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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

一気に普及したオンラインセミナー、受講して見えた“致命的な欠陥”…私の改善案

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
一気に普及したオンラインセミナー、受講して見えた“致命的な欠陥”…私の改善案の画像1
「Getty Images」より

コロナ禍で普及したオンラインセミナー

 新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2月下旬以降、リアルな講演会やセミナーが軒並み中止となった。筆者も、3~6月に予定していた講演会が中止や延期になった。それに代わって最近は、オンラインセミナーがあちこちで開催されている。筆者も、7月7日に『コロナ禍の半導体産業を生き抜くための羅針盤』と題するLive配信方式のオンラインセミナーを行うことにしている(詳細は文末の「お知らせ」をご参照ください)。

 そこで、「オンラインセミナーとは、どのようなものか」を知るために、次の2つのセミナーに参加してみた。

1. 6月15日(月)14:00~15:30 (株)セールスフォース・ドットコム主催

『池上彰氏と考える日本経済の未来 ~“いま”と“これから”の日本企業の在り方~』

2. 6月18日(木)15:00~16:25 SEMI Japan主催

『“【SEMI Japan ウェビナー】SEMI Japan Members Day SPECIAL”』

(注:SEMI Japanとは、日本の半導体業界団体の名称)

 この2つのオンラインセミナーを通じて、その長所と短所がわかってきた。したがって、自分がオンラインセミナーの講師となる際には、長所を生かし、短所をなくすように努めようと決意した。

 本稿では、上記2つのオンラインセミナーの概要を紹介するとともに、筆者が感じた長所と短所を論じる。結論としては、オンラインセミナーは遠隔地でもインターネット通信の環境さえあれば参加できるメリットがある半面、リアルなセミナーと同様に「講演30分、Q&A5分」としたのでは参加者は満足できないということである(少なくとも筆者は大いに不満だった)。

1.『池上彰氏と考える日本経済の未来 ~“いま”と“これから”の日本企業の在り方~』

 ジャーナリストの池上彰氏は、NHKの記者やニュースキャスターを経て、多数のテレビ番組に解説者として出演している。といっても、筆者は今まで一度も池上氏が登場するテレビ番組を見たことがなかったので、このセミナーで初めて池上氏の講演を聴くことになった。

 このセミナーに参加する動機となったのは、オンラインセミナーを体験してみたいということと、セミナーのタイトルの“日本経済の未来”および“日本企業の在り方”に引き寄せられたからである。

 セミナーの参加登録の際には、1000字以内の質問を書けるようになっていた。筆者は、コロナ禍でPCR検査の遅延が原因となって半導体工場の生産を停止した加賀東芝エレクトロニクスの事例を簡単に説明し、欧米諸国では半導体産業はエッセンシャルビジネスと位置付けられており、ひどいコロナ禍でも工場稼働を政府が支援していること、ところが日本では半導体産業がエッセンシャルビジネスと考えられていないのではないかという意見を述べた上で、池上氏に対して「エッセンシャルビジネスをどのように定義しているか?」「コロナからエッセンシャルビジネスをどう守るべきか?」ということを質問した。池上氏からの回答を期待して、セミナーに臨んだ。

池上氏のセミナーの概要

 約6000人が参加したこのセミナーでは、まず池上氏が25分ほどの講演を行った。その内容は次の通りである。

 米国の経済学者フリードマンが新自由主義として「株式会社とは株主価値を最大化すること」だと主張したが、今回のコロナ騒動により、これは見直しを迫られることになった。どのような見直しかというと、企業の社員が健康でなければ、その企業は存続できないということである。そのように企業が進化(エボリューション)しなければ生き延びられない。

 ダーウィンは進化論の中で「環境の変化に適応したものだけが生き延びる」と述べたが、今まさに企業は、コロナによる環境の激変に適応することを求められている。そして、5年後、10年後を見据えて、新しいビジネスモデルをつくっていく企業が成長していくだろう、と論じた。

 池上氏の講演は、難しい専門用語を使わず、非常にわかりやすいと感じた。また、その内容にも共感できた。その上で、「コロナ禍において、企業の社員が健康であるために、どうするべきか?」を問うてみたいと思った。また、セミナー登録の際に書き込んだ質問は、この講演にジャストフィットするものだと思われた。しかし、ここでQ&Aの時間はなかった。

4人のパネラーのショートプレゼンとQ&A

 池上氏の講演の後は、4人のパネラーのショートプレゼンとQ&Aに移行した。その4人のパネラーを以下に紹介する。

1)株式会社Resorz 代表取締役 兒嶋裕貴氏

 Resorzは、「グローバル市場で成功する日本企業を10000社作る」という目標を掲げる民間最大級の海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」を立ち上げ、現在までに1万8000件以上の海外進出相談を受けた実績があるという。

2)税理士法人クオリティ・ワン 代表税理士 渡邊勝也氏

 渡邊氏は、2010年に税務調査専門の税理士事務所として独立開業し、月10~20件という圧倒的な税務調査実績を持つという。全社員の成果の可視化をリアルタイムで行うことと、社員の目的を明確にする教育によって、主体的に行動する経営者マインドを持った社員を育成し、経営を行っており、openworkにて総合スコアランキング(法律業界)約1800社中1位だそうである。

3)株式会社Clannote 代表取締役 和田智裕氏

 和田氏は、半導体専門商社、外資大手ITネットワーク機器ベンダー、日本法人立ち上げ期の外資ITソフトウェアベンチャー企業を経て、2009年に株式会社Clannoteを設立された。同社の主力事業は、海外企業の日本進出への支援・投資や取引先のブランド力向上・経営支援などである。

4)(株)セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 宮﨑盛光氏

 宮崎氏は、日系リース会社、GE、金融系システムインテグレーターを経て、2008年にセールスフォース・ドットコム入社。毎年100社以上の企業と接点を持ち、企業が抱えている「顧客サービス・顧客体験向上」という課題に対し、企業の「お客様」目線に立ったサービス改革の支援を行っているという。2020年より、常務執行役員兼エンタープライズ首都圏営業本部長を務めている。

スマートで、美しい、成功物語

 すべてのパネラーがキラキラと輝く経歴の持ち主で、コロナ禍にあっても(あっているはずだが)、そのような影響はまったくなく、各社各組織とも成長を続けているようである。そして、4人に対するQ&Aにおいては、スマートで、美しい、成功物語が語られ続けていた。

 しかし、筆者は大きな違和感を持った。現在、日本中(いや世界中)の企業が、コロナ禍で悲鳴を上げている。多くの産業・企業で、突然、需要が消滅し、サプライチェーンが分断されてしまった。上場企業の多くが、今年度の業績見通しが立たないほど、危機的状況となっている。ところが、上記4人の話からは、そのような現実的な話は一切なく、したがって危機感もまったく感じられなかった。

 しかも、図は一切使われず、会話だけでセミナーが進行し、池上氏と4人のパネラーの発言は、定量的で具体的なものは何もなく、抽象論だけが語られていたように感じられた。このセミナーの登壇者たちにとっては、もはやコロナは終わったことになっているのだろうか?

 セミナー中には、チャット機能で質問を書き込めるようになっていた。そこで、「4人の方、全てにお聞きします。あなたの会社や組織で、コロナが疑われる社員が出たら、あなたはどのように対処されますか?」と質問してみた。しかし、筆者の質問は、事前に送ったものも含めて、取り上げられることはなかった。約90分のセミナーは、キラキラと美しく、しかし現実味がない話で幕を閉じた。筆者の頭に残ったのは、「このセミナーはいったい、なんのために開催されたのだろうか?」という謎であった。そして、大きな不満を持った。

2.『“【SEMI Japan ウェビナー】SEMI Japan Members Day SPECIAL”』

 SEMI Japanとは、日本の半導体業界団体である。そのSEMI Japanは毎年2回、リアルなセミナーを開催している。実は6月3~4日に開催されるSEMI Japanのリアルなセミナーで、筆者は『EUVの普及と課題』について講演する予定だったが、中止となった。その代わりに、上記のオンラインセミナーが開催されたのである。

 つまり、筆者は上記セミナーの登壇者になるはずだった。ところが、6月18日は、Web会議が多数予定されていてオンラインセミナーの講師になることができないため、今回は辞退した。このセミナーは、今後も毎月1回のペースで行うため、どこかで登壇してほしいと依頼を受けている。そこで、いつか自分にお鉢が回ってくるかもしれないという考えもあって、本セミナーに参加したわけだ。

 今回のセミナーでは、以下の2つの講演があった。

1)『With/After COVID19時代に向けたWorkforce Transformation(組織・人材改革)』アクセンチュア 金若秀樹氏

2)『シリコンウェーハから見る 半導体市場と技術』 SUMCO 小森隆行氏

プレゼンは具体的だったがQ&Aの時間が短い

 講演はパワーポイントを使ったもので、アクセンチュアの金若氏はウイズ・コロナおよびアフター・コロナの時代における組織や人事改革について具体的な話をされた。例えば、コロナ禍により、突然、テレワークをせざるを得ない状況となった。コンサルタントとして、どのようにカスタマーとWeb会議を行ったらいいか、部下の仕事をどう管理したらいいか、コロナが終息した後にはどのような組織であるべきか、などである。

 予定では30分のプレゼンの後、10分のQ&Aの時間がとられていた。しかし、実際のQ&Aは5分くらいだったかもしれない。質問したい者はPCの画面の「挙手」のボタンを押す。そして主催者側が、その人のミュートを解除すると、質問できるという仕組みだった。

 筆者は講演終了後ただちに「挙手」した。最初に指名されたのは、別の方だった。ところが、その方の音声が聞こえなかったため、その質問はパスとなり、筆者が指名された。そこで、「完全なテレワークをせざるを得ない今、新規顧客を開拓するのは難しいのではありませんか? 例えば、アクセンチュアさんもコンサルタント会社として、新規顧客への営業を行う必要があると思いますが、どのような工夫をされていますか?」というようなことを質問した。

 金若氏は、「今回のようなセミナーを開催したり、バーチャルな展示会を行ったらどうでしょうか? 今回のセミナーは約1000人が参加されているそうです。リアルなセミナーの場合、1000人が参加申し込みをしても、会場に来るのは30~40%程度です。オンラインセミナーは、非常に参加率が高い。それを利用するのは一つの手段です」と回答された。筆者は「なるほど」と納得した。金若氏には、もう一つのQ&Aがあった。したがって、最初の空振りの人を含めて3人の質問者があったことになる。

 続く講演で、半導体ウエハメーカー・SUMCOの小森氏は「コロナ禍にあっても、プロセッサもDRAMも、微細化を続けていく」ということを定量的に論じた。この話は、筆者の専門分野のストライクゾーンのど真ん中だったので、講演終了後、直ちに「挙手」した。1人目の質問者が指名され、2人目になり、そして3人目の時、司会者が「これが最後の質問です」と言ったときには、驚くとともに、「なぜ私に質問させてくれないのか?」と相当がっかりした。

オンラインセミナーの長所と短所

 以上、オンラインセミナーに2回参加した結果、その長所と短所がわかってきた。まず、長所としては、自宅にいながらセミナーに参加できることが挙げられよう。極端な話として、ネットがつながる環境さえあれば、日本中、いや世界中どこからでも参加できる。しかも、移動時間とコストは一切かからない。これは、オンラインセミナーの最大の長所であろう。

 一方、短所もある。それは、セミナーの講師からは参加者の顔が見えないということである。つまり参加者の全ての顔とその表情が、講師にはわからない。したがって、講師としては参加者が理解できているのか、理解しているなら賛同しているのか反対なのか、ということが一切わからないことになる。その結果として、コロナ禍にあるはずなのに、キラキラ美しい話で終わってしまうことになるのである。

 筆者は年間10~20回くらい講演を行う。その際、パワーポイントを使いはするが、参加者の顔を見ながら話すようにしている。講演内容には起承転結をもうけ、ここでアッと言わせようというような仕掛けをする。しかし、それがうまくいくかどうかは、参加者の理解度を読む必要がある。しかし、オンラインセミナーでは、それは困難である。

 そして、今回体験した2つのオンラインセミナーは、致命的な欠陥があったといわざるを得ない。それは、リアルなセミナーと同様な時間配分をしたことである。池上氏のセミナーは約6000人、SEMI Japanでは約1000人の参加者があったそうである。ならば、Q&Aの時間を5~10分程度にするのは間違っている。30分の講演を真剣に聞いていれば、誰もが必ず1つや2つの質問をしたくなるものだ。したがって、充分なQ&Aの時間を取らなければ、参加者の多くは満足できないだろう。実際、筆者は大いに不満だった。

 そこで、7月7日に筆者が行うLive配信方式のオンラインセミナーでは、参加者の全てが質問できるくらい、充分なQ&Aの時間を取ろうと覚悟した次第である。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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