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東証1部上場企業で異例の事態…監査等委員が2つの強権発動、弁護士の見解は?

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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 つまり、取締役責任調査委員会は適法に設置されたものかどうかわからない、だから開示してこなかった、というのだ。

監査等委による独自開示は適法

 監査等委員会側は、この4日の会社側リリースに反論する形で8日に2本目のリリースを東証の記者クラブに投函。2日の開示が、監査等委員もしくは監査等委員会としての職務を果たすための苦渋の決断であったことを強調。これを情報の不当な社外流出とする会社側の見解は、株主の議決権行使に必要な情報提供自体を非難するものだと反論した。

 併せて、取締役責任調査委員会が設置された事実の開示だけでなく、会社側に負担義務がある調査にかかる費用の負担も拒絶したことも明記。監査等委員会が執行側から独立して、業務執行に携わる取締役のモニタリングができるよう設計されている会社法の趣旨を、およそ理解していない、そういう現状を株主に知ってほしいと訴えた。

 会社法に詳しい大塚和成弁護士は「監査等委員である取締役が、善管注意義務・忠実義務の一環として、会社に対して守秘義務を負っているのは確か。だが、多くの株主や投資家を抱える上場会社は公的な存在。ガバナンスの問題について、監査等委員が適切に情報発信する行為は相当な行為であり適法」と言う。

 責任調査委員会設置の開示を拒絶している点についても、「日本取引所自主規制法人のプリンシプルからしても、それ自体が適時開示義務違反の可能性がある上、開示を行わないまま、自己株取得も実施しており、この点はインサイダー規制違反に問われかねない。会社側として設置の経緯に疑義があると考えているのなら、開示した上でそうコメントすべき」と言う。

監査役、監査等委に開示の場を

 今回、監査等委員会が出した2本のリリースは、いずれも会社側と敵対する元名誉会長が開設した「天馬のガバナンス向上を考える株主の会」のサイトに掲載されており、会社側から中立性を否定される根拠の一つにもなっている。

 だが、同会によれば、これは「当方の主張と一部一致する部分があるので、東証の記者クラブ所属の記者からもらって掲載した。監査等委員会の承諾は取らずに掲載したが、記者クラブで公表したものである以上承諾は不要と判断した」という。

 要は、会社側と敵対する株主がいて、監査等委員会の主張にその株主の主張と一致する部分があり、その株主がウェブサイトを開設しているという、3つの条件が揃ったからこそ、監査等委員会が発したリリースは誰でもアクセスできる場所に置かれたにすぎない。

 会社側と敵対する株主がいない、もしくはいても監査等委員会の主張にその株主が無関心だと、会社側が開示を拒めば、監査等委員会のリリースには行き場がなくなる。東証記者クラブに投函するだけでは、同クラブに所属する記者の手にしか渡らず、投資家は一次情報を入手する道を閉ざされる。

 前出の大塚弁護士も「コーポレート・ガバナンスの重要性を言うのであれば、監査役、監査等委員会、監査委員会が一定類型の事項について開示が必要と考えたとき、適時開示を可能にする制度の検討が必要」と言う。

 監査等委員会の本邦初づくしの行動は、法整備だけでは網羅できていなかった制度の不備をも浮かび上がらせた。取引所は迅速に対処すべきだろう。

(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

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