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木村誠「20年代、大学新時代」

困窮学生への給付金、留学生のみ「成績上位3割」は差別なのか?京都大学は条件撤廃

文=木村誠/教育ジャーナリスト
困窮学生への給付金、留学生のみ「成績上位3割」は差別なのか?京都大学は条件撤廃の画像1
京都大学の百周年時計台記念館(「Wikipedia」より)

 新型コロナウイルスの影響で困窮する外国人留学生に対して、日本人学生と区別して、学生支援緊急給付金対象者を成績上位3割程度(正確には前年度の成績評価係数が2.3以上。目安)で8割以上の出席率、などとする要件を設けた。この成績上位3割という要件は日本人学生にはないのにおかしい、と批判が沸き上がっている。

 いずれ母国に帰る留学生が多く、日本に将来貢献する可能性の高い人材に限りたいというのが本音のようだ。しかし、海外で学んだ後は母国に帰って、家族を含め地元の社会に貢献するというのが、留学のスタンダードモデルであろう。

 コロナは人種を問わず、多くの学生を生活困窮に導く。最大20万円の現金給付を、外国人留学生だけ「成績上位」に絞るというのだから、疑問の声が上がるのも当然だ。関東弁護士会連合会は、外国人留学生にだけ「成績上位3割」程度の要件などを課しているのは「公平を欠く」として、撤廃などを求める声明を出した。

 噴出する批判に対して、文部科学省は「成績はあくまで目安。大学が認めれば給付対象になる」と釈明している。早速、京都大学は成績や出席率の条件を外すという決断をした。京大に入学するような留学生はほとんどがハイレベルな学力で、上位30%に絞るのは難しい、という判断もあるのであろう。

 しかし、成績の条件はともかく、出席率に一定の条件を設けるのはやむを得ない、という意見もある。留学生の中には、就労目的で来日し、授業よりアルバイトなどに励む事例が少なくなく、出席率で歯止めをかけるべきという見方も成立するからだ。

 また、この給付金の対象要件が、家庭から多額の仕送りを受けていない、原則自宅外で生活、家庭の収入源で追加支援が期待できない、などなので、必然的に日本人学生より留学生の該当者が多くなるという読みもあったはずだ。

留学生は30万人以上に増加し多層化の問題も

 文科省は4月下旬に外国人留学生の在籍状況調査を公表した。日本学生支援機構の調査では、2019年5月の時点で31万2214人、11年は16万3697人だから、まさに倍増ペースである。政府は留学生30万人計画を立てていたので、この目標は早々と達成した。留学生の出身国は、おおよそ中国12万4000人、ベトナム7万3000人、ネパール2万6000人、韓国1万8000人、台湾9000人などとなっている。

 この量的な拡大で、留学生の実態について、いろいろな問題も指摘されてきた。30万人もいる留学生の多層化が進んでいるのだ。京大で学ぶ留学生と、中堅私立大下位校の留学生や日本語学校の学生とでは、成績上位3割ラインでも学習意欲や学力に相当な差があるというわけだ。

 ただ、今回の給付金に日本語学校の学生を含めたことを評価する声もある。来日当初は、大学などの授業を理解するため、ほとんどの留学生が日本語で聞く読む能力を身につける必要があるからだ。問題は、その日本語能力をどこで発揮するかである。

 たとえば、19年に、東京福祉大学で学部研究生ら留学生約1600人が所在不明になり、私学助成金が不交付となっている。同大は近年になって留学生の受け入れを急拡大。16~18年度に約1万2000人の留学生を受け入れたが、19年にはそのうち1610人が所在不明、700人が退学、178人が除籍になっていた。

 このように、留学生の在籍管理が問題の大学はほかにもある。それらの大学では、成績上位3割程度よりも出席率8割以上の留学生がどの程度いるのかをカウントするほうが難しいかもしれない。出席率という条件が留学生の現実を踏まえているのも事実で、これによって、一部の在籍管理が曖昧な学校の適正化を進め、留学生の給付金を横取りするような学校をあぶりだす機会になるとも考えられる。

新型コロナは留学のあり方を見直すチャンスに

 留学生30万人計画の達成で、昨年末、日本は留学生受け入れ国として世界で5位近くに躍進したと予想される。一方、日本人海外留学生は11万人台で、世界30位台である。新型コロナで、留学生の数はさらに減少している。

 100万人近くの留学生を受け入れ、4兆円台の経済効果を生み出したアメリカの大学などはコロナ対策でオンライン授業なども導入しているが、年間750万円という高学費の大学もあるため、留学生の評判がよくない。留学生頼みの大学の経営破綻も予測されている。イギリスも同様だ。

 ある意味で、新型コロナは従来の留学のあり方を見直す機会になる。米英のように留学生ビジネスでなく、留学生出身国と日本がウィンウィンの関係になれるような見直しをするべきだ。

 その意味で、今回の支給における留学生の成績基準を見直して日本人学生と同様にした上で、8割という数字が妥当かどうかを別にして、授業への出席に熱心な留学生に給付金を出すことは意味がある。実際には、出身国で借金をして日本へ留学する資金をつくり、バイトでギリギリの生活費を稼ぎながら授業に真面目に出席して学習する留学生では、なかなか上位の成績を取りづらい。しかし、彼らに期待したい。日本に残り活躍する留学生には、無利子貸与奨学金制度を充実させるべきだ。

 給付金を受けて卒業し、出身国に帰国した留学生も、留学生への経済援助がほとんどない他国のケースと比べ、日本に対して友好的になるはずだ。

留学生が日本の社会や国に伝えたいことは

 これらは、全国大学生活協同組合連合会が実施した「緊急アンケート」に寄せられた留学生の声をまとめたものである。なお、日本語以外で寄せられた声は、趣旨を損ねない範囲で和訳している。

「選挙権を持っていない者としてリアル政治に口を出す資格はありません。疾病による人的及び経済的被害を減少させようとしている行政の行動を目にしており、国や愛知県に制定された政策や条例を無条件に従うのみであります。コロナ禍が一日でも早く収束するように願っています」

「日本政府は私たちに親切で感謝しています。しかし、奨学金をもらっていない学生に対してもう少し財政的支援をしていただければ、とても役に立ちます」

「しっかりPCR検査を行って欲しいです。毎日の検査量は少なさすぎるので政府が報告する人数を信用することが難しいです」

「日本政府はすべての人にPCR検査を提供するべきです。大学と協力して、すべての学生が段階的に迅速な検査を受けられるようにするべきです」

「もっと(ドイツのように)テストして、実際のポリシーと統計情報を英語でサイト上に公開してください。ドイツについて私が持っている情報と統計は、これまで日本について私が調べたどのサイトよりも優れています」

留学生の出国を許可してください」

「日本国外に立ち往生した人たちが『特別許可』を受けて日本に戻って、慎重な態度で研究を続けることができるように、政府当局に何らかの救済を計画して実施するよう伝えてください。法を遵守する市民としてすべての規則に従います」

「コロナ対策は軽く判断しないでください。日本の感染がまだ爆発していないからといって、それが発生しないということではありません。私たちは用心深く、政府の指示に従う必要がありますが、政府が過ちを犯した場合にも責任を負わなければなりません」

「英語でより多くの情報を提供してください。そして輸送サービスを減少させないでください。それらは不可欠です」

「いずれはすべてが大丈夫になります。この時間を使って、家族や友人との絆を深め、新しいことを学びましょう。さらに重要なことは、自分をいたわることです」

「お互いに手を差し伸べあわなければなりません。私たちは皆、一緒にいます。私たちの多くは、家や家族から遠く離れた一人暮らしをしています。戻れないかもしれないので、一緒になってお互いの面倒を見なければならないのです。一緒に立ちあがり、私たちが住んでいる社会がこのパンデミックに立ち向かうことを助けましょう」

「学校の休みの間に出身国の家に帰る計画をキャンセルしなければならなかった人もいるでしょう。初めて家を離れて暮らすのであれば、今回は本当にストレスを感じるかもしれません。時間があれば、自国の食材を使った料理を作ってみてください。また、家に帰る家族や友人と連絡を取り合うことを忘れないでください」

 ――大学生協のある学校の留学生なので、比較的広い視野からの発言が多い。コロナによる変化を「自分を見つめ直す」「家族や友人との絆を深める」「今しかできない勉強をする」などと前向きにとらえ直す傾向が強い。一方で、それについていけない留学生のメンタルヘルスがとても心配される。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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