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藤和彦「日本と世界の先を読む」

コロナ、体内に抗体がなくてもT細胞がウイルス撃退…アジア人の低死亡率、原因解明進む

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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 T細胞は特定の抗原(ウイルスのタンパク質)とのみ結合するが、抗原の化学構造に類似する物質とも誤って結合することがある(交叉反応性)。半数の人のT細胞は、新型コロナウイルスが体内に侵入すると、過去に感染した風邪のコロナウイルスの免疫記憶が呼び起こされ、新型コロナウイルスを即座に認識し、攻撃するというわけである。

 スイス・チューリッヒの大学病院でも、新型コロナウイルスから回復した人のうち約2割(165人のうち34人)しか抗体がつくられておらず、残り8割は既存の免疫機構で新型コロナウイルスを退治したことが明らかになっている。コロナウイルスの仲間を広く認識できるT細胞は「交叉反応性メモリーT細胞」と呼ばれているが、老化やなんらかの疾病によって免疫不全の状態になっている人ではその活性が低下しており、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいようである。

 米国とスイスの調査のサンプル数は少ないことから確定的なことはいえないものの、これらが示唆しているのは、抗体が新たにつくられなくても、既存の免疫機構で新型コロナウイルスを退治できるということである。「抗体保有率が低い」といたずらに心配する必要はないのである。

 また、日本などアジア地域では「交叉反応性メモリーT細胞を有する人の割合が多いことから死亡率が低い」という仮説が成り立つ。このことは世界各地の人々のT細胞の免疫反応を調べることによって検証可能であり、新型コロナウイルスに対する耐性を判断する際の有力な材料となるだろう。

重症化しやすい人

 さらに、どのような人が重症化しやすいかもわかってきている。T細胞には、司令塔の役割を果たすヘルパーT細胞とウイルスを直接攻撃するキラーT細胞がある。ヘルパーT細胞が攻撃命令を出すとキラーT細胞は猛然とウイルスに襲いかかるが、しばしば暴走することがある。そうなると本来守るべき自らの細胞をも傷つけてしまい、とても危険なことが起きる(サイトカインストーム)。

 英オックスフォード大学は16日、「ステロイド系のデキサメタゾンが人工呼吸器が必要な患者の死亡率を35%引き下げた」と発表したが、この薬は関節炎などの炎症を抑える(体内の免疫機能を低下させる)効果を有するものである。

 新型コロナウイルス感染者の重症化をもたらす大きな要因の一つであるサイトカインストームの起きやすさには、遺伝的な違いがある。HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子のことであるが、慶應義塾大学や東京医科歯科大学などの研究チームは5月から、新型コロナウイルスの重症化について遺伝子レベルの解析作業を開始し、第2波の到来が予想される9月までに結論を出したいとしている。

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