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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

“新型うつ”、医師の間でも判断分かれる…強い他者非難・他責傾向、休職し復帰を極力後回し

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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「Getty Images」より

 今年は例年とは違ったかたちで新年度が始まったので、いわゆる“五月病”も少し違ったかたちで表れているようである。あるいは、他者に認識されないかたちで密かに進行しているのかもしれない。新入社員などは、まだ具体的に配属されておらず、宙ぶらりんな状態に置かれたままの企業も多いと聞く。通常の環境変化とは異なる様相で、不安や疲労が蓄積しているに違いない。

 五月病と似た症状で、やはり職場に起因するメンタル上の疾患として、“新型うつ”というものがある。五月病よりも回復まで長引く傾向にあるという。症状としては、「職場では無気力になり、うつ症状が出るが、趣味や遊びでは活動的になる」というものだ。自分の好きなことを楽しんでいると症状が軽くなる。新型うつという言葉をあえて当てなければ、単なる怠け者とも取れるような症状だ。

 仕事よりも趣味や遊びのほうが楽しく、イキイキとするという状況は、多かれ少なかれ、誰しもあるであろう。金曜日の夜よりも、月曜日の朝のほうが元気な人はそう多くはないのではないであろうか。しかし、仕事である以上、相応の責任感を持ち、皆、役割を全うしている。少しでも楽しくできるよう、仕事の意味ややりがいを見いだしつつである。しかし、新型うつの場合、一向にやる気はでない。

新型うつの特徴

 ある調査では、医師の側としても、「病気として対処するかどうか」に関して賛否両論あるようであり、医療側が引き受けて解決する問題なのか、いまだコンセンサスが取れていないようだ。新型うつというのも正式な病名ではないので、いわゆる“新型うつ”という表現をされる。

 新型うつの主な特徴として、(1)自らうつであることを主張する、(2)他者非難、他責傾向が強い、(3)職場復帰を極力後回しにする、といった傾向が指摘される(精神科医・吉野聡氏)。普通に考えれば、こういうタイプの人はうつになどならないと思いがちかもしれない。なぜなら、従来型のうつは、まじめで責任感の強い人がなりやすいとされているからだ。しかし、新型うつは異なる。従来型うつが「自分が至らないせいでこうなった」と自責的であるのに対し、新型うつは「自分がこうなったのは他人のせいだ」と他責的であるという。

 当然ながら、職場の他メンバーとの関係性にも問題が出てくる。私生活は活発でSNSにはリア充ぶりをバンバンあげており、誰よりも健康そうに日焼けしている。その一方で、会社では無気力でやる気がない。挙句には、診断書を提出し、会社批判や職場批判をし、「あなた方のせいで自分はこうなった」と言わんばかりに堂々と休職をする。上司はじめ、同僚たちも心穏やかではないのも無理からぬところであろう。

 ある週刊誌の取材によると、「“新型うつ”の患者は大企業と公務員に多い」と、専門医たちが口をそろえるという(「週刊現代」<講談社/2012年6月30日号>)。この記事では都内で産業医を務める精神科医が、公務員の実情をこう明かしている。

「大きな会社や公務員、つまり療養の制度が整っている職場ほど、新型うつが多いのです。たとえば、休職しても数カ月は100%の給料が出る。その後も数年間に及び、給与の8割程度が何らかの形で支給される。また、復職して一定期間が経過すると休職実績が一度クリアされて、また長期間休むことができる場合も多く、ほとんど働かずに給料がもらえる実態もあるのです」(「週刊現代」より)

 生活保護の不正受給と同じような構図があると指摘する。

職場で増加する「他責傾向」の人

 新型うつのような症状が一つの典型だが、そこまでいかなくとも、職場において、自分の失敗を周囲のせいにするという行動傾向、いわゆる「他責傾向」は昨今多く見られるようになった。「自分がうまくいかないのは、自分以外の誰かが悪い、あるいは何かが悪い」という思いを抱く人が増えているのだ。

 あるIT企業の職場では次のようなことがあった。10名ほどのチームの中では、ベテランに入る30代後半のメンバーX氏が他責の傾向が強く、ネガティブな発言が目立ち、職場の雰囲気が悪くなって困っているということであった。どうやら、2年ほど前に、同じくらいの年次のメンバーが次々に重要な役割を与えられた頃から、この傾向が特に顕著になったということだった。「どうやら被害者意識を抱いているようなのです」と上司も語っていた。

 プロジェクトの中でも貢献度が低く、後輩メンバーたちの足を引っ張っている状況だが、X氏は「やることはやっている」「他のメンバーが見落としている点もしっかり見てやっている」「世話が焼ける」などとよく言っていたという。トラブルが起きれば、「こうなるような気がしていたんだ」とか、「そもそも当初の見込みが甘かったんだ」「自分がリーダーをやっていればこうはならなかった」と、まるで他人事だったという。

 幸い、このチームの他のメンバーたちは自律性が高い人が多く、X氏に影響されることはなかったが、当人はますます面白くなく、よりいっそう孤立感を強め、ネガティブな発言にも拍車が掛かってしまっていた。リーダーも扱いに苦慮していた矢先、X氏は心療内科の診断書を提出し、さんざん捨て台詞を言った挙句、休職に入ったという。現在は、つかの間の平穏な日々が送れているということだが、復職後のことを考えると頭が痛いという。

 この例の場合、誰も影響されることなく、X氏のひとり相撲で終わったから良かったが、そういうケースばかりではない。職場全体に影響を及ぼし、職場風土を崩壊へ向かわせてしまいかねない重大な問題だ。

「エンゲージメント」と相反

 精神科医の片田珠美氏は、他責傾向が強い人の特徴として、「自己愛」の強さをあげている。自己愛が傷つかないようにして心の平安を保つには、誰かのせいにしないではいられないという。うまくいかなかったことに対して、あるいは自らの不遇な境遇に対して、自分の能力や努力のせいにすることはなく、他人や環境など、自分以外の何かに責任を求めるのだ。この他責傾向が、新型うつの発生と相俟って、増加傾向にあるようなのだ。

 では、なぜ自己愛が強まっているのか。これについては諸説あるが、職場について見た場合、個人の成果が重視されるようになり、皆が内向きになったことが挙げられるであろう。また、職場全体に余裕がなくなり、失敗が許容されづらくなったことも大きいと考えられる。こうした状況の中では、個々人はできるだけ失敗しないようにチャレンジを避け、失敗しても自らの責任とはならないように、なんとか自己正当化を試みる。社会全体として見れば、「インスタ映え」などに見られるとおり、SNSによるナルシスト化が自己愛傾向に拍車をかけていると見る向きもある。

 このように、新型うつに典型的に見られるような、職場における他責傾向が強まることは、たいへん危険な兆候である。いま企業内で盛んに言われている「エンゲージメント」、いわば、組織や成果に強くこだわる姿勢と相反する方向であり、直接的に阻害する要因となる。成果や生産性の面からも、また一人ひとりの働きやすさの面からしても、極めて大きな問題である。

 職場としてできることとしては、妥当なチャレンジによる失敗は許容するなど寛容性を高めること、成果は厳しく求めるものの、互いに助け合う、厳しくも温かい濃密な文化を醸成することがまず考えられる。そしてなによりも、一人ひとりの自律性を高め、組織としての自律性を高め、大人による大人の組織を実現することである。

 そのためには、他責思考を排除するような方向、たとえば“自分ゴト化”等の価値観を共有し、それに反する子供じみたネガティブな態度には厳しく対応する必要があるであろう。先に引用した週刊誌の記事にも、新型うつの症状を訴える社員に対し、厳しく対応し退職勧奨をしたところ、途端になおったという事例が紹介されていた。

 近年、ハラスメントとなることを怖れて、上司が毅然とした態度が取れない状況がまま見受けられる。しかし、自律性を高めるうえでも、各人任せにしていればよいというわけではもちろんない。共通の価値観を周知し、指導することは必須であり、時として厳しい態度も必要なのである。

(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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