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イタリアの神父、制御不能な空中浮揚現象を繰り返す

文=水守啓/サイエンスライター
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 ヨセフが有した浮揚力はかなりのもので、時折、他人の腕を掴んで一緒に空中に持ち上げて運んだこともあった。

イタリアの神父、制御不能な空中浮揚現象を繰り返すの画像1
伊ロレートにあるカトリック教会のバシリカ「サントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザ」で空中浮揚した聖ヨセフの絵

ヨセフに対する評価の変化

 当然のことながら、ヨセフが行った奇跡、すなわち、空中浮揚は、すべての人々に歓迎されるものではなかった。厳粛な儀式の際には混乱を招き、むしろ厄介者となったからである。ある時、ヨセフは聖体を持ったまま祭壇の前に飛んで行き、そこで履いていたサンダルを落とす失態をおかしてしまった。そんなこともあり、ときどきヨセフは聖歌隊の練習や大規模な集い、さらには修道士仲間との食事にも加わることを禁じられた。自身の奇跡により、ヨセフは自ずと大群衆の注目を集め、教会側の意向で隔離されることがしばしばだった。そして、1638年、ヨセフは異端審問にかけられるに至ったが、彼の空中浮揚には予測がつかず、不器用で、周囲の人々を混乱に導いただけであり、何の悪行もなかったとして無罪となった。

 当時、ヨセフの空中浮揚という奇跡を目撃した人々のなかには、多くの著名人が含まれていた。例えば、カスティリアの海軍司令官や駐教皇庁スペイン大使。駐教皇庁スペイン大使の妻はその光景を見て卒倒したと記録されている。また、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク公の一人で、カレンベルク侯(在位1665-1679)のヨハン・フリードリヒ(1625-1679)は、ヨセフの空中浮揚を目撃して、家族の中で唯一ルター派からカトリックに改宗している。さらに、ローマ教皇ウルバヌス8世は自身の演説の際、ヨセフが宗教的エクスタシーに陥り、空中浮揚するのを目撃している。このように、当時、ヨセフの空中浮揚は周知の事実となっていた。そして、1663年に生涯を閉じたヨセフは、死後、徳と霊性が認められて、1753年に福者に、1767年に聖人となったのだった。

 ところで、筆者は5年ほど前、「特別な意識がもたらす空中浮揚」として、夢遊病者が夜間徘徊時に体重を減らし、シャーマンや僧侶が特別な意識状態で空中浮揚した例をトカナ誌上で紹介した(過去記事参照)。そのような現象は、自分を周囲と区別して、客観視できるような意識状態では起こらない。無意識であれ、意識的な誘導であれ、通常の意識ではアクセスできない“向こうの領域”に、いわばチャンネルを完全に合わせ、同化することができて初めて起こる現象であると筆者は分析した。そのように考えると、コペルティーノの聖ヨセフもまさにそんな意識状態になって空中浮揚したと言えるだろう。

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