コロナ危機でスペースジェットM100が米国市場を独占できる可能性も
全世界のリージョナル・ジェットの航空機需要の約7割が、北米の需要である。スコープ・クローズは、大手航空のパイロット組合が、委託運航するリージョナル・ジェットの大型化が自分たちの職域を侵すと考えたためにつくられた。コロナ危機によって米国大手航空会社の人員整理がパイロットに及ぶのは必至であり、スコープ・クローズが緩和される可能性は遠のいた。
スペースジェットのライバルであるエンブラエルの新型機E175-E2は、この協定の重量制限を大幅に超えており、米国市場には適合しない。従ってこの協定が現状のまま続く限り、使用可能性のある新型機材としてはM100しかない。競合するエンブラエルの旧型機E170やE175は、燃費性能も大きく劣り魅力は薄い。もしM100が完成すれば、米国という最大の市場を席捲できる可能性を秘めているといっても過言ではない。
コロナ危機が招いたライバル エンブラエル社の挫折
エンブラエルはボーイングと「ボーイング・ブラジル-コマーシャル」という名称の商用機部門の合弁会社を設立する予定であった。これが実現すれば、エンブラエルのリージョナル・ジェットが強大なボ-イングの販売網に乗ることになり、大きな競争力を得て、三菱にとっての脅威になると見られていた。
ところが、折からのコロナ危機によりボーイングが自らの存続のための資金確保を優先せざるを得なくなり、結果としてこの新会社への42億ドルの出資計画を撤回してしまった。合弁が破談となったエンブラエルは新たなパートナーを模索中であるが、いまだ展望がみえていない。コロナ危機が三菱のライバルの勢いを削いだ格好だ。
スペースジェットがガラパゴス・ジェットにならないように
M90の確定発注機数の167機には米国スカイウエストの100機も含まれるが、前述の通りM90は米国では飛行できないため、実態は67機にしかすぎない。このままでは、戦後初の国産航空機YS11の生産数の182機にも遠くおよばない。つまり、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)を中心に日本で100機程度しか運航しないガラパゴス・ジェットとなりかねない。
三菱がなすべきことは、コロナ危機下の航空業界を模様眺めしているのではなく、とにかくM90の型式証明を1日も早く取得することだ。そして、米国スカイウエストからM100への切り換え製造の要請を取り付け、可能な限り早くM100をローンチすることである。ピンチは、チャンスである。
(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学客員教授)