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イタリアの神父、制御不能な空中浮揚現象を繰り返す

文=水守啓/サイエンスライター
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 かつて、何の道具も使うことなく、空を飛べる人々が存在した――。

 神話や伝説に接すれば、我々は時折そんな話と出くわす。そして、特定の宗教や地域、歴史的偉人等への配慮の必要がなければ、多くの人は、そんなことを大昔の作り話だと考える。あまりにも現実離れしているため、そのように断定してしまっても不思議ではない。

 だが、神話や伝説の中には、さまざまなエピソードがある。完全なる創作、実話に基づいて脚色された創作、そして、ほぼ完全な実話の3者が混在しているのではないか。筆者にはそのように思えることがある。

 例えば、当時の学者が文書に記録した内容であっても、数百年も前のことであれば、判断が難しくなる。事実であったとしても、現代人の常識から逸脱する度合いが高ければ、脚色された話か、完全な作り話だと歴史家が判断しても不思議ではない。

 今回紹介する話も、もはや直接的に立証できる証人や材料は存在しない。常識的にはありえないと思われるような事例であり、判断の難しいケースに当てはまるのかもしれない。

 1603年、イタリア南東部の村コペルティーノにヨセフという男の子が生まれた。ヨセフには、現代でいうところの学習障害があり、すぐに癇癪を起こし、頻繁に宗教的エクスタシーを体験した。理解力の問題から教育は不十分だったが、生活は質素で献身的だったこともあり、1620年、修道会は彼を修道士として受け入れた。そして、1625年に彼は神父となった。

 そんなヨセフには、いくつか特殊な能力があった。例えば、懺悔の際に信徒が正直に話をしているかどうかが彼にはわかった。また、病人を癒すこともできたという。だが、特筆すべきは、彼の空を飛ぶ能力だった。信じがたいことに、彼は何の道具も使うことなく、空中に浮揚することができたのである。

 ヨセフの最初の空中浮揚は、アッシジの聖フランチェスコの祭日に行われた行進の際に起こった。意図せず自らの身体が浮き上がり、群集の頭上を飛んだヨセフは、自身の行為に当惑し、母親の家に逃げ隠れたという。ヨセフは、神の驚異・奇蹟を意識したり、聖母マリアの図像を見ると、エクスタシーを体験し、大声ですすり泣き、空中へと浮き上がったのだった。以後、ヨセフは生涯にわたって、抑制の効かぬ人体空中浮揚現象を繰り返し体験することになった。

 ヨセフの空中浮揚は並外れたものだった。無原罪懐胎像に向けて人々の頭上を飛んで、戻ってくる際に再び人々の頭上を飛んだこともあれば、十字架に向けて説教壇の上を73メートルほど飛んだこともあった。また、教会の真ん中から高い祭壇まで約12メートル浮き上がり、そこに15分間留まっていたこともあった。さらに、空中浮揚の際に木に引っかかり、そこで正気に戻ったヨセフは、降りることができずにはしごを持ってきてもらったこともあった。

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