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目からウロコの歯の話

「歯の色、歯並び、噛み合わせ」の治療はリスクだらけ…思わぬ副作用に苦しむ人が続出

文=林晋哉/歯科医師

「歯の色、歯並び、噛み合わせ」の治療はリスクだらけ…思わぬ副作用に苦しむ人が続出の画像1

 新型コロナウイルスの感染を恐れた“通院自粛”のため、一般外来の受診率は低下しています。過度の通院自粛は、病状の悪化を招くなどの問題がある一方で、いわゆる不要不急の診察や診療を見直す機会ともなりました。

 歯科も例外ではありませんが、筆者はコロナ渦以前から、歯科には不要不急の治療がまかり通っていると懸念を抱いていました。主に「審美歯科」と呼ばれる治療分野に多いのですが、不要不急の歯科治療が多い原因は、一般的には常識のように思われていますが、実は間違った歯に対する思い込みがあると思っています。

 間違った思い込みとは、「歯の色」「歯並び」「噛み合わせ」の3つです。

 歯は色や形状でコンプレックスを持ちやすい臓器ですが、間違った思い込みが、いらぬコンプレックスを生み出しています。正しい知識を持てばコンプレックスを持たずにすみますし、不要な治療で歯の寿命を縮めたり、思わぬ副作用に苦しむことを防げるのです。

 それぞれについて、解説します。

(1)「歯の色」

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天然歯に合わせた色見本。歯の色は十人十色

 一般に歯は白いほうが良いと思われていますが、そんなことはありません。
それは単なる思い込みなのですが、多くの人は「白い歯信仰」を持っており、その裏返しで歯の色にコンプレックスを持っています。

 歯の色は、その人の個性です。白っぽい歯の人もいれば、黄色っぽい歯の人、茶色っぽい歯の人などさまざまで、まさに十人十色です。歯の色の違いに優劣はありません。白い歯のほうが歯科的に優れているということも、もちろんありません。

 こうした間違った思い込みである「白い歯信仰」に付け入るように、ホワイトニングなどを売りにする歯科医もいますが、それは歯の漂白にほかなりませんので、不要不急の典型例でしょう。

 さらに「白い歯信仰」が高じると、健康な歯を一回り小さく削って人工の白い歯に置き換える方法をとる人がいます。芸能人やスポーツ選手に多いのですが、一度削ってしまった歯は戻ってきません。一時は真っ白に変わった歯に自己満足を覚えても、健康な天然の歯より人工の歯のほうが長持ちする保証はありません。

 さらに、こうした方法には大きなリスクがあります。人工の歯に置き換える本数が多いほど噛み合わせの再現性も難しくなり、以前のようによく噛めなくなることがあるのです。歯の色を変えたために、「噛む」という歯の本来の機能(咀嚼運動)を損なったのでは本末転倒です。整形手術で二重まぶたにして失明するようなもので、高額な治療費の割にはリスクが大きい、まさに不要不急の治療です。

 なお、タバコのヤニやコーヒー、赤ワインなどの色素沈着が原因で、歯の表面が黒ずんだりする場合がありますが、これは歯科医院で落とすことができます。汚れが落ちればその人本来の歯の色に戻ります。

(2)「歯並び」

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歯並びに調和した固有の咀嚼運動がある

「歯並び」も、間違った思い込みが原因でコンプレックスを抱き、不要不急の歯列矯正治療へと進む流れが多く見受けられます。

 歯並びが乱れていることが「悪」で、揃っていることが「善」のように思われがちですが、そんなことはありません。そもそも歯は上下左右の歯でバランス良く噛める(咀嚼運動)という機能が発揮されることが、もっとも大切なのです。歯並びが悪いとよく噛めないなどとも言われていますが、そんなことはありません。

 一番誤解されていることなのですが、歯並びと噛み合わせの良し悪しはリンクしません。歯並びが乱れていても、その乱れに調和した上下の歯の噛み合わせが成長とともに形成され、その人固有の咀嚼運動を営んでいるのです。ここを誤解して歯列矯正などを始めると、それまで調和のとれていた上下の位置関係が変わり、思わぬ弊害が発生します。歯列矯正をして歯はきれいに並んだが、上下の歯が噛み合わず、ものが噛めないといった例や、全身にさまざまな症状を引き起こす事例が多いことは、これまでに本連載において何度も報告してきたとおりです(連載「目からウロコの歯の話」)。

 また、歯並びが乱れていると、歯磨きが不十分になり虫歯になりやすいともいわれますが、これは歯科衛生士による定期的なプロケアで対処できます。自分でできないことはプロに任せればよいのです。虫歯になりやすいから歯並びを治すべきなどという安易な考えは、持つべきではありません。

「歯並び」への間違った思い込みも不要不急の歯科治療を生み出しています。

(3)噛み合わせ(主に上下の顎の関係)

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噛み合わせも各人固有のもの(写真は反対咬合)

 いわゆる「出っ歯(上顎前突)」や「受け口(反対咬合)」もコンプレックスを持ちやすい要素ですが、これも個性のひとつで、噛むという機能に問題を生じることがない限り、気にすることはありません。明石家さんまさんや久本雅美さんのように、その人を表す特徴でしかありません。

 受け口とは、下顎が上顎より前に出た状態ですが、これも身体的な特徴のひとつでしかありません。元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんや元気の象徴・アントニオ猪木さんはこのタイプですが、お二人とも一流のスポーツ選手です。実は、スポーツ選手にはこのタイプの人が多く見受けられます。

 受け口を治す方法に「顎切り」といわれる手法があります。文字通り下顎を外科的に短く切って引っ込めるのですが、仮に松井さんがこの手術を受けていたとしたら、彼の活躍はまったくなかったと思われます。この噛み合わせがあっての松井さんであり、猪木さんなのです。

 医学的に証明はされていませんが、噛み合わせのタイプとトップアスリートのような並外れた身体能力には、なんらかの関連があるように思います。この分野の研究が進めば、見た目の噛み合わせより機能が重要であることが解明され、無駄なコンプレックスを持たずに済むことにつながるのではないかと期待しています。

「歯の色」「歯並び」「噛み合わせ」に象徴されるように、歯は見た目ばかりが気にされがちです。しかし、「噛むという機能(咀嚼運動)に勝る歯の役目はない」のです。どんな色でも、どんな歯並びでも、どんな噛み合わせでも、よく噛めることが重要なのです。間違った思い込みやいらぬコンプレックスに惑わされて、リスクの多い不要不急の治療は避けるべきなのです。
(文=林晋哉/歯科医師)

林晋哉/歯科医師

林晋哉/歯科医師

1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(歯科医療研究センターを併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」: -あなたもいつか歯を失う』(パブフル)など多数。

林歯科・歯科医療研究センター

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