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杉江弘「機長の目」

羽田新飛行ルート、住民に深刻な騒音被害…国交省が約束反故、危険な進入角度で事故の懸念

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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 私もパイロット時代には、川崎の石油コンビナートは3000ft(約1000m)以下は飛行禁止ということをいつも頭に入れてフライトをしてきた。理由は、万が一事故になったら低空では海上に出る余裕もなく大惨事になるからだ。このような飛行禁止の条件を変更するのならパイロットにも十分合理的な説明が必要であるが、ただ単に事情が変わったというだけでは説得力はないだろう。

 参考までに、1970(昭和45)年11月6日付の東京航空局長の東京国際空港長に対する通知(東空航第710号、以下「旧通知」という、甲2)は、その表題が「川崎石油コンビナート地域上空の飛行制限について(通知)」というものであり、次のような内容である。「航空機は、国土交通省令で定める航空機の飛行に関し危険を生ずるおそれがある区域の上空を飛行してはならない」(航空法第80条、同施行規定第173条)とする規定に基づく通知である。

「表記についてはすでに飛行制限を実施しておりますが、川崎市長から別添のとおり要望があったので、さらに制限を強化することとし下記により措置されたい。

1.東京国際空港に離着陸する航空機は、原則として、川崎石油コンビナート地域上空を避け、適切な飛行コースを取らせること。

2.東京国際空港に離着陸する航空機以外の航空機は、川崎石油コンビナート地域上空における飛行を避けさせるとともに、やむを得ず上空を飛行する必要のある場合は低高度(3000ft以下)の飛行は行わせないこと」

IATAとIFALPAの安全上の懸念にどう応えるか

 今年1月20日、世界の民間航空の業界団体であるIATAと、パイロット10万人以上で組織されるIFALPAは共同で、国交省が2019年夏に「騒音対策」と称して設定した3.45度のRNAV進入について安全上の懸念を訴えている。

 世界の大空港での進入角度は3.0度が標準で、今般の3.45度の進入は尻もち事故やオーバーランにもつながるおそれがある。日本の航空会社には、それを防ぐために最終進入(地上から1000ft以下)時に降下率は毎分1000ft以内と決めた「スタビライズドアプローチ」と呼ばれる運航規程が定められているのだ。

 しかし、この規定は降下角3.0度を基準に設定されたもので、3.45度(猛暑日は3.7度を超す)の急角度となるとボーイング777等の大型機での最大着陸重量下では、データ上すでに毎分1000ftを超えることになる。たとえば、気温が35℃ともなれば降下角は3.7度を超え、前述の条件で計算すると毎分1107ftとなり、国交省もこれを否定していない。

 このようにデータ上、進入を開始する前から運航規程違反の状態を認めることになり、行政当局としては失格であり、この点についても裁判所がどのような判断をするのか注目したい。

行政訴訟に至った理由と裁判の行方

 新ルート下に住む原告の方々が運用の停止を裁判所に求めた理由は、国が各議会での議論を不要として運用の強行に出たためだ。これまで品川区や渋谷区の区議会では全会一致で新ルートについて反対もしくは再検討を決議し、国に申し入れを行ってきた。しかし国は19年7月30日、新ルート関連の副区長を集めて騒音対策(真相は横田空域)として新たに3.45度のRNAV進入を提示した。

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