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伊藤忠、時価総額で三菱商事を逆転、初の商社首位…三菱は今期、利益トップを死守する

文=有森隆/ジャーナリスト
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 プロ野球好きの三菱グループのトップが気になることを言っていた。「『週刊ダイヤモンド』の岡藤さんの発言は近鉄の、ヘボなピッチャーと同じや」。厳しい表情で、吐き捨てるように言ったのだ。三菱商事の幹部社員から若手まで、「伊藤忠、何するものぞ」と拳(こぶし)を上げているそうだ。

三菱商事は後出しじゃんけんで勝利

 時計の針を少し戻してみよう。

 5月8日、先に2020年3月決算を発表した伊藤忠の連結最終利益は、アナリストが予想していた通りの5013億円。実にきれいに着地した。三井物産、住友商事の決算も低調。丸紅は1975億円の赤字に沈んでいた。最後に残ったのが三菱商事。市場コンセンサスの最終利益は4000億円台というものだった。だが、蓋を開けたら5354億円だった。第4四半期に発生した三菱自動車の株式の減損(342億円)などの減損の累計は、およそ600億円。19年11月に三菱商事が明らかにしていた最終利益の目標は5200億円だったから、減損分を差し引くと4600億円となる。伊藤忠の岡藤会長も勝利を確信していたのではないのか。

 ところが三菱商事には隠し玉があった。チリの銅事業で繰延税金資産、767億円を利益として計上してきたのだ。かつてチリ銅事業で巨額の株式の減損し、初めて赤字転落したことは冒頭で述べた通りだ。今回は英国の特別目的会社経由で出資していた株式を、チリの子会社に移すという、チリ銅事業の再編で税効果上の繰延税金資産を計上したのである。垣内社長は「会計上のルールに則り、やるべきことをやった」と述べている。

 伊藤忠の鉢村CFOは「一過性の利益を除く基礎収益ではウチが(商社リーグ)トップ」と主張したが、一過性の利益(あるいは損失)を含めた総合力の闘いというところが商社の決算の特質なのである。伊藤忠も19年3月期決算(発表は18年11月2日)で「10%を出資する中国国有企業、中国中信集団(CITIC)の株式を減損処理して、1433億円の損失を計上」している。

 この時は、ユニー・ファミリーマートホールディングス(当時)の子会社化に伴う株式評価益が1412億円発生したため、CITICの減損を相殺する格好になった。ファミマの利益が出たからCITICの株式を減損処理したといったほうが、より正確かもしれない。いずれにしても伊藤忠だって、過去に1000億円単位の一過性の利益を計上しているわけだから、20年3月期決算の三菱商事の隠し玉を、鉢村CFOのように激しく批判できる立場にはない。

時価総額で初めて伊藤忠が商社トップ

 伊藤忠は2021年3月期の最終利益を4000億円と公表している。三菱商事は「未定」だ。三菱商事は原油の価格下落、世界の資源市場の急変、米中戦争の穀物市場への影響など利益が目減りする要因はたくさんある。市場コンセンサスによる「三菱商事の今期最終利益は3253億円」だが、冒頭に書いたように決算、特に利益は経営トップの意思の発露である。垣内社長がトップの座をやすやすと明け渡すとは思えない。もし、そういう事態になれば、「垣内さんは社長を辞めることになる」(垣内氏に近い三菱商事の役員)。「首位争いは4000億円の攻防」との見方が株式市場にあるが、筆者は4500億円を上回る高次元での闘いになるのではないかと見ている。

 伊藤忠にとってエポックメーキングな出来事があった。6月2日、伊藤忠の時価総額は終値ベースで3兆7649億円となり、三菱商事(3兆6964億円)を上回り、総合商社で初の首位に立った。この時の両社の差はわずか685億円である。三菱商事が5月末に3000億円弱の自社株を消却したため、逆転は時間の問題と見られていた。予定通り三菱商事が自社株の消却を終えたのは自信の表れ、という指摘もある。6月12日終値での時価総額の差は1208億円まで広がった。伊藤忠が断然、優位に立つ。

 三菱商事・伊藤忠の株主総会が開催される6月末時点の時価総額がどうなっているかがひとつのバロメーターとなろう。コロナへの耐久力はどちらが強いのか。20年9月中間決算である程度の見通しが立つ。ここでも、三菱商事が伊藤忠の後塵を拝しているようだと、それこそ緊急事態宣言を発出しなければならなくなる。

最後はトップの状況判断力と決断力

 総合商社の業績のボトムは20年4~6月決算と思っていたが、7~9月期にズレ込む可能性が強まってきた。21年3月期決算ほど経営トップの決断力の質が問われることはないだろう。ここでの決算に対する姿勢が、先々の企業の存亡を決めることになる。いずれにしてもトップの状況判断力、決断力、そして遂行力が問われている。未来に対する予知力が最も大切になるかもしれない。今回、論考しなかった大手商社同士の再編の動きが出てくるのは20年年末ではなかろうか。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

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