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杉江弘「機長の目」

羽田新飛行ルート、住民に深刻な騒音被害…国交省が約束反故、危険な進入角度で事故の懸念

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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 しかし、そこで異議が出されなかったとして当時の石井啓一国交大臣が実施を発表した経緯がある。このように一度だけは副区長の意見を聞いたかたちをとったものの、最初から専門的なRNAV進入について異議などを出されないことを想定し、聞くふりをしたポーズにすぎなかった。そして今年に入ってからは住民代表に対し、新ルートは行政の判断で自由に設定できる性質のもので自治体や住民側との協議事項ではないという主張を鮮明にしてきたのである。

 つまり国交省は聞く耳持たずで、一度決めたものは絶対に撤回はおろか修正も行わないという姿勢がより明らかになったといえる。国交省は、住民や自治体が議会を通じて意向を伝えても、IATAとIFALPAが安全上の懸念を表明しても、増便の理由に挙げていた2020年の東京オリンピック・パラリンピックが延期されても、さらには新型コロナウイルスにより国際線・国内線・貨物便の大幅減便という事態が発生しても、元の海上ルートには戻さず都心の上空を飛行させるという理不尽な運用を続けているのである。

 しかし、すでに予想をはるかに超えた騒音被害が出て、ルート下の住民の生命と財産が失われつつある。国が議会などを通しての話し合いも拒否する以上、残された選択肢として司法の判断に委ねざるを得なくなった。今回の行政訴訟はそのような状況の下で行われたものではないであろうか。

 では、今後この裁判はどうなっていくのか。

 おそらく国は公判の中で、管制方法や技術面での検討を行い住民の被害をより少なくするので訴えを却下してほしいとしてくるであろう。すでに6月に入って突然、赤羽一嘉国交大臣が2013年以来一度も開かれなかった有識者委員会を6月末までに開催して、本年度中にさらなる有効策を検討すると述べている。

 しかし、私も参加した6月5日のヒアリングにおいて、国交省の担当者は検討を行うとしながら、AとCの滑走路に北側から進入する方式とB滑走路を西(川崎側)に離陸させる経路はこれまで通りと明言した。

 これではいったいなんのための有識者委員会の開催か、わからない。単なるポーズであり、しかも検討期間が今年度中というのだから、2021年の夏ダイヤからの変更と受け取られても仕方がない。国交省の意図は明らかに引き延ばしと微調整で裁判を乗り切ろうとするものであろう。この際、裁判官はルート下の実況見聞も行って、早期の運用停止の判断を期待したい。

(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

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