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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

クルードラゴン打ち上げに成功したテスラ創業者の偉業と本当のスゴさ…月見学ツアー計画も

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
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クルードラゴンを搭載したファルコン9の打ち上げの様子(提供:NASA/SpaceX)

 自動車メーカー・テスラの創業者、イーロン・マスク氏が率いる米国の宇宙開発企業、スペースX社が独自開発の宇宙船「クルードラゴン」による有人打ち上げと、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功しました。これは、宇宙開発が政府主導から民間主導へと大きく転換するきっかけとなる大成功です。

民間ロケットが初めて人類を宇宙へ

 日本時間2020年5月31日早朝、クルードラゴンを先端に搭載したスペースX社の大型ロケット「ファルコン9」が米国フロリダ州からISSに向けて打ち上げられました。米国は、9年前にスペースシャトルが退役して以来の自国のロケットによる人類の宇宙到達です。

 米国は、安価な宇宙往還機としてスペースシャトルを開発しました。機体とロケットブースターを再利用することによって打ち上げ費用を劇的に軽減できる技術として注目されましたが、実際には打ち上げごとに分解整備が必要だったため、1回の打ち上げに500億円を要する結果となり、使い捨てロケットを打ち上げるよりも高額になるという残念な結果となりました。そのため、9年間にわたり、米国はロシアのソユーズ宇宙船を使って宇宙飛行士をISSに輸送していました。

 クルードラゴンには米国人宇宙飛行士が2人搭乗し、日本時間の31日深夜にISSへのドッキングに成功しました。すでに無人宇宙貨物船は民間の船がISSへのドッキングに成功していましたが、有人での成功は今回が初めてであり、民間企業が宇宙ビジネスに参入するにあたっての大きな一歩を踏み出したことになります。

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打ち上げ時のクルードラゴンのキャビン内の様子(提供:NASA/Bill Stafford)

 今回の打ち上げは試験機の位置づけで、この成功によりクルードラゴンは実用段階となり、その1号機は8月30日の打ち上げを目指して準備が進められています。

スペースX、将来的には月見学ツアーの実施も

 スペースXの創業は18年前のことでした。当時は、ITの成功者・テスラ創業者が有人ロケットを打ち上げるということで、大金持ちの一時的な好奇心という見方もありました。

 しかし、コスト削減のために再利用可能なロケット構造を追求し続け、何度も何度も失敗を繰り返しながら、打ち上げたロケットを垂直に帰還させ、分解整備することなく、そのまま再利用する技術の確立に世界で初めて成功するに至りました。

 失敗後、ただちに原因を解明し、間髪をいれず改良型を打ち上げる開発ペースは、それまでのじっくりと腰を下ろして着実に改良を続ける政府主導型とは一線を画しており、エジソンが述べた「私は1万回失敗したのではない、成功しない方法を1万回発見したのだ」との名言を思い出させました。

 自動で着陸するロケットに加え、そのロケットを受け入れる自動制御の着陸台船の開発にも成功し、今回の有人初飛行に到達したのです。この成功によって、宇宙飛行士はもちろん、民間人を低コストで宇宙に送れる可能性が広がることになります。

 このインパクトは、私たちの予想をはるかに超えるものとなるでしょう。米航空宇宙局(NASA)ではISSの商業利用も進めています。過去には日本の食品メーカーが即席麺のテレビコマーシャルをISS内で撮影して話題となりましたが、これからは私たち民間人がISSの窓から地球を眺めながら即席麺を食べることも夢ではなくなるでしょう。

 一方で、スペースX社は今回の技術をさらに発展させ、より多くの人を一度に宇宙空間に運ぶことができる大型機の研究を進めており、まずは上空100km程度(ISSの軌道高度は上空400km)の低軌道の宇宙空間を往復する宇宙観光ツアーから着手し、将来的には月上空を飛行する月見学ツアーも実施したい考えを持っています。

 しかし、最近の宇宙開発への民間参入はこのような良い結果ばかりではなく、米ヴァージン・オービット社はボーイング747からロケットを射出して、劇的にロケット打ち上げコストを削減する技術開発を進めていましたが、5月下旬に行われた初のロケット射出試験に失敗し、ロケットは墜落してしまいました。

 また、北海道に打ち上げ施設を持つインターステラテクノロジズのロケット「MOMO」も、4回の打ち上げのうち1回しかロケットを宇宙空間まで到達させることができていない現状も、民間による打ち上げビジネス参入の障壁の高さを感じさせます。

 日本は無人宇宙貨物船「こうのとり」を独自開発し、9回の打ち上げすべてを見事に成功させて運用を終えました。成功率100%の技術力は、世界でも間違いなくトップにあります。問題は打ち上げコストをどこまで下げることができるかにかかっています。今後のロケットの再利用技術の開発、より低コストな新型ロケットの開発に期待が寄せられています。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
Launch America」(NASA)

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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