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江川紹子の「事件ウオッチ」第154回

話をすりかえる首相、追及しない記者…「無意味な『記者会見』の改善を」江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 そして、限られた時間を、「衆議院の解散」やら「ポスト安倍」やら「自民党総裁任期についての心境」といった、“不要不急”の問いに費やす記者が相次いだ。テレビで中継もされている会見で、首相が解散や自分の後任者について、あれこれ語るはずがないではないか。なんらかの実のある答えを引きだそうという工夫もなく、とりあえず聞いた、という記者の自己満足の問いに過ぎない、と思う。

「具体的に、何について責任を感じているのか」「その責任は、どのようにして取るつもりなのか」「国民への説明責任はいつ、どのような形で果たすのか」「今、きちんと話していただきたい」…… そういった質問や回答への要求を重ねて、あらかじめ官僚が用意した原稿ではなく、首相自身の言葉を引き出してこそ、記者会見の意味があるというものだろう。曖昧な答えでかわそうとする相手には、二の矢三の矢を放って、答えを求める。首相以外の多くの会見の場では、記者たちもそうやっているのではないか。

 ところが、今回の首相会見では、記者は首相に気を遣いつつ、腰が引けた質問を1つしただけ。それにまともな回答が返ってこなくても、それっきり。これでは、記者会見ではなく、単なる「お言葉拝受」である。

 もちろん、河井案件のほかにも、重大な課題はいくつもある。なにより日本は、コロナ危機の真っ只中だ。会見の3日前には、河野太郎防衛相が突然、イージス・アショアの配備を事実上断念することを発表した。そして、会見2日前には、北朝鮮が開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破し、朝鮮半島に緊張が高まっている。

 国民の関心もさまざまで、河井案件のみに時間をかけることができないのはわかる。しかし、各紙ともこの事件は当日1面のトップで扱い、翌朝の朝刊もその予定だったはずだ。そういう問題について、こんな甘いやりとりで終わらせていいはずがない。

 記者会見がこうなる原因はいくつかある、と思う。

記者会見が「首相のお言葉拝受」になる3つの原因

 残念ながら、第一に挙げなければならないのは、記者の質の問題だ。加えて、官邸側が決めた、参加できる記者の人数制限がある。

 相手は一国の宰相であり、言葉遣いは丁寧かつ敬意を払った態度で質問することは心がけるとしても、前述のような“不要不急”の質疑に時間を食い、聞くべきことはしっかり聞かないのでは、記者の役割を果たしたことにならない。

 それは官邸に常駐している政治記者たちの関心が、国民よりも政府に、国民の関心事よりも政局や政府の意向に向いているからだろう。

 そして、このような事態は、コロナ対策を名目に、官邸側が会見に出席できる記者の数を制限していることも影響している。官邸記者クラブ「内閣記者会」の常勤19社は1社1人。そうなると、内閣記者会に属する政治記者が出席することになり、社会部記者は参加できなくなる。地方紙記者も同様だ。フリーランスやネットメディア、外国メディアは抽選で合わせて10人に限定される(江川は、この日の会見は、前回参加したことを理由に、抽選にすら参加できなかった)。

 人数制限は、緊急事態宣言が発出された時に始まった。同時に、会場は大きなホールに移され、距離をとって座るよう、座席は指定されるようになった。

 首相を感染から守らなければならないのは当然だが、こういう非常事態においては、できるだけ多様な質問を受け付ける工夫も必要だろう。

 会場に入れない記者は、別会場からリモート参加する方法を検討するよう申し入れたが、聞き流されるだけだった。緊急事態宣言が解除され、会場は以前の会見室に戻されたのに、人数制限はそのままである。官邸による、異常なメディアコントロールが恒常化する懸念がある。

 なお、最近はフリーランスやネットメディアにも質問の機会が与えられるが、18日の会見ではそれはなく、外国メディアの記者が最後に強く要求して、ようやく1人指名されただけだった。

 こうして、大手メディアの出席者に多様性が失われたなか、政治記者たちが自己満足の質問を連発する。

 第2に、時間の問題がある。首相会見は、新型コロナウイルスの対応を巡って、以前よりは長く、1時間前後になった。しかし、冒頭に首相が長いスピーチを行うので、実質的には40分程度だ。質疑応答でも、安倍首相はそれぞれに時間をかけて答える傾向があり、どうしても質問者の数は限られることになる。

 質問が続いても、官邸側が予定した時刻を過ぎれば、打ち切って会見は終了される。2月に「まだ質問があります」という声を振り切って記者会見を閉じた後、首相がすぐに帰宅していた点が批判されたのに懲りたのか、最近は記者会見の後に政府のコロナ対策本部会議や「外交日程」などの用件を入れ、それを理由に打ち切りとなる。18日の会見の後も、スペインの首相との電話会談が設定されていた。

 今回は、首相が国民に説明すべき事柄が多岐に及んでいたのだから、記者たちは「我々は待っていますから、電話会談が終わってから会見場に戻ってきてください」と要求してもよかった。

 第3に、司会者の問題がある。

 3月17日の朝日新聞デジタルの記事によれば、「首相会見の主催は記者会だが、慣例として司会は官邸側の内閣広報官が務めてきた」とある。

 この司会者が「1人1問」とか「声を発せずに挙手する」などの「ルール」を記者に押しつける。論点からそれた回答でも、次の質問者に移るので、首相が言いっぱなしで終わり。時間が限られているという記者側の遠慮や記者同士の連携がないこともあいまって、重ねて質問する「更問い(さらとい)」ができない状況を作っている。そのために、やりとりがまったく深まらない。

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