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ニトリ、3~4月に売上“増”…コロナ禍までチャンスに変え「一強」に、死角なき経営戦略

文・取材=A4studio
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ニトリ HP」より

 この春、新型コロナウイルスが猛威を振るい、4月には政府から緊急事態宣言が発令された。その影響で多くの小売店が休業を余儀なくされ、経営難に陥る企業も少なくなかった。

 しかし、家具・雑貨チェーンの最大手ニトリホールディングスは違った。同社の似鳥昭雄会長は4月6日に行われた決算会見にて、コロナ禍でも34期連続で増収増益を目指す方向を提示。実際に3月、4月のトータルで見ると、同社の売上は前年比2.7%増、客数は5.2%増となっており、テレワークや外出自粛に伴う家具需要を取り込んだものと見られている。一部では従業員への感染の危険性が問題視されていたものの、パンデミックをものともしない王者の風格を見せつけ、話題となった。

 そこで今回は、元みずほ銀行小売アナリストで、現在も中小企業診断士として執筆活動等を続ける中井彰人氏に、コロナ禍のニトリで何が起こっていたのかを聞いた。

近年はホームファッション部門に注力し、さらなる拡大を目指している

 まず、ニトリの躍進の歴史をおさらいしていこう。中井氏によれば、雑貨の販売で回転率をあげて資金をつくり、各工程を自社で一貫して担うSPA業態を発達させていったことがカギになったという。

「従来の家具業界では、メーカー・問屋・小売店という役割分担された構造が当たり前でした。なぜなら、家具を店頭に並べる時点で在庫を用意するための資金がかかるからです。そして小売店はあまり資金力がないので、問屋で調達してきてもらった家具を置いておいて、売れたらそのときに初めて買い取ったことにするという、“置き在庫”のシステムに頼るしかなかったのです。

 そんななかで、家具を自社で買い取ったうえで販売する形態を始めたのが大塚家具でした。大塚家具はいいものをある程度安く買い取って、自社の資金力で店頭に並べ、高級品をリーズナブルに買える店舗として成長したのです。

 ですが、それをいっそう突き詰めていったのがニトリだったのです。自社で買い取るのみならず、自社で製造まで行うSPAという段階まで踏み込みました。製造、流通の過程を短絡化したこと、及び当時の円高を追い風として、「お、ねだん以上」のリーズナブルな商品を提供することに成功しました。さらにニトリが賢いところは、同時に雑貨やキッチン用品など購買頻度の高い商品を置いておけば、通常であれば年に数回しか足を運ぶ機会がない家具店でも、客が頻繁に来てくれることに気がつき、資金を回転させた始めたところでしょう。そSPAにとって最も脅威となる在庫リスクを、購買頻度を上げることでリスクヘッジすることに成功したのです」(中井氏)

 その結果、ニトリは中間の製造・流通過程にかかるコストカットに成功したという。

「製造・流通過程のコストカットで浮いた分を、価格に反映させて家具を安く販売できるようになりました。そして、いつも雑貨を買いに来ている客が、いざ家具を買うとなるとニトリを利用してくれるようになる。例えば他の家具屋で10万円するものがニトリなら7万円で買えますからね。こうして客はもうニトリにしか家具を買いに来なくなるという好循環を生み出し、他の家具店を淘汰してしまったんです」(中井氏)

 独自の“気づき”を武器に資金を調達し、家具業界では珍しいSPAのシステムを発展させていったニトリ。家具業界でトップシェアを誇るまでに成長した現在も守りに入ることなく、近年は新しい事業「デコホーム」にも力を入れてさらなる拡大を目指している。

「デコホームというのは、ニトリが展開するホームファッション部門を切り取って展開している店舗です。ニトリはこれまでロードサイドに大型店舗を展開することで成長してきましたが、もうそろそろ出店できるスペース(エリア、土地)が少なくなってきています。そのため、現在は大都市のショッピングモールや駅ビル、百貨店などに隙間を見つけて、リーズナブルな雑貨中心に売る店を強化する戦略に入っているんです。実際、デコホームがニトリの増収増益にも貢献しているようです」(中井氏)

コロナ禍においても大盛況のニトリ――勝因は「とにかくツイてた」?

 前述のとおりニトリはコロナ禍においても大盛況だったという。ニトリといえばバブル崩壊時やリーマンショック時など、日本が不況に陥った際でも売上を伸ばして来た“不況に強い会社”として知られているが、今回のコロナ禍におけるニトリの勝因について、中井氏は「とにかくツイていた」と分析する。

「コロナ禍では休業を余儀なくされた家具店も多かったはずなのですが、ニトリは売上の半分以上が雑貨だったので店を閉めなくてもよかったのです。また、テナントで入っている店舗は商業施設ごと休業することになった場合、閉めざるを得なかったのですが、テナントで入っている店舗の何倍も大きいフルラインの店舗が空いているので、影響をあまり受けずにプラスを維持できたのでしょう。

 しかも、ニトリは商品の供給ルートを8カ国に分散させていました。例えば、中国一辺倒の会社だとコロナの影響で一時的に商品が入って来なくなるなどして、営業が続けられなくなるケースも多々ありました。ですが、ニトリはコロナの影響をほとんど受けなかったベトナム等にも工場を持っていたため、供給が滞りませんでした。かなりラッキーだった面があると思いますが、深読みするならこういった緊急事態下を予測した分散対策だったと見ることもできます。

 さらに、コロナの影響でみなさん“巣篭もり”に徹していましたこともあり、必然的に家のなかのものを見直すようになったため、需要が増えたという側面もあると思います。これはニトリに限らず、コーナンなどのホームセンターでも数字が伸びていたことも裏付けとなるでしょう。いずれにしても、ニトリとしては大きな声では言えないでしょうが、みなさんの“巣篭もり”が結果的にニトリにとってツイていたといえるのです」(中井氏)

 新型コロナ流行の影響で売上を伸ばしたというニトリだったが、特別な戦略が功を奏したというわけではなかったのかもしれない。しかし、ニトリの本当の実力が発揮されるのはウィズコロナの世界が訪れる今後なのだと中井氏は語る。

「緊急事態宣言が解除されて、やっとフラットになった6月からが本当の戦いになるわけです。これまでは店頭に客を集めることが儲かる要因だったと思いますが、ウィズコロナの世界ではそういうわけにもいかなくなります。すると今後は店舗にも来てもらいながら、ネット通販にも力を入れていく必要が出てくるのです。

 そのなかでもニトリは確実に有利でしょう。というのも近年、店頭で気に入った商品を最終的にネットで購入されてしまう“ショールーム化”が問題視されています。例えばバラエティショップの東急ハンズなどは特に悩んでいるようです。東急ハンズは自社製品を主力にしている店ではないので、いい商品を提案しても、結局よそのネット通販サイトで購入されてしまうと売上につながりません。

 ですがニトリは自社製品を展開しています。まず、気に入った商品が自社製品であれば、消費者は他のネットショップで買うことはできません。しかも、ニトリの商品がある程度リーズナブルな価格であることは周知の事実なので、余計に他の候補も出て来にくい。そのためニトリは商品を気に入ってさえもらえれば、そのままニトリで購入してもらえる確率が高いわけです。そういった観点から、ニトリはウィズコロナの世界でも自社製品の強みを生かして、実店舗とECサイトをうまくつないでいけるでしょう。今後の売上も好調が期待されます」(中井氏)

 ウィズコロナの世界は弱肉強食。アフターコロナまで生き残れない企業も数多く出てくることが予想されている。しかしニトリは現状、業界の先頭を走り続けており、似鳥会長も「不況こそチャンス」と言い切るほどの余裕がある。まだまだ無双状態が続いていくのではないだろうか。

(文・取材=A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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