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恐いテレワーク明け後“うつ”…1週間前からすべきこと&通常勤務戻り後のコツ

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
恐いテレワーク明け後“うつ”…1週間前からすべきこと&通常勤務戻り後のコツの画像1
「Getty Images」より

「自粛コロナうつ」から「テレワーク明けうつ」へ

 新型コロナウイルスの感染蔓延と自粛生活により、コロナ罹患への不安や自粛生活のストレスから、「コロナ鬱」といわれるメンタルヘルス不調者の増加が強く懸念されました。しかし、今年の4月は例年同月に比べ自殺者が激減したという統計が出て来たり、私がフォローしていた「うつ」などのメンタル不調者のなかではテレワークにより症状の改善が見られる方が出たり、一見不思議な事態も起こっています。以前は休職を検討していた方などが、「テレワークは快適、ストレスなく仕事ができる」と感じ、バリバリと働いていらっしゃいました。

 今回は、流れで否応なくテレワークとなった皆さんの「テレワーク中」と「テレワーク明け」の健康管理について書いてみたいと思います。

テレワークにより軽減されるストレス

 私たちの毎日の仕事生活というのは、家庭生活に比して、心身ともに高い負荷がかかっています。都市部では1時間以上の遠距離通勤の方も多いのですが、その影響で睡眠時間は減少傾向にあります。日本人の睡眠時間はOECD諸国平均より1時間以上も短いことがわかっており、慢性的な睡眠不足です。

 ところがテレワークなら、家庭と仕事の両立に苦労されていた人も、隙間時間や通勤に使っていた時間に家事や介護ができますし、家族との時間・趣味の時間が持てストレス解消ができている人もいます。私の患者さんでも、テレワークで睡眠や食事が安定し健康的になった方もおり、テレワークは「その気になれば」健康管理もしやすくなる働き方です。

 職場環境ストレスに直接さらされないという長所もあります。厚労省の調査によると、職場のストレス要因の第1位は「人間関係」ですが、テレワークでは、上司からネガティブな言葉を投げられたらどうしよう、などという不意打ち不安も少なく、一日中職場で人に見られるストレスもありません。多少嫌なことを言われても、一時的に我慢すればよく、職場という「アウェイ」にくらべ、文字通り「ホーム」では何かあっても心理的な傷は浅く回復しやすいのです。

テレワークから通常勤務への移行

 私の産業医としての仕事には、休職中の従業員の復職支援がありますが、重要なのは、本当に出社に耐えられるかを見る「復職判定」です。長い休職後、メンタル不調の方がなんの準備もなく出社し、1~2カ月で休職に戻るケースは少なくありません。出社勤務への移行には心身ともに想像以上の労力が必要なのです。テレワーク明けのあなたにも同じことが起きないとは限りません。

 テレワークは身体的・心理的負荷が低く、エネルギーを心に貯めやすい環境ですが、通常勤務で急に過重労働をしたり睡眠不足になるなど、身体的・心理的負荷が高くなると、エネルギーは消耗され、普段は目につかない「ストレスのもと」が見えてしまいます。いつもは多少の睡眠不足など平気なのに疲労を感じやすくなったり、ちょっとした上司の言葉にイライラし、落ち込みやすくなるなど、心身の不調症状が出やすくなるのです。特に心身ともに慣れない出社再開から1~2カ月は要注意です。

通勤再開へ体と心のメンテナンス 「軽い運動」と「正しい睡眠」がポイント

 テレワーク期間中もいつも通りに起床し、朝日を浴びて睡眠覚醒リズムを整え、就寝・起床時刻を崩さないことが大切です。これらの乱れは自律神経の乱れを生み、頭痛やめまい、不眠などさまざまな症状を引き起こします。ゲームやネットによる夜更かしは要注意です。

 自粛で身体はいつの間にか鈍ってしまいがちなので、身体活動を高めて行きましょう。身体活動を高めると、運動機能の向上だけでなく、精神的健康、パフォーマンスが上がることがさまざまな研究で証明されていて、うつの予防にもなります。自粛中はほとんど外出していない方も多いため体力は低下していますから、まず手始めにウォーキングなどがお勧めです。平成28年国民健康・栄養調査によると、成人の1日の歩数は男性の全国平均で7797歩、女性では6776歩です。現在の歩数をスマホの歩数計で確認し、自分に合った目標設定を。

 メンタル不調者が復職の際に「スーツを着るだけで仕事の緊張感で疲れた」「化粧して外出できる自分をつくるのが大変」などとよく漏らします。出社緊張にも注意が必要です。テレビ会議でも顔しか出ないように、テレワークではあまり人から見られませんでした。

 テレワーク時でもたまには、化粧をしたり、出社着に着替えて仕事をすることを勧めます。窮屈な服は心に緊張感をもたらしますので、慣れておけば出社時の緊張が少し和らぎます。仕事着で最寄りの駅まで出勤時刻に出かけるなど、模擬出勤を1週間ほど続けてみるのはどうでしょうか。これらのことを生活リズム表(起床就寝時刻、日中の活動状況などの日ごとの記録表)につけ、生活を「見える化」し通常勤務の準備に活用しましょう。

通常勤務に戻ってからも無理は禁物

 通常勤務に戻ったからといって、がんばりすぎないことが大切です。テレワークで落ちた体力に負荷をかけることで心身ともに不安定になりやすいのです。特に中年以上の方は体力面で最初からフル稼働は困難なこともあり、また、テレワークではできなかった仕事が職場に溜まっている方も、これを一気に片付けようとしては心身ともについていけなくなります。テレワークレベルから通常勤務レベルに心身のエネルギーを上げるのは容易でないことを覚えておきたいものです。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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