実現している。トヨタでは、全車種併売で不採算モデルを順次削減していく方針で、現在280社程度ある販売会社が最終的に何社に集約されるかの見通しを示していない。

 ただ、人気モデルに販売が集中し、人気がないモデル、不採算モデルがどんどん削減されていけば、残るのは値引きを含めた販売店同士の競争だけだ。トヨタ系販売店によるサバイバルレースが始まる。

(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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