
東京アラートが解除され、東京都のロードマップが「ステップ3」に移行してから約1週間がすぎた6月21日、日曜日。JR東京駅から滋賀県の草津駅までタクシーを利用した少女による無賃乗車事件が起きた。
報道によれば、自称18歳の少女は21日20時頃から深夜1時半頃までタクシーに乗車したが、支払い時に「お金がない」と話し、運転手は約16万円(高速道路料金込み)の料金を踏み倒されたという。
タクシー業界で「オバケ」と呼ばれる乗客とは?
タクシー業界では、「“超”のつくロング客」を「オバケ」と呼ぶ。距離にして100キロを超えれば立派なオバケのなか、東京駅から滋賀県ともなれば移動距離は約442キロ、高速料金は1万円強。片道5時間20分(休憩なしの場合)のロングドライブとなる。
当然ながら、そうした乗客を引き受けることができる運転手は限られる。乗務時間超過、相方乗務員の出庫時刻、燃料補給、そして、高額運賃などの問題が発生するからだ。
事件を起こした少女は20時頃に乗車したようだが、東京~草津間の新幹線の終電は21時24分。まだ1時間以上も余裕があった。
「新幹線のほうが安くて速く、しかも安全だよね。乗車を申し込まれた時点で不審に思わなかったのかな」とベテラン運転手がこぼす。
「俺がこの申し込みを受けたら? まず、会社に電話して指示を仰ぐよ。会社がOKしたら低姿勢で『申し訳ありませんが、高額となりますので、所持金をお見せいただくか、クレジットカードが使用できるかを確認させてください』と言う。あるいは、半金を前払いでお願いするかな」
この運転手が語るように、長距離乗車の場合はカードでの事前決済や半金を前払いで受け取る方法もある。たとえば、半金として5万円を受け取る場合、まずメーターを押して「420円」と出た後に、手入力で「4万9580円」と打ち込んで決済するのだ。乗客が承諾しない場合は「当たり前だが、断る」という。
事件当日は「コロナ禍」「日曜日」「給料日前」と、都内のタクシーは「三重苦」にあえいでいた。
「超のつくロング客に飛びついた気持ちもわからないではないが、支払ってもらえる確約がなければ乗せられないよね。踏み倒されたら、料金は自腹だもん」(前出の運転手)
タクシーは会社が運転手の収入を保証してくれる業界ではない。また、支払いの不安や長時間運転、事故や車両トラブルなどを考えると、必ずしもウェルカムな乗客ではないとの声も聞かれる。
なお、タクシーには「1日あたり365キロの走行距離を超えてはならない」との規定があるが、東京23区+武三(武蔵野・三鷹)の営業圏では、首都高速以外の高速道路利用は走行距離から除外される。数名のロング客を乗せれば、簡単にオーバーするからだ。そのため、「行きに首都高速横羽線を使った場合、帰りを第三京浜にするなどは常套手段だよ」(同)という。
危篤、補導、逃亡犯…オバケ客の正体
仕事柄、多くの運転手に「一番の長距離は?」と聞くと、ほとんどが高くて3万円前後だ。東京からだと、茨城県水戸市や埼玉県深谷市、神奈川県小田原市などのチケット客である。これ以外にタクシーを使う理由がないのだ。