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なぜ専業主婦も共働きママもこんなに“しんどい”のか?専業主婦も夫に子を預け1人の時間を

文=真島加代/清談社
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「gettyimages」より

 女性の社会進出というテーマにおいて、メディアは「専業主婦」と「共働き女性」を対立させたがる。しかし、実際には、そんなわかりやすい構造にはなっていない。働きたくても働くことができない専業主婦(主夫)もいれば、子育てに悩む共働きの母もおり、それぞれがさまざまな“しんどさ”を感じながら、日々を過ごしている。

 そこで、現代の子育て世代が抱える難題について『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』(PHP研究所)の著者でジャーナリストの中野円佳氏に話を聞いた。

共働きも専業も“しんどい”理由

 多くの専業主婦や主夫、共働き家庭を取材してきた中野氏は、彼女たちが抱えるしんどさについてこう語る。

「まず、子育て世代の共働き家庭にとって、今の日本の社会構造は子育てと仕事の両立そのものが難しい状況です。仕事帰りに保育園に子どもを迎えに行き、すぐにごはんを食べさせてお風呂に入り、着替えさせて……と、やることが多すぎて常に子どもを追い立ててしまい、子どもとじっくり向き合う時間のなさに“しんどさ”を感じています」(中野氏)

 一方、専業の場合のしんどさは、主婦の仕事をしながら乳幼児~幼稚園入園前の子どもと過ごす多忙さにある、と中野氏。

「専業主婦家庭の場合は特に父親が外で長時間仕事をするので、家事・育児が妻に一極集中しがちです。子育て経験のある人ならわかると思いますが、3歳くらいの子どもの相手をするにはかなりの体力が必要。午前中に全力で遊び、ベビーカーで散歩をして疲れたところで子どもが昼寝をします。その合間を縫って掃除など通常の仕事をこなす必要がありますし、子どもの人数が複数になればさらに複雑な業務なんです」(同)

 そして、何より“ひとりの時間がほとんどない”ことが専業主婦を追い詰めるという。

「共働きの母親は、子どもを保育園に預けた後の通勤時間や仕事中が“ひとりの時間”になります。しかし、3歳以下の子どもを持つ専業主婦は24時間子どもと一緒です。特に、近所付き合いもなく、両親も遠方にいて頼れず、ひとりで育児に奮闘している人は、『育児ノイローゼ』や『産後うつ』に陥る恐れがあります」(同)

 専業と共働きの母の悩みは長らく議論されてはいるが、根本的な解決には至っていない。一方で、夫・父親も“しんどさ”を抱えていても表面化しにくい、と中野氏は話す。

「長時間労働が当たり前の企業では、フレキシブルな働き方はなかなかできません。でも、共働きの妻には『早く帰ってきて育児をして』と言われてしまうので、仕事と家庭の板挟みになっています。パートナーが専業の場合は『自分が働かなければ家族が生活できなくなる』というプレッシャーを感じ、転職をためらう傾向があります。現代の日本は、男女関係なくしんどい社会になっているんです」(同)

 それぞれが異なる悩みを抱えているように思えるが、中野氏は「根本的な問題は、高度成長期から続く、専業主婦を前提とした社会のシステムにある」と指摘する。

専業主婦が前提の「転勤」制度

 専業、共働き、双方のしんどさを生む社会のシステムのひとつが「転勤」だ。日本の会社員の宿命でもある転勤は、帯同する家族にも大きな負担がかかる。

「総合職の人は、転勤辞令が出たら家族の状況がどうであれ断りにくい。高度成長期は転勤を断ったら出世は望めないどころか、クビになるリスクもありました。1986年に起きた東亜ペイント事件では、『高齢の母と保育士の妻と2歳児を抱えた男性社員』が家庭生活上の不便を理由に転勤を拒否したことで懲戒解雇されて、裁判を起こしました。結果は『通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない』とされ、社員の訴えが通らなかったんです」(同)

「転勤を拒否したらクビにされても文句は言えません」と裁判で判断されてしまったら、お手上げだ。しかし、中野氏は従来の転勤システムについて「共働きが増えている現代では通用しない」と話す。

「そもそも、転勤は妻が専業主婦として夫のサポートをする前提で成立していた制度なので、共働き家庭に適したものではありません。さらに、働く意欲がある専業主婦にとっても、夫の転勤が足かせとなり、正社員として働きにくい状況にもつながっています」(同)

 時代にそぐわず貴重な労働力を失っている状況を受け、2002年には「改正育児・介護休業法」が施行された。これにより、事業主は転勤などに際して家族の状況を把握し、社員本人の意向もヒアリングするなどの配慮が求められるようになったという。

「実際、企業側にも変化が起きています。たとえば、妻が夫の転勤に帯同してもリモートワークで働けるように制度を整える企業が少しずつ増えてきたり、フリーランスで仕事を受けやすくなったりと、働き方の幅が広がったことも変化のひとつ。ただ、こうした変化は夫の転勤の帯同による退職者を減らしたい企業が中心です。大企業のなかには、フレキシブルな対応ができないケースは多いですね」(同)

 いくら行政が「働き方改革」と言っても、企業側にメリットがないとなかなか実現しないのが実態なのだ。

専業主婦を襲う「自己責任論」

 また、個人も企業もいわば「川下」であり、変革していくための「大きな課題は行政側に残っている」と中野氏は指摘する。

「たとえば、妻の年収が103万円以下の場合、妻は所得税を払う必要がなく、夫の課税対象所得から38万円を控除できる『配偶者控除』。そして、妻の年収が130万円を超えると夫の扶養を外れ、自分の厚生年金や社会保険料の負担が発生する『社会保障制度』。この2つの要因によって主婦の3分の1はパート勤務を選ぶため、最低賃金を押し下げたり男女の賃金格差が埋まらなかったりと、女性たちの自立の妨げになっています」(同)

 また、保育園を見つけるのも大変で子どもを簡単には預けられないため、やむを得ず専業主婦になる家庭も多い。中野さんが取材した家庭でも「経済的リスクが大きいのはわかっているが、子どもを預けられず物理的に働くことができない」と嘆く妻が少なくなかったという。

「そして、近年の専業主婦にのしかかっているのが“自己責任論”。つまり、『自分で選んで専業主婦になったのに不満を言うな』というものです。しかし、前述のように働こうにも働けない人にとっては『子どもを産むな』と言われているのと同じこと。本当に少子化対策をするのであれば、自己責任論を振りかざす世間の価値観もアップデートしなければなりません」(同)

 中野氏は「働ける人は働くことができて、男女ともに働けない時期があってもセーフティネットがあり、親を含めたさまざまな大人が子育てに時間を割けるような世界を構想すべき」と話す。しかし、議論は進まず、抜本的な解決策はいまだ見つかっていない。

「しんどさ」を打破するためのカギ

 そんな過酷な状況下で自分の家庭に“しんどい空気”が充満したときは、「夫婦で話し合ってほしい」と中野さんは提案する。

「『なぜ共働きも専業もしんどいのか』の出版直後、『共働きならまだしも、専業なら夫に手伝ってほしいなんて言うな』というコメントがSNSにあふれました。そうした論調がいまだ強いなかで、専業の人は、せめてパートナーには3歳以下の子どもと2人きりで過ごすハードさを理解してほしいと感じているはず。自分の妻に専業でワンオペ育児をしてもらっているなら、休日には夫が子どもを見て“妻がひとりになれる時間”をつくることで、産後うつなどのリスク回避につながります」(同)

 また、専業家庭で夫が家族を養うプレッシャーを感じている場合は、共働きという選択肢を妻に相談しよう。経済的に支え合うことができれば、不安も減るはずだ。そして、共働き家庭は状況に応じて夫婦の働き方を変えていくという方法もある。

「出産や子育てなどの仕事に影響が出るタイミングで、その都度妻のキャリアについて話し合うことが大切です。あるご夫婦は、キャリアアップを目指す妻に代わって夫が主夫になり、子育てが落ち着いた後に就職して保育園の園長になったケースもありました。家族のカタチには答えがないからこそ、話し合いながら最適解を探る必要があるんです」(同)

 八方塞がりになりがちな現代の子育て世代にとって、夫婦の相互理解を深めることこそが「しんどさ」を打破するカギになるのかもしれない。

(文=真島加代/清談社)

●中野円佳(なかの・まどか)
1984年生まれ。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社に入社。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号を取得。シンガポール在住の現在は、東京大学大学院博士課程に在籍しながら、フリージャーナリストとして活躍中。二児の母。著書に『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)などがある。

『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』 長時間労働・転勤・直線的キャリア……終身雇用を前提とした日本の働き方の矛盾が、共働き世帯の急増により表出してきている。こうした働き方は同時に、家事育児を一手に担い、出産後退職すると正社員での復帰が難しい専業主婦の苦悩をも生み出してきた。本書では、こうした「共働きも専業も苦しい」理由を、主婦の無償労働を前提とする日本の循環構造から読みといていく。ギグ・エコノミーや多様化する働き方は、循環構造を変える契機になり得るのか。「東洋経済オンラインアワード2018」でジャーナリズム賞を受賞した好評連載に大幅加筆のうえ、書籍化。 amazon_associate_logo.jpg

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