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東証1部上場企業で異例の事態…監査等委員が2つの強権発動、弁護士の見解は?

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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 このため、この本邦初の強権発動の事実が世間に公表されるのは、この4営業日後。それも会社側によってではなく、監査等委員会自身によってである。

議案請求権行使も立法以来初

 2つ目の強権発動の痕跡は、実はその5月27日のリリースに残されている。弁護士の菅弘一氏が会社提案の「監査等委員の取締役」候補として、ほかの会社提案候補とは別枠で記載されている。これが、その“痕跡”である。

「監査等委員の取締役」は、それ以外の取締役とは異なる特別な扱いを受ける。会社側が人選をするにしても、監査等委員会の同意を得ることで初めて会社提案の取締役候補とすることができる。

 さらに、監査等委員会は自ら「監査等委員の取締役」の候補者を立てることができて、それを会社提案の候補者とすることを会社側に請求でき、請求を受けた会社側はこれを拒否できない。つまり、会社側が別の人物を候補者として立てたにもかかわらず、監査等委員会がそれに同意せず、独自に立てた候補者が菅弁護士ということなのだ。

 監査等委員は取締役だから、監査役と違って議決権を持っている。監査等委員会が会社側の業務執行を監視するという職務を全うしようとすれば、会社側との軋轢は当然に生じる。そういう場面で、監査等委員会は議決権を持った味方を取締役会に送り込むことができる。それを規定しているのが、会社法344条2の第2項で、これも使われたのは立法以来、今回が初。

「議決権こそないが、監査役にも同じ権限が与えられており、それを規定しているのが会社法343条2。監査役に監査役の選任議案請求権を与えようという議論は、商法の時代から繰り返されてきた。1974年と1981年の商法改正の議論の際にも遡上に上がったが、いずれも財界の反対で潰されている。この条項は2005年に会社法が誕生する際にようやく入ったが、法制審議会で議論された形跡がない。まともに議論しても通せないと踏んだ立法担当者が、しれっと入れてしまった」(会社法に詳しい弁護士)のだという。

 日本は、業務執行者がそれを見張るはずの取締役を兼務することが常態化している稀有な国だ。それだけに、取締役の監視機能を高めるための監査役の権限強化は立法担当者にとって悲願と言っていい。

 有識者が集まって議論を重ねる法制審議会の答申を、立法作業の過程で通常は最大限尊重しているが、それはあくまで慣習であって、規定上は参考にすれば足りる。立法担当者は、そこを逆手に取ったということだろう。

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