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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

居酒屋で「まずポテトサラダ」はNG?認知症のリスクを高める“食い合わせ”とは

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
居酒屋で「まずポテトサラダ」はNG?認知症のリスクを高める食い合わせとはの画像1
「PIXTA」より

 これを読んでおられるビジネスパーソンのみなさんは「食い合わせ」に気を遣った食生活をしていますでしょうか。自宅での食事ではバランスに気を遣っていても、会社帰りに一杯、となると、いつも自分の好きなものばかり注文したり、おいしそうな写真を選んで注文したりすることが多いのではないでしょうか。

 そんな食べ方が認知症のリスクと関係するという論文が発表されて、注目を集めています。

「食い合わせ」は認知症の発症リスクに関係する

 フランス・ボルドー大学の研究者らが、食品素材と認知症の関係について大規模なアンケート調査を行った結果、認知症の発症リスクが高まる食い合わせがあることを明らかにしました。

 和食や地中海食が平均余命を延長したり、健康状態の改善に役立ったりすることは、多くの研究者によって報告されています。また「ダッシュダイエット」【※1】と呼ばれる、米国国立衛生研究所が考案して推奨している高血圧を予防するにあたって有効な食事療法も、認知症リスクの低減に効果があることがわかってきています。

 ボルドー大学の研究者らが、65歳以上の高齢者、約1万人について12年間の追跡調査を行い、その間に認知症を発症したか否か、食事内容や飲酒の有無と認知症の発症の有無に相関があるかどうかを統計調査しました。

 その結果、調査対象の摂取カロリーの平均値は1日あたり1500kcal前後で大きな違いはなかったものの、認知症発症者と非発症者では食事内容に大きな違いがあることがわかりました。

 認知症を発症した人々の間では、ハム、ソーセージなどの食肉加工品が食事の中心となっており、そこにジャガイモなどのデンプン類の大量摂取、飲酒、間食でお菓子を摂取するなどの傾向がありました。これはまさに、会社帰りに居酒屋で一杯やって〆にラーメン、というビジネスパーソンが陥りやすいパターンそのものであることがわかります。

 一方、認知症を発症しなかった人々は野菜、果物、魚介類など、摂取する食材の多様性が大きく、しばしば健康に良いという食生活をしていることがわかりました。これらの特徴は、ダッシュダイエットとも共通していることもわかりました。

 お店に入って、とりあえずポテトサラダ、次に焼き鳥、お酒を飲んでラーメンを食べて帰るという食生活は、認知症の発症リスクを著しく高める生活パターンである、ということです。

インカ帝国のジャガイモ興亡史

 実は、筆者も居酒屋やビアホールで席に着くと「とりあえずポテサラ」派です。英国のSF作家ダグラス・アダムスの書いた『宇宙クリケット大戦争』の中に「どんなことであれ、重大な問題をジャガイモだけで解決できると思ったら大間違いだ」という名セリフがあります。

 今回の論文では、ジャガイモは悪者のような印象がありますが、何事もやり過ぎは良くなく、適切に摂取する分には理想的な食材のひとつです。ジャガイモの野生種は可食部分が非常に小さく、ソラニンと呼ばれる毒性物質を含むので、食べる前に毒抜きが必要な作物でした。

居酒屋で「まずポテトサラダ」はNG?認知症のリスクを高める食い合わせとはの画像2
ソラニンの構造式

 これを長い時間をかけて品種改良し、現在のジャガイモに至っています。最近のジャガイモDNAの解析によると、ジャガイモを最初に栽培品種化したのはインカ帝国の人々で、トウモロコシが生育しない標高の高い地域における重要な主食でした。ジャガイモは栄養価が高いので、ジャガイモを食べて屈強になった兵士はインカ帝国の拡大に大きく貢献しました。

 インカ帝国の滅亡については、よく知られている通り、1532年にスペインのピサロが率いる、わずか200人弱の兵士によってあっけなく征服されたわけですが、その後、インカの金鉱や銀鉱を狙って多くのスペイン人がやってきて、インカの人々にジャガイモだけを食べさせながら採掘の強制労働につかせました。

 当時の欧州にはジャガイモを食べる習慣がなかったので、自分たちが食べない野蛮な食べ物と考えられたのです。もちろん、インカの人々はジャガイモを食べて十分な栄養を摂取し、スペインによる南米の植民地化に貢献するような形になってしまいました。

 ジャガイモだけで重労働に耐えるインカの人々を見て驚いたスペイン人が、栄養豊富な食品だと気づいてスペインにジャガイモを持ち帰るのは、1570年頃のことだったとされています。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【※1】ダッシュダイエットとは米国における理想的な食事プランのひとつで、果物、野菜、全粒穀物、無脂肪または低脂肪の乳製品、魚、家禽、豆、ナッツ、および植物油を充分に摂取し、一方で、食塩、砂糖で甘くした食品や飲料、獣肉の脂身、全脂肪乳製品、ココナッツオイル、パーム核油、パーム油などの熱帯油など、飽和脂肪が多い食品を制限する一種の食事療法です。血圧を下げる効果があるとされており、ミネラルや食物繊維の摂取も十分にできるため、肥満を抑制してBMIを適正値に近づけ、便通の改善なども期待できます。ダッシュダイエットを運動や禁酒・禁煙などと組み合わせると、さらに効果が増すこともわかっています。

【参考資料】
Using Network Science Tools to Identify Novel Diet Patterns in Prodromal Dementia

『図説 世界史を変えた50の食物』(原書房/Bill Price著、井上廣美訳)

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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