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小池都知事、圧勝の裏で“非情な裏切り”…自身の元秘書の選挙に“協力せず”落選させる

文=小川裕夫/フリーランスライター
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小池百合子氏の公式サイトより

 7月5日に投開票された東京都知事選は、現職の小池百合子都知事の圧勝で閉じた。再選を目指していた小池知事は、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、人が多く集まる街頭演説などをいっさい実施せず、オンラインの活動だけにとどめた。3密を避けるという大義名分があるので、理にかなっていると思われるが、これは現職だからこそできる公職選挙法の欠陥をついた巧みな選挙戦術といわざるを得ない。

 公職選挙法は、候補者を平等に扱うことを求めている。今回の都知事選は史上最多の22人が出馬した。尺や紙面の制約もあり、テレビや新聞は全候補者を詳細に紹介することはできない。そのため、メディアは主要候補と泡沫候補に分別し、主要候補は仔細に紹介する一方で、泡沫候補は名前の紹介だけにとどめる。これで、全候補者を平等に扱っているという体裁を保っている。

 しかし、現職はこのシステムの欠点をつくことができる。メディアは候補者を平等に扱うという建前があるため、主要候補である現職知事が選挙活動をしなければ、ほかの候補がいくら選挙活動に力を入れても、その動向を報じられなくなる。そして、とたんに選挙は話題性や盛り上がりに欠ける。

 一方、選挙報道がなくても、現職知事は公務をこなすことで動向を報じてもらえる。小池知事も選挙期間中に毎日のように新型コロナの新規感染者数の発表をしていたが、知事が自ら発表する必要はない。

「大阪府の吉村洋文知事もそうでしたが、カメラの前に現れてコロナ対策を話すだけで、有権者に“がんばっている”という印象を与え、票をとることができるのです。小池知事の場合は選挙期間中、こうした公務が実質的に選挙活動になっていました。しかし、これはあくまでも公務ですから、テレビは小池知事の動向だけを報じます。選挙報道ではないので、候補者を平等に扱うという建前にも抵触しません。現職は、公務を利用していくらでも選挙活動ができるのです」(都庁詰めの記者)

 これによって、小池知事はメディアが他の候補者たちの動向を報じることを防いだのだ。

天風氏は5位中4位で落選

 しかし問題は、小池知事が率いる都民ファーストの会の選挙だった。都内では知事選と同時に、都議補選は北区や大田区など4つ選挙区で都議選の補選が実施されていたが、すべての選挙区で自民党が勝利を収めた。

 これら4都議補選のうち、事前の注目度が高かったのは5人が立候補した北区だった。立候補した自民・立憲・維新・都ファ・ホリエモン新党の5人は全員女性。それだけでも注目される要素が多いが、なかでも都ファが擁立した候補者の経歴が注目を浴びた。

 天風いぶき候補は、小池知事が衆議院議員だったときに仕えた元秘書で、その名前からも想像できるように元タカラジェンヌでもある。宝塚歌劇団の宙組で男役を演じた天風氏は、両親ともに国会議員秘書を務めていた。そうしたことから政治的な関心は高く、宝塚退団後に議員秘書に転身。そして、今回の都議選に出馬した。

 小池知事の元秘書には、現役の都議で知事の懐刀として小池都政を支える荒木千陽都議もいる。今回、都議補選に出馬した天風氏は荒木都議とともに小池知事を支えていくという意気込みが強かったことだろう。しかし、天風氏は5位中4位で落選。天風氏よりも得票が少なかったのはホリエモン新党から出馬した新藤加菜氏で、地盤のない北区では勝ち目は薄かったことは新藤氏も認めている。

 実質的に北区都議補選は自民・維新・立憲・都ファの4候補による争いだったわけだが、今回の結果が、都ファ関係者に大きな衝撃を与えているという。

「小池知事はコロナ対応を理由に選挙活動をしないと事前に表明していました。それでも勝てるからいいのでしょうが、都議補選の天風氏は新人候補です。いくら小池知事の元秘書という輝かしい経歴があっても、それを有権者に知ってもらえなければ意味がなく、そのためには小池知事のサポートが何よりも重要になります。それなのに小池知事は天風氏の応援に非協力的だったのです」(都ファ関係者)

 選挙最終日、天風氏は北区の繁華街・赤羽駅東口で街頭演説を実施した。そこに小池知事は現れず、録音したメッセージだけが流された。これでは、多くのギャラリーを集めることは難しく、票につながらない。都民ファの組織力だけで補選を戦うしかなかったが、2017年に結成されたばかりで都民ファには顔が知られているスターが不在。足を止めて演説を聞いてくれる人は少ない。

 そこで天風氏は応援演説に元タカラジェンヌの仲間を呼ぶことに徹したが、それほどの訴求力はなかった。

「やはり小池知事に足を運んでもらって応援の演説をしてもらわないと人は集まりませんし、盛り上がりに欠けます。何より選挙対策本部の士気にもかかわります。自分の選挙活動をしないのは自由ですが、都ファは自分が立ち上げた地域政党です。小池知事を慕っていた議員もたくさんいます。そうした所属する議員の面倒をきちんと見るのが大人というものです。天風氏は都ファから出馬した単なる候補者なのではなく、長らく仕えてきた元秘書です。本来なら一緒に街頭演説に回って、少しでも彼女の票を増やそうと奮起するのが人の上に立つ者の責務ですし、人情ですよ」(前出・都民ファースト関係者)

 一方、自民党の候補者は北区議を4期も務め、地元での知名度・実績は抜きん出ていた。立憲の候補者も元区議で、地元ではそれなりに知られた存在だ。新人の天風氏にはかなり手強い相手でもあった。

 そして、天風氏は自民や立憲の足元にも及ばないどころか、維新にも後塵を拝した。維新は新人候補を擁立したが、都知事選に立候補した小野泰輔候補と一緒に北区内を回った。都知事選の候補者と回ることで、維新の新人候補は多くの票を掘り起こしている。

揺らぐ都議会での基盤

 維新にも負けたことが都ファに大きな影を落とす。国会議員時代の小池知事は傍若無人な振る舞いで次々と政党を変えた。大物議員に可愛がられ、用済みと判断すればすぐに距離をとった。そして、自分を引き立ててくれる新しい議員に乗り換える。それを頻繁に繰り返した。その様から、永田町で“政界渡り鳥”と揶揄されてきた。

 そうした性格は、知事になっても変わっていない。小池知事誕生の立役者でもあった若狭勝衆議院議員(当時)や音喜多駿都議(当時)などは、あっさりと使い捨てされた。小池知事が非情で冷酷な性格であることは関係者の間でも知られている。

 今回、都議補選の裏で起きた元秘書への不義理が尾を引くことになりかねない。のちのちまで禍根を残せば、都ファが来年の都議選をまともに戦うのは難しくなるだろう。都ファから離反者が相次ぎ落選者を多く出せば、小池知事の求心力は一気に弱まる。都政運営は思うように進まなくなるだろう。それは、知事の立場を危うくすることにもつながる。

“女帝”として権勢を振るう小池知事だが、その冷酷さが自身を滅ぼすことになるかもしれない。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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