新型コロナウイルス感染症の拡大に対する対応や、世間の心ない中傷などで疲弊する医療現場。そんななか、東京女子医科大学(東京都新宿区)で看護師職などの夏季賞与がゼロとなったことが波紋を広げている。その結果、同医科大の関連病院の看護師職の約400人が退職意志を示しているというのだ。
400人辞めても「補充すれば良い」
東京女子医科大理事会は経営赤字を理由に、教職員の今年度の夏季一時金をゼロとすることを同大労働組合に通達した。25日、組合は理事会の代理人弁護士と団体交渉を行った。6月29日に発行された同労組の「組合だより」には、この団交での容赦のない経営陣の主張が赤裸々に綴られていた。以下、引用する。
「組合)女子医大より減収額が多い大学でも一時金は出ている。
●減収と赤字は標念が違う。うちは約30億の赤字だ。その大学はどの程度の赤字ですか?黒字かもしれないでしょ。
組合)中小病院も赤字で苦しんでいる。それでも職員のことを考えて借りてでも何とか一時金を支給している病院もある。
●女子医大も借りてでも支給せよということですか?そんな不健全な経営は間違っているし、やるつもりもない。
(中略)
組合)看護師の退職希望者の予想数が400名を超えると聞いたが、そのことに対してどう考えているのか
●深刻だとは思うが、足りなければ補充するしかない。現在はベッド稼働率が落ちているので、仮に400名が辞めても何とか回るのでは、最終的にベッド数に見合った看護師を補充すれば良いこと。申し訳ないが、これは完全に経営の問題であり、組合に心配してもらうことではない。 組合員の労働条件の問題ではないので交渉の議題ではない。今後の患者数の今後の患者数の推移を見ながら、足りなければ補充すれば良いことだ」(編注:●は理事会代理人の発言)
「医療スタッフ、チームは一朝一夕では育成できない」
果たして労務担当として、以上のような発言は適切だったのか。この『組合だより』を読んだ東京女子医大の現役医師は憤る。
「正直、『組合だより』を見て驚愕しました。まったく、現場のことがわかっていない発言です。看護学校を出たばかりのナースが、正規のチームの一員になるまでいったいどれくらいの時間がかかっていると思っているんでしょう。個人の職務経験だけではなく、各医局での人間関係やチームワーク、信頼関係なども含まれるのです。医療現場は工場ではなく、ただ人を補充すれば回るわけではありません。
理事会の理事はほぼ本学の医師出身です。ある程度、現場の苦労はわかっていると思うのですが……。どうしてこのような発言をする方に代理人を任せているのか甚だ疑問です」
今年完成の新校舎に理事室移転で6億2000万円
別の看護職員は次のように漏らす。
「我々の努力不足やコスト削減意識が不十分で赤字になったのなら、まだわかります。しかし、赤字の原因はそもそも大学のおかしな経営ではないのでしょうか。理事会は今年4月、理事室の移転改修工事を承認しました。予算は6億2000万円です。理事室を本部棟から、今年整備された新校舎・彌生記念教育棟に移転させるというものです。
そもそも新校舎を建設するのにあたり、なぜ最初から理事室の移転が計画に含れていなかったのでしょうか。業者に言われるがまま、なし崩し的に6億円ものお金を自分たちの部屋につぎ込んでおきながら、30億円の赤字とはいったいどういうことなのでしょう。それでわたしたちのボーナスはゼロというのは、納得がいきません」
このままではただでさえ人員が不足しがちな医療従事者が、大量に現場を去ることになる。「医療従事者に感謝の気持ちを」との政府の掛け声だけが、むなしく響く。
(文=編集部)